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高校生編side晴人 好きな人が、自分を好きかもしれない。

79.拒絶

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蓮が、俺を好きーーー?



花火の光が幻想的で、夢を見てるんじゃないかって思う。

だけど、蓮の静かな表情の中に熱を帯びた瞳を見付けて。

これが、間違いなく現実なんだと悟る。


好きな人が、自分を好きだって事実が。

蓮が俺を好きだって、恋人になりたいって言ってくれた事が。

嬉しくて、ジワジワと幸福感が胸を占めていく。


俺の頬に添えられたままの手に自分の手を重ねると、蓮がピクリと反応した。

その目を、真っ直ぐに見つめる。

「蓮…俺……」「えっ⁉︎」


突然、すぐ近くで声がした。

人の気配に気付かなかった俺は驚いて…その相手の姿にさらに驚愕する。

「た、竹田先輩⁉︎」

花火の光が照らすのは、良く見知った顔だった。

傍には女性がいて、多分デートなんだろう。

「…ってか…えっ⁉︎晴人…お前…マジ⁉︎」

凄い偶然だけど、先輩の動揺はそれを遥かに凌駕してる。

そこでハッとした。

ベンチに座った俺と蓮は、密着して手を取り合ってる。

どう見ても、友達の距離感じゃない。

「…お前、だったのか…⁉︎」

その意味は、鈍い俺でも分かった。

先輩は、俺が男が好きなのかって聞いてるんだ。


ただ、正直良く分からない。

好きになったのは「蓮」で、男とか女とか考えてなかったから。


なのは俺っすよ。
俺が晴の事好きで、無理矢理迫っただけです。」

黙り込んだ俺の頬からスルっと手を離して蓮が言った。

その言葉は、俺を庇ってくれるもの。

だけどーー。

違う。無理矢理なんかじゃない。
俺も蓮が好きだって、そう言わないと…!


「お前達、幼馴染だろ?それで…男同士でこんな事してんの?晴人だって抵抗してないし…。」

震える声を出した竹田先輩の顔は引き攣っていた。

「有り得ない…。」

その言葉に、強く叩かれたようなショックを受ける


「仮に俺達がそうだったとして、個人の問題だろ?アンタに否定する権利あんの?」

「…それは…!!」

低い声を出した蓮が、俺を背後に庇うように立ち上がる。

その身体からヒヤリとするオーラが立ち昇ってるみたいだ。


「ね、ねぇ、やめなよ。もう行こう?」

ふいに女性の声が割って入った。

今までオロオロしてた先輩の彼女らしき女性。

「レストランの予約間に合わなくなっちゃうよ!
ほら、早く!」

そしてグイグイと先輩の腕を引っ張る。

先輩はまだ何か言いたそうだったけど、流石に彼女を放ったらかしにはできなかったみたいだ。

最後に俺達を一瞥すると、背を向けて去って行く。


チラリとこっちを見た彼女さんが、申し訳なさそうに小さく頭を下げたのが視界の端に映った。













その後の事は良く覚えてない。

蓮に手を引かれてバイクに乗って、ただひたすらその背中に身体を預けてた。

途中で寄った夜ご飯の内容も曖昧。

蓮がずっと気遣わしげにしてくれてたのは何となく分かったけど、何を話したのかも定かじゃなくて。



尊敬する先輩に否定された事がショックだった。

竹田先輩は俺にとって良識ある大人で、多くの後輩に慕われてる人で。

そんな人が嫌悪感を露わにする程、俺と蓮の関係は歪なんだと叩き付けられたような気がした。

男同士、だからーーー。

俺は「蓮」が好きだから、例えば蓮が女子だったとしても好きになってたと思う。

ただ、世間の目はそうじゃない。

もし俺と蓮が付き合ったとしたら、どっちも「同性が好きな人」ってカテゴライズされる。

そして、その事を理解できない人が少なからずいるんだ…。


俺自身が、恋愛対象が同性の人に対して特に何も思わないから考えが及ばなかった。

だけど、竹田先輩の反応がいい例だ。



じゃあ、俺の周りの人はどう思うんだろう。

父さんは?母さんは?

