73 / 252
高校生編side晴人 守ってくれるのは大切だからだって思いたい
57.羨ましくもある(side黒崎悠真)
しおりを挟む
高校は地獄みたいな中学時代とは大違いだった。
成績さえ良ければ自由な特進クラスは俺にとって天国。
バイトもできるから、ノートを買う金すら無くて惨めになる事もない。
偏差値高めのこの学校の、さらに選ばれし上位30人。
その中に属する俺から見ても、ただ1人別格だと感じる奴がいる。
切藤蓮は、高校生にして全てを手にしていると言っても過言では無い。
そう、思っていたーーー。
「萱島君、大丈夫だといいねぇ。」
俺は今、一般クラスの中野啓太と一緒に駅へ向かっている。
「本当だよな。悪戯なのか晴人が狙われたのか分かんないけど…。それに切藤がまさかあんな庇い方するなんてなぁ。」
幼馴染の萱島晴人を庇って、学校にタバコを持ち込んだ罪に問われている蓮。
「んー、犯人の動機は分かんないけど、蓮が反撃もせずに大人しく鬼丸に従った意味は分かるよ。」
「どう言うことだ?」
「ほら、萱島君って剣道部でしょ?しかも小火の第一発見者で、当初警察に疑われたって言ってたじゃん。」
萱島君から聞いたその話しは相当理不尽だった。
「しかもさ、小火の現場にタバコの吸い殻が落ちてたらしいじゃん。
それで萱島君の鞄からタバコが出てきたなんて事になったら、もう疑いは一気に濃厚になるわけよ。」
部室で喫煙中に小火になり、第一発見者を偽装したって。
「た、確かにそうだな…。え⁉︎じゃあ…」
「うん、蓮はそうなるって気付いてたんだろうね。変に騒がなかったのは、自分に疑いの目を向けさせて萱島君を隠そうとしたんだよ。」
それと、多分…
「教師から事件について何か探ろうとしてるかも。」
「マジか。やっぱすげぇな。
…ここまでするのって全部晴人の為だろ?
大切にするのはいいと思うんだけど…献身的すぎないか?」
そうかもね。でもさ。
「ねぇ、中野君。俺が未来が見えるって言ったらどうする?」
急な話しの路線変更に中野君が目を白黒させる。
「脈絡なくね⁉︎えーっと、まぁ実際見て判断したいなとは思う。」
実直な彼の解答は大方予想通り。
「中野君ならそう言うよね。実はさぁ、俺にはその能力があるんだよね。」
「「…いや、そんな事言われても信じられない。
もっと詳しく説明してくれ。」」
「え⁉︎」
中野君が驚愕している。
だって、中野君の返答をそっくりそのまま俺が同時に答えたんだから。
「ビックリした?まぁ種明かしするとさ、IQが高い人間には良くある現象なんだよ。
相手が次に何を言うか分かるとか、話しの冒頭だけ聞けばオチが分かるとか。」
「そう言えば、TVの特集で見たことあるな。」
納得顔の中野君。
「俺もさ、IQだけで言えば東の名探偵も夢じゃない訳よ。」
「「そう言えば、お前頭良いんだもんな。」」
また被せて言うと、彼は戸惑いつつも笑った。
「すげぇな!って事は俺は黒崎に心を読まれてるみたいなもんなのか?」
「そこまでの物じゃないよ。」
これはあくまでも「予測」の域だからね。
「たださ、全く読めない人もいるんだよね。
それが萱島君。」
ほんわかした感じの彼だけど、俺にとってはかなり特殊。
「素直でやたら許容範囲が広くてさ。相手を否定しないでほぼ肯定するんだけど、どっかで拘りがあるから斜め上の解答が来るんだよね。」
水遊びの事なんか思い出すと笑ってしまう。
水ぶっかけらのにあの反応!
あれ以来、彼は俺のお気に入りだ。
「多分ね、『こうあるべき』って決め付けが他の人より少ないんだと思うんだ。
俺らにとっては貴重な存在。」
「俺らって、もしかして…。」
「そ、蓮もこっち側の人間。まぁあれだけできてIQ低い訳ないけど。」
「言われてみればそうか。でも黒崎の方がテストの順位いつも上じゃなかったっけ?」
あぁ、それね。
「連はさ、全然本気出してないよ。」
「は⁉︎」
「俺はちゃんとやってるけどね、蓮は適度に手を抜いてだいたい3位キープしてると思う。」
まだ全然余力あるのが分かるんだよね。
「それって…!」
うん、中野君ならそう思うよね。
「真面目にやってる人に対して失礼だって思う?
