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高校生編side晴人 守る為に闘う事と事件の決着

64.けじめ(side相川陽菜)

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「話しがあるの。」

朝一で生徒会室に押しかけた私に、最初は驚いた様な顔をしていたけど、は薄ら笑った。

「どうしたの?相川ちゃん。」

「小火の件もタバコの件も橋本先輩がやったんでしょ?」

呼び捨てにしたい気持ちを抑えて言う。

「嫌だなぁ、誤解だよ。」

この状況で笑えるメンタルが怖い。

「何でこんな事したの?」

「だから、誤解だってば…」「証拠があるわ。」

私の言葉に、橋本が初めて笑みを崩す。

「この写真、写ってるのは先輩でしょ。」

昨日の帰り際にスマホでコッソリ撮影しておいた例の写真の画像を見せる。

「警察で解析すればもっとハッキリ分かるでしょうね。」

「それ、渡して?俺に渡すために来てくれたんでしょ?」

橋本が手を伸ばして来る。

「そのために来た訳ないじゃない。それに、原本はここに無いから、これを消した所でどうにもならないわ。」
 
「…どうして?俺は相川ちゃんのためにやったんだよ?」

「頼んで無いわよ。」

私の言葉に橋本が顔を歪める。

「『萱島が消えればいい』って言ったのは相川ちゃんだろ⁉︎」

「『許さない』とは言ったけど、消えろとまでは思ってなかったわ。こんなやり方するつもりなんて全く無かった。
ただ、蓮と萱島を引き裂ければそれで良かったのよ。」

「…蓮?相川ちゃんは切藤の事が好きなの?」

それは、自信が無い。好きだった訳じゃないと思うけど、そのステータスが欲しかったのは確か。

「もう振られたけどね。」

私がそう言うと、橋本が震え出す。

「ふざけんなよ…俺を利用しやがって…!!」

「だから何回も言うけど、私はアンタに頼んだ覚えは無いわ。」

「ーーッこの!!ビッチ女!!!!」

拳を振り上げる橋本に咄嗟に目を瞑った。



バシッ!!



訪れるはずの痛みが無い。

薄ら目を開けると、目の前には誰かの背中。

「相川さん、何やってんの!」

萱島が珍しく怒った様子で私と橋本の間に立ち塞がっている。

その手に握った竹刀で、橋本の手を弾き飛ばしたらしい。
橋本は薙ぎ払われた勢いで床に尻餅をついていた。

「1人じゃ危ないって分かってたでしょ?
皆んなで一緒にって、昨日約束したよね?」

その真剣な表情に、いつもの柔和な感じは無い。

「…煩いわね。約束したのはアンタであって私じゃないでしょ。私は自分がした事にけじめを付けたいだけよ。」

「それは屁理屈だよ!心配させないで!」

「は…はぁ⁉︎心配とか頼んで無いわよ!」

「出たよ!ツンデレ!」

「何言ってんのよ!!」


バァン!!

私達の口論を遮ったのは、橋本が床に椅子を叩き付ける音だった。

「お前ら仲良いのかよ…相川、俺を嵌めたんだな⁉︎」

いや、仲良く無いし嵌めてないし…。

「和解したんですよ、橋本先輩。」

私より先に萱島が答える。

「それに、女の子に暴力振るっちゃ絶対ダメです。」

静かだけど怒りを孕んだ言い方に、橋本は動揺してーーー

「クソっ!!」

生徒会室から逃げ出した。
だけどいくらも走らないうちに、前から現れた黒崎と中野が立ち塞がる。
後ろには私達がいるから逃げ場は無い。

「先輩、俺達は騒ぎにしたい訳じゃないんです。」

萱島が橋本を刺激しないように声を出す。

「うるさい!!黙れ!!!」

ガシャーン!!!

「きゃあ!」

思わず悲鳴を上げたのは、橋本が近くにあった消化器で窓を割ったから。

砕け散るガラス片の多くは外の中庭に落ちたはずだから、騒ぎに気付いた生徒が集まって来るだろう。

「俺は悪くない!!悪いのは全部その女だ!!
俺を騙してた!!俺は知ってるんだよ!!!」

「落ち着いて下さい。知ってるって、何をですか?」

興奮する橋本に萱島が訪ねると、橋本は床に何かを叩き付けた。

「俺だって証拠写真を持ってるんだからな!
!!!!!」


その言葉に、ザッと血の気が引いた。
床に散らばったその写真はーーー


「お前が小学生の時の写真だろ⁉︎中学の時にはもう別人だ!!整形がバレないように京都からこっちの学校に来たんだもんなぁ⁉︎」

「な、何言ってんのよ。こっちに来たのは、ただ親の仕事の都合で…。」

自分でも余りにも弱々しい声が出たと思う。
橋本もそう感じたらしい。

「ハハッ!お前が相川グループ社長の娘だってのは分かってんだよ!雑誌に写真が載ってたぜ⁉︎
社長は妻と娘を表に出さない事で有名だけど、こんなブスなら納得だって書いてあったけどな!!」

足が震える。
目の前で嘲るように笑う橋本の姿が歪んで、耳鳴りがする。

一度だけ撮られてしまった、あの写真…。

「父親はイケメンなのにな!母親に似て残念!
可哀想になぁ!!」

「ママを悪く言わないで!!!」

私が唯一大切だと思える相手。
私を道具としか見てない父親なんかとは違う、優しくて大好きなママ。

そこは譲れなくて、悲鳴に近い声が出た。
それが整形を肯定する行為だと分かっていても。



『マジ?相川さんって整形なの?』
『ショックだわー!騙されてた!』
『あの写真が元の顔?全然違うじゃん!』


案の定、騒ぎに気付いていつの間にか集まって来ていた生徒達から囁きが漏れる。

噂はあっという間に広がるだろう。
『学校のアイドル』が人工的なものだったなんてセンセーショナルな話題めったにないもの。



もう、終わったーーー。

今まで積み上げて来たものも、全部。


『自分の身分に合った相手とだけ付き合え。
それ以外はクズだ。』

大嫌いな奴の言葉に沸いた疑問にも、見ないふりをして。
そう思い込んで、自分を納得させてきた。


だけど、それは間違ってたんだと思う。
人間の心はそんなに簡単なものじゃない。

私の思う「身分」は全然違っても、蓮と萱島みたいにお互いを思い合ってる関係は存在するんだ。

私にはそんな相手がいないから、信じられなかっただけで…。


顔を変えた所で、私にはそんな関係を築く事はできなかった。

だから、ちやほやされても結局独り。


今だってそう。
周りは皆んな敵なの。


だけどもう、戦う力なんて残ってない。

だから、もう全部、終わり。




力が抜けて、床にへたり込むーーー
はずだった私の身体が床に着く事は無かった。


私を支えるようにして立たせるその手は、白くて細い。

なのに、どうしてだろう。


こんなにも力強く見えるのは…。





「好き勝手言ってんじゃねぇ!!!」



その手の主。
『儚げで温厚な』萱島晴人の怒鳴り声に、その場にいた全員が飛び上がった。




●●●
晴人が竹刀を持ってたのは、啓太が家にある予備を持って来たからです。
「ちょっと傷んでるけど使えるかな?」なんて二人で検分してた時に黒崎が来ました。























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