【完結まで残り1話】桜の記憶 幼馴染は俺の事が好きらしい。…2番目に。

あさひてまり

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高校生編side晴人 たくさんの初めてを君と

88.変わらないものともう一つの異変※

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思いっ切り泣いて少し落ち着いた俺は、切藤家のリビングで暖をとってる。

手触りがいいブランケットに覆われて床のラグに座ると、蓮が後ろから包み込んできた。

マグカップに入ったホットチョコレートを俺に持たせて、その上に自分の手を重ねる。

「ん、だいぶ温まったな。」

床暖房とブランケットと蓮の体温でちょっと眠いくらい。

「それ飲んだら送ってく。」

「あ…ストームグラスって蓮の部屋にある?」

まだ離れたくなくて、クリスマスにあげたプレゼントの話題を振った。

「俺の部屋にあるけど、入るのはダメ。」

「え、何で?」

「あー…お前が俺の部屋にいるって事象がヤベェから。」

「どう言う意味?」

「理性が限界突破するからダメってこと。」

はて?

「えっと、部屋には入っちゃダメって事?
じゃあさ、ここに泊まるのはいい?」

リビングならいいかなと思って蓮を見上げる。

「はぁ…それもダメ。」

深い溜息と共に断られて口を尖らせる。

我儘言っていいし甘えていいって言ったのに、何でだよ。


「…俺、今日は蓮と一緒に寝たい…。」

でも、ダメなんだよな?

そう思って見ると、蓮はピシリと音がしそうに硬直してる。

「どうした?…ぎゃっ!」

意識確認のために目の前で振った手を、急にガシッと掴まれた。

「…俺が…そっち行くから…!」

「家に来てくれんの?あ、待って!まだそれ飲み終わってないんだけど!」

俺の抗議をスルーしてマグカップを取り上げた蓮に、半ば追い立てられるようにして切藤家を出た。

バイクをかっ飛ばして、秒速で萱島家へ到着。

歩いて10分かかんないのに、蓮ってばよっぽどバイク乗りたいんだなぁ。




家では父さんが待っててくれて、遅い夕ご飯を食べた。(黙って出て行ったのは謝ったよ。)