それは正しいし、多くの人が持つ考えだよ。」
だけどさ、
「萱島君がこの事知ってるかは分かんないけど、多分、蓮には蓮の事情があるからいいんじゃない?って反応だと思うんだよね。」
読みにくい彼の考えだけど、今日の思い出話しを聞いた感じそう言う気がする。
例えば、外国人に対して「この人は外国人だから大雑把なんだな」と思ったとしよう。
それは「外国人」と言う肩書きを、潜在意識の中にある「おおらかな国民性」と結び付けてしまっている。
つまり、本来の「その人自身」を見ていない。
同じように、能力が突出した人間に対しても人は「能力が高いから○○なんだ」と思ってしまう。
『蓮は頭がいいからテストで手を抜いたりできるんだ。嫌味だよなぁ。』
とかさ。
肩書きが一つ付くだけで、人はその人の背景とか心情を考えるのを止めちゃうんだよ。
だけど萱島君は違うんだよね。
その人自身を見て、向き合ってる。
「それはさ、俺らみたいに肩書きが先行しちゃう奴らにとっては有難い存在なんだよ。いつでも自分個人を見てくれて、思いも気持ちも湾曲しないで受け取ってくれるから。」
蓮の気持ちを慮って、上級生に立ち向かった萱島君。
それだけ自分の「心」を大切にしてくれる存在が、子供の頃から隣にいたんだとしたらーー。
「何に代えても守りたいって思うだろうね。」
そしてね、そう言う感情が絡んで来るともっと読み辛くなるんだよ。
だから、その気になれば意のままに人を動かせる蓮も、萱島君が絡んで来ると上手くいかない。
お得意の狡猾さも計算高さも、てんで機能してないとか面白すぎるんだよな!!
完璧だと思っていた男の、意外な弱点。
俺はそれを凄く好ましいと思うんだ。
●●●
黒崎は実は苦労人で、彼には帰る家がありません。
機会があれば番外編で書こうかなと。
成績さえ良ければ自由な特進クラスは俺にとって天国。
バイトもできるから、ノートを買う金すら無くて惨めになる事もない。
偏差値高めのこの学校の、さらに選ばれし上位30人。
その中に属する俺から見ても、ただ1人別格だと感じる奴がいる。
切藤蓮は、高校生にして全てを手にしていると言っても過言では無い。
そう、思っていたーーー。
「萱島君、大丈夫だといいねぇ。」
俺は今、一般クラスの中野啓太と一緒に駅へ向かっている。
「本当だよな。悪戯なのか晴人が狙われたのか分かんないけど…。それに切藤がまさかあんな庇い方するなんてなぁ。」
幼馴染の萱島晴人を庇って、学校にタバコを持ち込んだ罪に問われている蓮。
「んー、犯人の動機は分かんないけど、蓮が反撃もせずに大人しく鬼丸に従った意味は分かるよ。」
「どう言うことだ?」
「ほら、萱島君って剣道部でしょ?しかも小火の第一発見者で、当初警察に疑われたって言ってたじゃん。」
萱島君から聞いたその話しは相当理不尽だった。
「しかもさ、小火の現場にタバコの吸い殻が落ちてたらしいじゃん。
それで萱島君の鞄からタバコが出てきたなんて事になったら、もう疑いは一気に濃厚になるわけよ。」
部室で喫煙中に小火になり、第一発見者を偽装したって。
「た、確かにそうだな…。え⁉︎じゃあ…」
「うん、蓮はそうなるって気付いてたんだろうね。変に騒がなかったのは、自分に疑いの目を向けさせて萱島君を隠そうとしたんだよ。」
それと、多分…
「教師から事件について何か探ろうとしてるかも。」
「マジか。やっぱすげぇな。
…ここまでするのって全部晴人の為だろ?
大切にするのはいいと思うんだけど…献身的すぎないか?」
そうかもね。でもさ。
「ねぇ、中野君。俺が未来が見えるって言ったらどうする?」
急な話しの路線変更に中野君が目を白黒させる。
「脈絡なくね⁉︎えーっと、まぁ実際見て判断したいなとは思う。」
実直な彼の解答は大方予想通り。
「中野君ならそう言うよね。実はさぁ、俺にはその能力があるんだよね。」
「「…いや、そんな事言われても信じられない。
もっと詳しく説明してくれ。」」
「え⁉︎」
中野君が驚愕している。
だって、中野君の返答をそっくりそのまま俺が同時に答えたんだから。
「ビックリした?まぁ種明かしするとさ、IQが高い人間には良くある現象なんだよ。
相手が次に何を言うか分かるとか、話しの冒頭だけ聞けばオチが分かるとか。」
「そう言えば、TVの特集で見たことあるな。」
納得顔の中野君。
「俺もさ、IQだけで言えば東の名探偵も夢じゃない訳よ。」
「「そう言えば、お前頭良いんだもんな。」」
また被せて言うと、彼は戸惑いつつも笑った。
「すげぇな!って事は俺は黒崎に心を読まれてるみたいなもんなのか?」
「そこまでの物じゃないよ。」
これはあくまでも「予測」の域だからね。
「たださ、全く読めない人もいるんだよね。
それが萱島君。」
ほんわかした感じの彼だけど、俺にとってはかなり特殊。
「素直でやたら許容範囲が広くてさ。相手を否定しないでほぼ肯定するんだけど、どっかで拘りがあるから斜め上の解答が来るんだよね。」
水遊びの事なんか思い出すと笑ってしまう。
水ぶっかけらのにあの反応!
