【完結まで残り1話】桜の記憶 幼馴染は俺の事が好きらしい。…2番目に。

あさひてまり

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高校生編side晴人 たくさんの初めてを君と

94.祖父母の家

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修学旅行5日目。

今日はじぃちゃんの家に行く日だ。

「あの列車だな。行くぞ、晴。」

そう。蓮も一緒に。


蓮は自分の祖父母と上手くいってない。

『じゃあさ、蓮も俺のじぃちゃんの孫になればいいじゃん!』

小学生になったばかりの頃、蓮に祖父母がいないと勘違いした俺はそんな事を言った。

それで、テレビ電話する時も手紙を送る時も必ず蓮と一緒にして。

尤も、日本に来る度に俺と蓮のセットで会ってたじいちゃん達にとっては、既に2人とも孫みたいなものだったらしい。

勝手に俺が言い出した事だったけど、結果的にはほぼその言葉通りの関係になってる。

そんな訳で、蓮も一緒に行くのは当然の流れだったりして。


好きな相手と、外国で片道2時間の2人旅。

ちょっとドキドキしちゃうよなぁ、なんて思ってたんだけど…俺の心臓は今バクバク言ってる。

「あ、あの…蓮さん。この手何ですか?」

はぐれないように。」

そのためだけに恋人繋ぎする必要あるかね⁉︎

観光地とは全く縁のない方に向かってるから、日本人は見当たらない。

それをいい事に、蓮が大胆にも街中で手を握ってきて。

誰かに見られたらと思ってハラハラする俺とは対照的に、蓮は上機嫌。

「蓮、いくら日本人がいなくても目立つから…。」

「誰も気にしてなくね?」

ほら、と言われて周りを見渡すと…

確かに、誰も奇異な目で見て来ない。

それが同性カップルに寛容だからなのか、大変失礼な事に俺達が兄弟とかに見えてるのかは分からないけど。

それでも、日本ではまず有り得ない体験かも。

「今だけ。家近くなったら離すから。」

そう言われて頷いちゃったよ。

蓮の大きな手に包まれて、その温もり感じながら歩くのは凄く幸せで。

隠し切れずに思わずヘラヘラ笑ったら、蓮が空いてる方の手で俺の頬を撫でた。

「可愛い。キスしてぇ。」

「⁉︎」

「冗談。」

途端に離れようとする俺を見て笑いながら、蓮が握った手の力を強くする。

人前なのが嫌なだけで、別にキス自体は…なんてね!なんてね!

そんな風に浮かれてたら、2時間なんてあっという間だった。

名残惜しく思いながら蓮と手を離して、駅まで迎えに来てくれてるはずのじいちゃんを探す。

「ハル!」「じぃちゃん!」

同時に見つけて、迷わずその腕に飛び込んだ。

「久しぶりだなぁ!レン!ほら、おいで!」

後ろで見守りポジションだった蓮にも、じいちゃんは遠慮なくハグする。

「背が伸びたなぁ。もう憲人より大きいんじゃないか?」

「うん。182ある。」

「ねぇ、じぃちゃん。…俺のフランスの血は何処いったのかなぁ?」

「うーん…じぃちゃんの血が濃かったか?
色素方面に躍起になってる感じだなぁ。」

「や、やっぱりそう思うよね⁉︎
4分の1の仕事してくれないんだよ!」

俺達の会話を大笑いして聞いてる蓮は楽しそう。

うんうん。蓮の笑顔を引き出すとは、流石じいちゃんだ。



車に乗って10分すると、水色の屋根の懐かしい家が見えて来た。

ドアの前にいるのは…

「グランマ!」

急いで走り寄ると、パワフルなグランマは弾けるような笑顔でハグしてくれた。

「ハル!」

そしてすかさず蓮を引っ掴む。

「レン!!」

「ぐぇっ!グランマ、久しぶり!」

『✳︎✳︎!✳︎✳︎✳︎!』

「『会えて嬉しいわ!私の可愛い孫達!』だって。」

「ほぉ!蓮はフランス語分かるのか!」

「日常会話程度ならね。憲人さんに習った。」

「いやぁ、アイツ教えるのは素人だろう。それで話せるようになるなんて大したもんだ!」

「別に普通じゃ…」「そう!蓮ってば凄いんだよ!学校行く前のちょっとの時間に父さんに習ってただけなんだから!」

俺が自慢げに言うと、じいちゃんが苦笑した。

「何でハルが威張ってるんだ?」

「ほんそれ。」

ペシッと蓮に額を叩かれる。

「アテッ!だって蓮が誉められんの嬉しいじゃん!」

あれ、二人とも動きが止まったけど何で?

