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高校生編side晴人 たくさんの初めてを君と

95.昔話

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「ハルとレンが3歳くらいの頃、憲人から相談されたんだよ。『蓮君が何にも興味を示さない』って。」

それは俺が知らなかった事実だ。

「陽子ちゃんが心配しててなぁ。じいちゃんは仕事柄、もしかしたら役に立てるかもしれないと思ってフランスに来てもらったんだ。」

記憶は無いけど、3歳ごろフランスで撮った写真に蓮が一緒に写ってるのはそんな理由があったのか。

因みに、じいちゃんはカウンセラー。

そりゃ蓮母も相談したくなるよね。

「レンは本当に、周りが何を言っても何をしても無反応だったよ。だけど暫く観察して分かった。
レンは『周りを見てる』んだとね。
だから陽子ちゃんに言ったんだ。『突然話したり、大人顔負けの行動を取るかもしれない』って。」

そして帰国後すぐ、蓮は『計算』を披露して切藤家を驚愕させたらしい。(これは翔君から聞いた事ある。)

「それから突出した能力の高さを発揮していったんだけどね、どうしても『人の感情』に関心が持てなかったんだ。それで、今度はじいちゃんが日本に行った。レンが4歳の時だよ。」

それも写真に残ってる。


「聞いてた通り、蓮は多少話すようになったものの、誰の言葉にも興味を持ってない様子だったよ。じいちゃんも手を尽くしたんだけど、どうにもできなくてなぁ。後ろ髪引かれる思いでフランスに帰る事になった。それで、空港に見送りに来てくれた皆んなに別れを告げたらハルが泣き出したんだよ。
それはもう可愛くてなぁ。」

じいちゃんはデレッとして俺の頭を撫でる。

記憶にございませんが、昔からじいちゃん大好きっ子だったんだろう。

「その時だよ。レンがハルの方をじっと見て首を傾げた。その瞬間はじいちゃんしか見てなかったし、どんな意味かも分からなかったけど、一つの可能性を見つけ気がしたんだ。だからこう言った。『なるべくレンとハルを一緒にいさせるように』とね。」

それから暫くは変化が無かったらしい。

「だけど、5歳の時突然レンがハルを構い出したんだよ。ハルと一緒に寝て、ハルが泣くと助けに行くようになった。そこからはぐんぐん感情が育っていってなぁ。まるでハルがレンを導いてくれたみたいだった。」

俺が…?導けたのかなぁ?

それも記憶にございません。

覚えてるのは、『大丈夫』って言って一緒に寝てくれた蓮の存在だけ。

「今では笑ったり照れたり色んな表情を見せてくれるようになった。じいちゃんはそれが嬉しい。
…これはあくまでも推測だけどな、レンはその突出した能力故に、本能的に『真っ直ぐ自分を見てくれる相手』を探してたんじゃないかと思う。
側にハルがいたのは奇跡だよ。
だから、今もお前たち2人が仲良く幸せそうなのが見られて嬉しい。」

「…その幸せがさ、他の人にとってはそうじゃなくても?」

目を細めるじいちゃんを見て、胸の内の悩みが口を突いてでた。

「その…蓮は人気者だから…。俺がずっと一緒にいるせいで悲しむ人だっていると思うんだ。」

ふんわりさせて伝えたけど、きっとじいちゃんには俺が不安に思ってる事が分かっちゃうんだろうな。


「ハルのグランマ…エルザは美人だろう?それに気立てがいい。それに料理上手で思いやりがある!」

「う…うん?」

な、なんか突然惚気が始まったぞ?

