【完結まで残り1話】桜の記憶 幼馴染は俺の事が好きらしい。…2番目に。

あさひてまり

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高校生編side晴人 好きな人が、自分を好きかもしれない。

80.理解者

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「晴!メリクリ!」

12月24日、終業式を終えて家に帰るとリビングで明るい声に迎えられた。

「翔君!!」

夏ぶりに会うスーパーイケメンに、久しぶりに明るい気持ちになる。




あの日から2週間が経った。

帰り際の言葉通り、月曜日の朝迎えに来た蓮はいつも通りで、学校でも至って普通。

ただ、あんなにデートだって騒いでた啓太とサッキーが何も突っ込んで来なかったから、俺達が気付かないだけで何となくぎこちなさはあったのかもしれない。


変わった事があるとすれば…あれ以来、蓮が触ってこなくなった。

隙あらばキスしたり抱きしめてきたり、髪を撫でたりしてきてたのに。

せいぜい頭をポンポン叩かれる程度。


正直に言うと、凄く寂しい。


そんな事思う資格ないのにねーーー。





「翔君仕事休み?」

「そー。てか休み取った。イブに帰って来ないと陽子が煩いからさ。」

切藤家は個人主義なんだけど、クリスマスイブだけは家族揃って食事に行く。

フランス暮らしが長かった蓮母が、クリスマスに家族で過ごす事を重要視してるから。

欧米と日本のクリスマスに対する考え方って全然違うよね。


まぁそんな訳で、今日は蓮も我が家に寄らずに帰って行ったんだけど…。

「翔君、ここにいていいの?」

「蓮は衣装合わせあるから真っ直ぐ帰っただろ?
俺は午前中に済ませたからさ。」

クリスマスに蓮母がデザインしたタキシードとかスリーピースのスーツを着るのが切藤家男子の習わしらしい。

「せっかくだから晴の顔見てこうと思って。」

その言葉に、嬉しくてニマニマしてしまう。

「せっかくだし晴の部屋でゆっくりしたら?
リビングはこれからバタバタするから。」

父さんの提案に頷くと、紅茶を持って2階へ上がった。

うちは家クリスマスだから父さんは大忙しだ。

ごめん、後で手伝うからさ!




「晴、何かあった?」

部屋で近況を話してると、ふいに翔君に聞かれた。

「えっ?」

「元気ないだろ。何か悩んでる?」

流石は翔君、鋭い。

「もしかして蓮の事?」

「す、鋭すぎる…。」

落ち着こうと紅茶を口に含んでーー

「何?告白でもされた?」

「ゲフォッ!!ゴホッ…ゲフッ…!」

「えっ⁉︎マジ⁉︎」

咽せる俺に翔君が慌ててティッシュを渡してくれる。

「晴、本当に?」

誤魔化せる自信がなかて、顔が赤くなるのを自覚しながら頷く。

「そうか…遂に…。それで、晴は返事で悩んでるのか?」

「…うん。」

「蓮の事、そういう風には見れない?」

真剣な翔君は、少しも嫌悪感なんて抱いてなさそう
で…。


「聞いて、翔君。俺ねーーー」


あの日切り付けられた言葉を引きずりながら、それでも勇気を出して話す。


「俺、蓮の事好きなんだ…。その、恋愛的な意味で…。」

「…ッ……そっか……。」

目を覆って俯いた翔君に不安になる。

やっぱり『有り得ない』事なんだろうか。


「…ごめん、ちょっと…感動で言葉にならないわ…。」

「え?」

一瞬意味が分からずポカンとしてしまった。

「蓮が晴の事好きだって、俺は知ってたから…。
ずっと見て来たんだよ。」

そうか良かった、と呟く翔君の声が震えてる。

「…男同士で気持ち悪いとか思わない?」

「誰かにそう言われたのか?」

俺はデートの日に起きた事を話した。

「それでさ、蓮はそう言うのも覚悟して俺に告白してくれたんだよ。なのにさ、俺は少しもそんな事頭になくて…。先輩に何も言えなかったし、蓮にも何も言えなかった。」

蓮は「無理矢理迫った」って自分のせいにしてまで庇ってくれたのに。

どうしてあの時「無理矢理じゃない、俺も好きだから」って言えなかったんだろうーー。

好きなら、堂々と蓮の隣に立ってなきゃいけなかったのに。

そんな俺が、蓮を好きだなんて軽々しく言えないよーー。


「そうだったのか。うーん…人間の価値観って本当にそれぞれだからなぁ。ソイツが単純に偏見野郎の可能性もあるし、例えばだけど、男同士に対するトラウマがある場合も考えられるよな。」

え?