「……あっそ。」

「うん、そうかそうか。なら良し!」

ぶっきらぼうな蓮と、満足そうなじいちゃん。

何?謎なんだけど。

「さあ、入った入った!お茶にしよう!」





日本からのお土産を渡して、その後はずっと喋りっぱなしだった。

グランマは日本語が苦手で、俺はフランス語が苦手。

だけど、二人も通訳がいるから会話できる。

蓮がフランス語を覚える気になってくれた事に感謝だよ、本当。


剣道部を辞めた事も伝えたけど、じいちゃんもグランマも深くは突っ込まないでくれた。

それで、2人は蓮にも質問攻めして。

タジタジになってる蓮が新鮮で笑っちゃったよ。

でもさ、俺達2人を孫だって思ってくれてるって事だから嬉しいよね。


『そろそろランチね!』

ひとしきり話終わると、グランマの号令でそれぞれ動き出した。

じいちゃんと俺は裏の畑にバジルとかベリーを取りに。

グランマと蓮は調理班だ。



「じぃちゃん、コレ採っていい?」

「うん。甘そうだなぁ。」

「…あのね、じいちゃん。剣道部の事なんだけど…。」

じいちゃんには知ってて欲しくて、辞める事になった経緯を話した。

「そうか、大変だったなぁ。それでも前を向いてるハルは偉い。話してくれてありがとうなぁ。」

頭を撫でられて、その優しさにホッとする。

「じいちゃんはさ、俺が何言っても受け止めてくれるよね。それってオーバー60にならないと身に付かない能力?」

冗談めかして笑う俺に、じいちゃんはキョトンとする。

「何で?ハルもやってる事だよ?」

「…え?」

「レンに対していつもそうだろう。だから、レンはハルの前だと良く笑う。」

「いやいや!俺、蓮にかなり文句言ったりしてると思うよ?」

「『受け入れる』のと『言いなりになる』のは違うんだよ。ハルは蓮の考えや思いを尊重して、それから自分の意見を言える。」

「…そうかなぁ?でもさ、それって皆んなやってる事なんじゃないの?」

「そうだったらいいんだけどなぁ、なかなか難しいんだよ。特に、蓮のような相手にはね。
人間はね、自分より優秀な人間を前にすると自分の意見を言うのが難しくなる。
それに、その相手に感情がある事を忘れてしまうものなんだよ。『この人がそう言うならそれが正解なんだろう』ってね。そこにどんな思いがあるのかを自然に無視してしまうんだ。」

前に啓太が、サッキーがこんな事言ってたって少し話してくれた内容に良く似てる。

「だけど、別に意識してそうしてる訳じゃないし…。」

「だから凄いんだよ。ハルはレンに対して自然とそうしてる。レンはハルの側にいると心地いいだろうなぁ。それに、褒め上手だし。」

「どう言う事??」

「蓮にとってほとんどの事は『できて当たり前』なんだよ。だけど、ハルは純粋にそれを凄いって言えるだろう?」

「それは…だって凄いし。あ、でもさ、蓮がじいちゃん達といる時楽しそうなのは、2人も蓮の事『できて当たり前』なんて思ってないからって事?」

フランス語の事も褒めてたもんね。

「それもあるかもしれないけど…ハルには叶わないよ?」

「うん?」

「『自分が褒められるのを、ハルが我が事みたいに喜んでくれる。』さっきのレンの照れた顔見ただろう?」

え、あれって照れてたの?

顔は良く見えなかったけど…。

「ハルが自分の心に寄り添ってくれる事が、蓮にとって一番嬉しい事なんだよ。」


そうなの?本当に?

俺の頭の中は疑問でいっぱいだ。

でも、その言葉は俺の胸を暖かくする。


もしかしたら、俺が蓮にしてあげられてる事があるのかもしれない。









●●●
祖父母編は次回で終わります。















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