「だからなぁ、若い頃それはそれはモテた。
恋敵達は、じいちゃんとエルザが結婚する事を頑として認めなかったよ。『よりによって日本人キイロかよ!』なんて差別的な言葉も浴びせられた。」

「そうだったの…?」

「まだまだ国際結婚が珍しい時代だったからなぁ。
それでも、じいちゃんはエルザを愛する気持ちは誰にも負けなかった。だから言ってやったんだよ。
『俺が世界一エルザを幸せにする!』ってな。」

「じぃちゃんカッコイイじゃん!」

「ふふ、じいちゃんも若くて血気盛んだったんだ。それを聞いた恋敵達は勿論烈火の如く怒った。
結局それは結婚してからも鎮火しなくてなぁ。
だけど、結婚して何年か経った時、嫌がらせも言葉での攻撃もなくなったんだ。」

「それは、周りの人がやっと諦めたって事?」

「じいちゃんもそう思った。だけどな、ある日恋敵だった一人に言われたんだよ。『君と結婚してエルザは幸せそうだ。あんな笑顔を見た事がない。どうか僕の初恋の人を頼む』って。」

まるで映画みたいだ。

「その人は小学生の頃からエルザを好きだったらしいんだ。だけど、エルザの幸せを確信して諦める決心がついたと言ってた。そこで初めて分かったんだ。恋敵達はそれぞれにエルザの幸せを願ってたんだって。だからこそ、得体の知れない日本人には渡せなかったんだろう。」

そうだったのか…。

「それを知ったじいちゃんがやるべき事は、自分だけが幸せになったのを後悔する事じゃない。
誰よりもエルザを幸せにする事が、恋敵達への誠意だと思わないか?」

「…うん。そう思う。」

「じいちゃんを愛してくれたエルザにとっては、じいちゃんが幸せな事が自分の幸せに繋がると言ってくれたよ。だから、お互いに沢山の幸せを重ねていこうと誓った。」

優しく笑うじいちゃんは、今も幸せそう。

「長い昔話になったけど、じぃちゃんの言いたい事は伝わったかな?」

「…うん。ありがとう、じいちゃん。」

「それにな、幸せは一つ失っても、それで永久に終わりじゃない。」

「どう言う事?」

「その恋敵は今ではじいちゃんの親友だ。
それで、しょっちゅう孫娘の写真を自慢しに来るんだよ。」

「マジ⁉︎じゃあその人も今は幸せなんだね!」

「そうだな。少なくともじいちゃんにはそう見えるよ。…天敵だと思ってたのに、人生は不思議よなぁ。」

その言葉に、頭の中でミルクティー色が揺れた。

うん、そうだね。

不思議だけど分かる気がするよ。

「じいちゃん、ありがとう。なんかスッキリしたよ。」

「それなら良かった。さぁ、戻ろうか。」


二人で笑いながら家に戻ると、ランチはあらかた出来上がってた。

『✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎!』

「ベリーかな?ここにあるよ!」

『✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎?』

「うん、グランマのブルーべリーパイ好きだよ!」

身振り手振りでグランマと会話する。

分かんないのに、何か分かる。

やっぱり血が繋がってるんだな、なんて嬉しくなったりして。

笑顔のグランマが幸せそうで、じいちゃんは恋敵の皆さんとの約束を守ってるんだなって思う。

お互いの幸せのためにお互いを大切にして生きるって、なんか凄い素敵だよね。

俺もこんな風になりたいなぁ。


「おい、なに人の顔見てニヤニヤしてんだよ。」

頬を摘まれて、『こんな風になりたい』相手を無意識に見てた事に気付いた。

「なっ、なんでも⁉︎てかそれ蓮が作ったの?」

追求されないようにと急いで話題を変えたんだけど…マジで凄くない?

「下拵えは終わってたんだよ。俺はグランマの言う通りに仕上げしただけ。」

「だって蓮、料理しないだろ?それでこのレベルって…!才能ありすぎ!日本帰ったら父さんの手伝いは任せた!」

おだてて押し付けようとすんな。
あ、コラ!食うなバカ!」

「んまー!蓮天才!お願い、もう一個!」

怒られるかと思ったけど、蓮はすんなり俺の口に入れてくれた。

それを見てグランマがニコニコしてる。

じいちゃんは何か意味ありげな顔だ。


え!もしかして!

蓮が照れてるのか⁉︎と思ってパッと顔を確認したら…。




何だか胸がいっぱいになった。




幸せそうな笑顔が、そこにあったからーーー。








●●●
今回晴の不安を拭ってくれたのはじいちゃんでした。孫たちの幸せを心から願ってます。


























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