「例えばだぞ?痴漢されたとか、嫌な記憶。そう言うのがあると『男同士』に拒否反応が出てもおかしくないだろ?」

なるほど。

「後は、『恋愛対象が男なら自分もそう言う目で見られてるんじゃないか』って思っちゃうパターン。
自意識過剰極まりないけど、結構いると思う。
不思議だよなぁ。
『恋愛対象が同性』ってだけで、その人に好みとか理想とか『選ぶ権利』があるって事忘れちゃうんだからさ。」

眉間に皺を寄せる翔君。

「その先輩にも、何かしら事情があったのかもしれない。ただ、それはソイツの問題であって晴には預かり知らぬ所だろ?」

うん、確かにそう。

「だからさ、晴が気に病む必要なんて無いんだよ。
今度そう言う事があったらさ、TVとかで見るみたいに『あくまでも個人の見解です』って語尾に付けてみ?」

ちょっと戯けた翔君の言葉に従ってみる。

『男同士なんて有り得ない(あくまでも個人の見解です)』

うん、なんかちょっと軽い感じになるかも?

「現にさ、俺みたいに晴と蓮が付き合うの祝福したい奴だっているんだよ。
あと、親父も陽子も大喜び間違い無し!」

「え?」

「昔っからうちの親は晴にメロメロだからさぁ。
お嫁に来てくれないかなぁって本気で言ってる。」

「そ、そうなの?」

…そう言えば、父さんも蓮をお婿にとか言ってた事あったなぁ。
あんまり冗談っぽくない感じで。

「その先輩の事はもうほっとけって俺的には思うけどさ、もし晴が今後も付き合っていきたいと思うなら、ゆっくり時間かけて話したらいいと思う。
今回は突然目撃した訳で、相手もパニックだったかもしれないし。
晴の考えも、相手のバックグラウンドもお互い何も知らないだろ。
それで理解してもらえるとは言い切れないけど、やってみる価値はあると思わない?」

うん、そうかもしれない。

「それから、覚悟についての話しだけど。
晴が蓮の事好きだって自覚したのは最近?」

「…うん、夏頃。」

「なるほど。それじゃあ覚悟も何も決まってなくてもしょうがないよ。」

「え?でも蓮は…。」

「アイツは、もっと前から晴の事好きだったと思うよ。だから時間と共に覚悟が強くなって行ったんだろうな。」

蓮はいつから俺の事好きだったんだろう。

遥と蓮がいつ別れたのか俺は知らない。
遥を見送った日、随分アッサリしてるなとは思ったけど…。

もしかして、もっと前に別れてたのかな。

「しかもさ、蓮本人にまだ好きって伝えてないんだろ?その状況で、突然現れた知り合いの前で決意表明とか誰だって無理だからな?」

言われてみれば確かに…。

「こうやって悩んでさ、晴は真剣に蓮との事考えてるじゃん。それは充分蓮に好きって言う資格あると思うよ?」

そうかな…。そう思っていいのかな…。

「それにさ、『蓮の隣に立ちたい』って思ってくれるだけで俺は嬉しい。」

「え?どうして?」

すると、翔君は少し寂しそうに言う。

「俺の弟はさ、誰かが自分の横に立つ必要性を感じないんだよ。それが家族でも。
だけど、晴だけは別。」

キョトンとする俺に、翔君は笑った。

「晴が立つスペースだけは空けてあるんだよな。」









●●●
翔は晴人ケアの天才。

現実は残暑なのにクリスマスとか季節感無さすぎて笑ってる。




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