それからお風呂に入って、俺の部屋で蓮と一緒にベッドに寝そべる。

「なんか、蓮が隣にいないと落ち着かなくなりそう。」

ここ数日の添い寝回数を思って笑いながら言うと、蓮がベッドに突っ伏した。

「どしたの?」「…早く寝ろ。寝てくれ。」

強制的に寝かし付けられると、意識がぼんやりしてきた。

3.141592653589793238462643383279…

隣からずっと数字の羅列が聞こえてた気がするけど、羊を数えるみいなものだったんだろうな。

やっぱ頭いい奴は違うよね。





翌日、蓮のお陰で随分スッキリした俺は啓太に全てを話した。

啓太は多分ショックを受けてたと思うけど、それでも表に出さずに俺を気遣ってくれて。

『退部じゃなくて休部にして欲しい。』

いつでも戻って来いよって言うメッセージを言外に受け取って、涙が溢れないように頷くのがやっとだった。


それから全ての事情を知る顧問の大山先生と面談をして。

先生からも『休部』を提案されてそうする事にした。

部員の皆んなには先生から(事件の事は伏せて)説明してくれるらしいのでお願いする。

自分を追い立てた結果、驚く程の早さで手続きが終わった。

本当は辛くて、悔しい。

だけど、迷ってるうちにも時間は過ぎてしまう。

大会目前の部員の皆んなに迷惑かけないためにも、早めの決断が必要だったーーー。




その後、どうしても授業に出る気分になれなくて旧校舎の屋上に向かった。

そこの鍵は代々特進クラスに受け継がれてて、先生も来ない『秘密の部屋』らしい。

ドアを開けると、その事を教えてくれた人物がいた。

「いらっしゃい。」

笑顔で迎えてくれたサッキーが、電子タバコを手にニヤリと笑った。


「本当にさぁ、大変だったね。」

サッキーにも全部話したら、彼はこう言った。

「晴人君、周りの事考えるのは偉いけどさ、もっと当たり散らしていいと思うよ?
自暴自棄になってもおかしくない案件なんだから!!
ほら、俺が悪い事教えちゃう!」

差し出されたのは、電子タバコ…。

一瞬迷って、手に持ってみる。

恐る恐る咥えて、そしてーー。

「ゲホォッ!!」

吸う事なく咽せた。

「ダ、ダメだ!無理!やっぱり自暴自棄とか向いてない!!」

咽せて涙を流しながら言うとサッキーが笑う。

「うん、そうだね。」

背中をさすってくれる手に、俺が泣けるようにしてくれたんだと察した。

今なら、タバコのせいにできるから。

「楽しい事探そうよ。放課後俺と遊んだりさ。」

その言葉に、煙が目に入ったふりして目元をゴシゴシ擦った。










『3回戦敗退!』

大会当日、啓太からのLAINに『お疲れ様!』と返すと、また何か送られて来た。

それは動画で。

『晴人もお疲れ!!』

『負けたぞー!予想通り!』

『俺は勝ったぞー!』

中央の啓太が竹刀を真っ直ぐ構えて、周りの皆んなが一人ずつコメントしながら自分の竹刀の先をそこに合わせていく。

『後日お疲れ会するから、晴人も来いよ!』

『部活にもいつでも来い!待ってる!』

その後も続いて、全員が終わった所で啓太の手元ががアップになった。

そこには『萱島』の印字。

俺の竹刀だ…。

『俺たちは仲間だ!!』

全員の声が揃った所で、『ハイ!オッケー!』って大山先生の声と共に動画が停止した。




ーーーはぁぁ、もう!!!!

部活の皆んなが大好き過ぎて涙が止まらない。


『剣道』を通して仲間になった俺達だけど、それが無くなっても続いていくんだーー。

『皆んなと出会えて良かった!ありがとう!!』

その返信が、俺の思いの全てだった。

それから相棒にはこう送る。

『俺の結婚式のスピーチは任せた!』


失ったものはあるけど、変わらないものもある。

それを深く知った高一の冬だったーー。















さて、季節は巡って3月。

もうすぐ二年生に進級するなぁって頃、俺の身体にはもう一つの異変が起きていた。



ハッキリ言おう。


事件の後、俺はのである。


…さっきまで心温まる話だったのにごめん。

でもね、本当に困ってるんだよ!


最後に処理したのは蓮に『上書き』された時。

つまりそれから2ヶ月できてない訳で…。

どうしてそうなったのか分からないけど、ある程度触ると犯人に触られた感触を思い出して、怖くなってしまう。

そうすると、溜まる一方な訳で。

朝起きて絶望する事が度々起きてる。

さらに追い討ちをかけて来てるのが、2ヶ月後に控えた修学旅行だ。

このままじゃ宿泊先のホテルでも粗相しちゃうじゃん!!

こんな悩み誰にも言えず、でも何とかしなければと、珍しく家に誰もいない今、自分の息子と向き合ってる訳なんだが。

「…んっ…ハァ…」

気持ち良くはなる。

だけど、問題はここからでーー。

「うっ…やっぱ無理…!」

ゾワリとした感覚が甦って手を止めた。


どうして?どうしよう…。



ガタンッ


ぐるぐる考えてた俺は、突然の物音に驚いてドアの方を見つめた。

「あ…。」

立ち尽くした蓮が、目を見開いて俺を見てる。

当たり前だよね、他人のオナニー現場見ちゃったら皆んなこの反応だと思う。

それに対して『見られた側』は、怒ったり恥ずかしがったりするものなんだろう。

…そのはずなんだけど、悩み疲れてた俺はおかしくなってた。

だってさ…


「わぁぁん!蓮、どうしようぅぅぅ!!」


下半身丸出しのまま蓮に泣き付いたんだから。





●●●
晴人の発言に煽られまくった蓮は一睡もできませんでした。煩悩を殺す円周率。笑
翌日、晴人の一人行動が多いのは蓮が保健室でダウンしてたから。

未成年の喫煙はダメですね。
晴人は絶対そう言う事しないんですが、この日だけは別でした。辛かったんです。
結局吸わずに終わったけど、後日それを知った蓮が黒崎にガチギレ。笑

















































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