啓太、サッキー、伊藤、部活の仲間達。
美優さんや、顧問の大川先生ーーー。


俺の大切な人達は、多分俺が蓮を好きだって知っても、否定したりしないだろうと思う。

ううん、そう

だってその中には、竹田先輩も入ってたんだよ…。

俺が信頼してて、大切だと思ってる人に否定されてしまった。

その事が鉛のように心を重くする。


蓮の周りだって、蓮父も蓮母も翔君も。

特進の友達やバイト先の仲間だって。

もしかしたら良く思わない人がいるかもしれない。


そうしたら、蓮も今の俺みたいに傷付くんじゃないだろうか。


それと…遥も。

自分の元恋人が、男である俺と付き合ってるって知ったらどう思うんだろう。

遥の事だから、俺達の前では祝福してくれると思う。

だけど…心の奥で傷付いてるかもしれない。




俺は蓮が好きだ。

蓮も俺を好きだって言ってくれた。


だけど、俺が蓮に気持ちを打ち明けるのは果たして良い事なんだろうか。


周りには祝福されず。

否定を恐れてひた隠しにしてーー。

そうやって生きていく事に俺は耐えられるのか。

それを、蓮に強いてしまうかもしれない事にも。

嫌になって、蓮が俺の元から去って行くかもしれない不安を抱えてーー。



暗い方に転げ落ちていく思考を止めなくちゃと思うのに、その度に竹田先輩の言葉が甦る。

『有り得ない』


俺達を形容した短いそれは、鋭い剃刀みたいに俺の胸を切り付けた。





「晴、大丈夫か?」

ハッとして顔を上げると、もう家は目の前だった。

脇の道にバイクを止めた蓮がヘルメットを取って俺を見てる。

「あ、ごめん。大丈夫。」

蓮にギュッとしがみついてた腕を緩めて、俺もヘルメットを外した。

どうにか、笑顔を作れたと思う。


「…俺があんな所で言ったせいで嫌な思いさせたな。」

蓮はそんな無理矢理作った笑顔なんてお見通しだったみたいだ。

俺の頭を優しく撫でて、だけど、と続ける。

「告白した事は後悔してない。
ああ言う奴がいる事も、周りの事も散々考えた。
それでも、俺は晴の特別になりたい。」


その瞳は真剣で、蓮の決意が読み取れる。

「…今も特別だよ?」

「今よりもっと。心も身体も1番近くにいたい。
晴は俺のだって言える権利が欲しい。」

「蓮…。」

「晴が混乱してるのは分かってる。返事は急がねぇから。ただ、俺がお前を好きだって事は覚えてて。」

どこまでも俺の事を考えてくれる蓮の優しさに胸がいっぱいになって、頷く事しかできない。

それでも蓮は笑ってくれた。

少し寂しそうなそれを見ていられなくて、俺は静かに目を逸らす。


「寒いから家入れ。明後日また迎えに行くわ。」

蓮はそう言って俺に顔を近付けるようとしてーー

思い直したかのように離れた。


「うん、明後日ね。」

そう返して、振り返らずに家の中へ入る。

ドアが閉まったのを確認したタイミングでバイクが走り去る音がした。




いつも帰り際に与えられてた熱が無いだけで、ポッカリ穴が空いたみたいだ。

キスして、抱き締められて…「またすぐ会うのに」って呆れた風を装って。

蓮の体温を感じたかった。



だけど、そんな事思ったらダメだ。


俺は幸せな今だけしか見えてなくて、先の事も周りの事も…問題に気付こうともしなかった。


蓮は真剣に考えて、全部覚悟して告白してくれたのに。

考えも覚悟も足りてなくて、親しい人の言葉に動揺して。

蓮だってあの言葉に傷付いたはずなのに、俺はあの場で蓮が好きだって言えなかった。


蓮を、独りにしたんだーーー。



そんな俺がさ…


蓮の告白に応える事なんて、できないよーー。









●●●
いつかは向き合う「同性を好きになる事」に気付いた晴人。
『登場人物紹介』に、ほとんど登場してない竹田が載ってたのはここで出番があるからでした笑













































































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