【完結まで残り1話】桜の記憶 幼馴染は俺の事が好きらしい。…2番目に。

あさひてまり

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高校生編side晴人 守る為に闘う事と事件の決着

63.二つの覚悟

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「失礼しまーす…」

写真部の部室は無人だった。
え、カギ掛かけてないじゃん。

不用心だ…なんて剣道部うちが言える立場じゃないけど。

「こっち。奥だよ。」

驚いて声の方を見ると、もう一部屋奥へ繋がるドアがある。

「ようこそ。存外早かったね。」

そこには、大きな望遠カメラの手入れをする大谷君がいた。

「それで、君の覚悟の程を聞かせてくれるのかな?」

独特の喋り口調の彼は、表情を動かさないまま俺の方を見る。
何を考えてるのかは読み辛いけど、多分悪い奴じゃないと思う。

だってさ、彼が言う『覚悟』って…

「大谷君が何か手掛かりを持ってるなら、教えて欲しい。俺は蓮が大切だから…。
受け止める覚悟はあるよ。」

さっき黒崎君が言ってた「大学の推薦」って言葉で気付いたんだ。

俺が犯人を突き止める事で、その人の人生は大きく変わる。
それこそ大学なんて言葉を口にできなくなってしまうかもしれない。

勿論、悪いのは犯人だ。
罪を明らかにする事に罪悪感は無いし、自分がした事の責任は取るべきだと思う。

だけどさ、そうなった時に犯人が恨むのは俺なんだよね、きっと。
理不尽だけど「一生を台無しにされた」なんて逆恨みされながら生きて行く可能性がある訳で。

大谷君は、それを危惧してたんだと思う。

「切藤君には悪いけど、彼は自主謹慎だから経歴に傷は付かないだろう?校内の序列的に、それが原因で虐められるなんて事も有り得ない。
わざわざ君が恨みを買う必要なんてないと思うけど?」

やっぱり、そう思ってくれてたんだ。

「大谷君、ありがとう。俺が不利な立場にならないように気にしてくれて…。
だけど、このまま見てるなんて俺にはできない。
だって蓮は何も悪い事してないんだから。
俺を庇ってくれたその優しさに甘えるだけじゃダメなんだ。
俺は、蓮にはいつも笑顔でいて欲しい。」

大谷君は少し思案するような顔をした。

「…笑顔なんて君しか知らないだろうし、
君がピッタリくっ付いてれば毎秒笑顔だと思うけど。」

「え?」

独り言のようにボソボソ言う大谷君に聞き返すけど、彼はそれに答えず俺に背を向けた。

「文化祭の日、望遠カメラこの子で撮影したんだ。鮮明だろう?」

言いながら鞄から取り出したのは、3枚の写真。

1枚は、剣道部の部室の壊れた窓に何かを投げ入れてる横顔の写真。

2枚目は煙の出る部室と、それを見る人物の後ろ姿。

どちらも、その手にライターを握ってる。

そして、その人物の顔はーーー。

1枚目の横顔でしか判別できないけど、さっき黒崎君が見せてくれた橋本先輩に良く似てる。

「多分これが決定打。」

大谷君が出した最後の1枚には、振り返って去ろうとする橋本先輩がハッキリ写っていた。

「僕がこれを撮ったのは逆の棟の屋上で、スマホも持ってなかったから駆けつける事も通報もできなかった。最初は煙が見えてなくて、小火だと気付いた時に君が現場に現れた。」

だから君と接触しようとしたんだ、と彼は言う。

「そうしたら偶然にも君と相川さんの会話を聞いてしまってね。
その内容から、小火と切藤君の件はどちらもこの写真の人物が犯人なんじゃないかと考えたんだ。
だけど、僕には犯人を糾弾する資格は無い。
僕自身が何も奪われてないのに恨みを背負うなんて真っ平だ。」

外国人のような仕草で肩をすくめる大谷君。

「だから、君に覚悟があるなら協力しようと思ったんだよ。君にはその資格があると思って。」

そして、俺に3枚の写真を渡してくれた。

「ありがとう。本当に…。」

「どういたしまして。君にはお世話になってるからね。」

「え?」

そこでハタと思い出す。

「そっか、中学の時の写真ね!」

俺達を撮って受賞したあの作品。

「……まぁ、そうだね。」

あれ?何か大谷君の反応が曖昧なような?

「それより、早く行かなくて大丈夫?
君の事を心配して待ってる人達がいるんじゃないのかい?」

俺のちょっとした違和感は、彼の言葉に霧散する。

そうだ、早く皆んなに知らせないと。

「うん、俺行くね!ありがとう!」

ダッシュで啓太達の下へ戻る俺を、大谷君が軽く手を振って見送ってくれた。








「…マジかよ。完全な証拠じゃん、これ。」

空き教室に戻った俺が見せた写真に、啓太が仰天する。

「蓮の件は証明できないけど、そっちの犯人も橋本なら明らかになるよなきっと。」

少なくとも何か知ってはいるはずだと言う黒崎君に頷く。

「ねぇ、大谷が言ってた『覚悟』ってのはなんだった訳?」

相川さんの問いに、俺は大谷君とのやり取りを話した。

「へぇー…大谷って独特の考え方なんだな。
俺だったら、罪は裁かれて当然だからすぐ先生なり警察なりに話すと思うけど…。」

「啓太君は真っ直ぐだもんね。
まぁでもゴタゴタに巻き込まれたく無い人間もいるんだと思うよ?
で、問題はこの写真をどうするかだね。」

先生に言う?警察に言う?と思案する黒崎君。

「あのさ、俺、まずは橋本先輩と話したいんだよね。」

俺の言葉に3人が驚愕してこっちを見る。

「は?正気?」

相川さんの目が怖い。

「アイツは意図的に晴人の事、犯人にしようとしてたかもしれないんだぞ?」

「てか普通に危ないからダメだよ!」

啓太と黒崎君の言う事はごもっとも。
だけど、ずっと考えてたんだよね。

「危険だし、それこそ恨まれるかもって言うのは分かってるんだ。でも、自主した方が罪は軽くなる。
橋本先輩がどう言うつもりでやったのかは分からないけど、もしかしたら後悔してるかもしれない。」

罪を償うのは当然だ。
だけど、橋本先輩は相川さんの事が好きで、彼女に好かれたいあまりに暴走してしまったんだとしたら…。

「自分のした事の重大さに気付いて、自分から罪を告白するチャンスを潰したくないんだよ…。」

俺達が直ぐに報告したら、そのチャンスは永遠に無くなってしまう。

甘い事言ってるのは分かってるんだけど…。
思わず俯くと、溜息が3人分聞こえてきた。

「そうだよな、晴人はそうだもんな。」

「お人好しもここまで来ると病気よね。」

「また意外性突かれたなぁ。」

呆れた様に言いながらも、その目は温かい。

分かってくれたんだーー。

結局、翌日の放課後に橋本先輩に話を聞く事に決めてその日俺達は解散した。

「いいか、晴人。必ず俺達も一緒に行くから突っ走るなよ。」

別れ際、強く念を押す啓太に俺は頷いた。






だけどさ、突っ走ったのは





「萱島君!啓太君!」

翌朝、登校した俺達の下に息を切らした黒崎君が走り込んで来た。
いつもの飄々とした態度じゃなくて、焦ったその様子に胸が騒ぐ。


「相川ちゃんが…!!」


最後まで聞かず、俺は走り出していたーー。





●●●
晴人談→東の名探偵とかじっちゃんの孫とかメンタル強いなって思う。大好きだけど。
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