あれ以来、彼は俺のお気に入りだ。
「多分ね、『こうあるべき』って決め付けが他の人より少ないんだと思うんだ。
俺らにとっては貴重な存在。」
「俺らって、もしかして…。」
「そ、蓮もこっち側の人間。まぁあれだけできてIQ低い訳ないけど。」
「言われてみればそうか。でも黒崎の方がテストの順位いつも上じゃなかったっけ?」
あぁ、それね。
「連はさ、全然本気出してないよ。」
「は⁉︎」
「俺はちゃんとやってるけどね、蓮は適度に手を抜いてだいたい3位キープしてると思う。」
まだ全然余力あるのが分かるんだよね。
「それって…!」
うん、中野君ならそう思うよね。
「真面目にやってる人に対して失礼だって思う?
それは正しいし、多くの人が持つ考えだよ。」
だけどさ、
「萱島君がこの事知ってるかは分かんないけど、多分、蓮には蓮の事情があるからいいんじゃない?って反応だと思うんだよね。」
読みにくい彼の考えだけど、今日の思い出話しを聞いた感じそう言う気がする。
例えば、外国人に対して「この人は外国人だから大雑把なんだな」と思ったとしよう。
それは「外国人」と言う肩書きを、潜在意識の中にある「おおらかな国民性」と結び付けてしまっている。
つまり、本来の「その人自身」を見ていない。
同じように、能力が突出した人間に対しても人は「能力が高いから○○なんだ」と思ってしまう。
『蓮は頭がいいからテストで手を抜いたりできるんだ。嫌味だよなぁ。』
とかさ。
肩書きが一つ付くだけで、人はその人の背景とか心情を考えるのを止めちゃうんだよ。
だけど萱島君は違うんだよね。
その人自身を見て、向き合ってる。
「それはさ、俺らみたいに肩書きが先行しちゃう奴らにとっては有難い存在なんだよ。いつでも自分個人を見てくれて、思いも気持ちも湾曲しないで受け取ってくれるから。」
蓮の気持ちを慮って、上級生に立ち向かった萱島君。
それだけ自分の「心」を大切にしてくれる存在が、子供の頃から隣にいたんだとしたらーー。
「何に代えても守りたいって思うだろうね。」
そしてね、そう言う感情が絡んで来るともっと読み辛くなるんだよ。
だから、その気になれば意のままに人を動かせる蓮も、萱島君が絡んで来ると上手くいかない。
お得意の狡猾さも計算高さも、てんで機能してないとか面白すぎるんだよな!!
完璧だと思っていた男の、意外な弱点。
俺はそれを凄く好ましいと思うんだ。
●●●
黒崎は実は苦労人で、彼には帰る家がありません。
機会があれば番外編で書こうかなと。
58
お気に入りに追加
993
あなたにおすすめの小説

俺にとってはあなたが運命でした
ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会
βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂
彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。
その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。
それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。

【幼馴染DK】至って、普通。
りつ
BL
天才型×平凡くん。「別れよっか、僕達」――才能溢れる幼馴染みに、平凡な自分では釣り合わない。そう思って別れを切り出したのだけれど……?ハッピーバカップルラブコメ短編です。
夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども
神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」
と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。
大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。
文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!


もし、運命の番になれたのなら。
天井つむぎ
BL
春。守谷 奏斗(α)に振られ、精神的なショックで声を失った遊佐 水樹(Ω)は一年振りに高校三年生になった。
まだ奏斗に想いを寄せている水樹の前に現れたのは、守谷 彼方という転校生だ。優しい性格と笑顔を絶やさないところ以外は奏斗とそっくりの彼方から「友達になってくれるかな?」とお願いされる水樹。
水樹は奏斗にはされたことのない優しさを彼方からたくさんもらい、初めてで温かい友情関係に戸惑いが隠せない。
そんなある日、水樹の十九の誕生日がやってきて──。
幼馴染の御曹司と許嫁だった話
金曜日
BL
親同士の約束で勝手に許嫁にされて同居生活をスタートすることになった、商社勤務のエリートサラリーマン(樋口 爽)×国立大一年生(日下部 暁人)が本当の恋に落ちてゆっくり成長していくお話。糖度高めの甘々溺愛執着攻めによって、天然で無垢な美少年受けが徐々に恋と性に目覚めさせられていきます。ハッピーエンド至上主義。
スピンオフも掲載しています。
一見チャラ男だけど一途で苦労人なサラリーマン(和倉 恭介)×毒舌美人のデザイナー志望大学生(結城 要)のお話。恋愛を諦めた2人が、お互いの過去を知り傷を埋め合っていきます。
※こちらの作品はpixivとムーンライトノベルズにも投稿しています。

もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる