【完結】桜の記憶 幼馴染は俺の事が好きらしい。…2番目に。

あさひてまり

文字の大きさ
上 下
67 / 255
高校生編side晴人 守ってくれるのは大切だからだって思いたい

51.疑問(side啓太)

しおりを挟む
切藤の手から煙草が取り上げられた時、俺は部屋から出ようとしていた。

検査が終わったら帰宅していい事になっていたから、廊下で晴人を待とうとして…

田丸先生、邪魔だな。

ドアの前に陣取って、帰りたい生徒の障害になっている先生に目を向ける。

「鬼丸」と呼ばれるこの人は、特進クラスを目の敵にしている事で有名だ。

まるで自分が「正義」であるかのような振る舞いは生徒に嫌われているし、俺も好きになれない。

そんな田丸先生は、通行の妨げになっているのに気付かず、ただ一点を見つめていた。

その視線の先は…晴人と切藤と黒崎がいる場所に向けられている。

特に会話もせず大人しくしている3人に、どうしてそんなに注目しているんだろう。

不審に思った俺は、後ろからコッソリ先生に近付いた。
ほぼ同じ目線で見ていると、切藤が晴人に話しかけたのが分かる。

次の瞬間には、田丸先生がそこに向かって怒号を上げていた。

「切藤!!何してるんだ!!」

その時、先生は確かに「」と言った。

ほぼ同じ目線の俺からは、2人が話していることしか見えなかったのにも関わらずーー。

「静かにしろ」とかじゃなくて。


しかも、すぐ近くにいた俺の耳はこんな呟きを拾ってしまった。

「よし、よくやった。」

そして、何だか嬉しそうに見える様子で切藤が持っていた煙草を部屋中に見せる。


どう言う事だ?



混乱する俺の方に、別室に移動する先生と切藤が歩いて来た。
こんな時なのに先生は意気揚々としていて、正直不自然さしかない。


そこから少し離れて後を付いて行く切藤。


どうもおかしい。
コイツが…切藤蓮ともあろう者が、何の反論もせず先生の言いなりになるか?

すれ違う瞬間、俺は思わず切藤に話しかけようとしてーーその言葉を飲み込んだ。

自分の事で大騒ぎになっているのに、その表情は冷静そのもの。
そして、俺の目を見て何も言わず小さく顎を振った。

その方向には、黒崎に腕を捕まれながらも必死に追いかけようとする晴人の姿。



切藤…お前って奴は全くーーー。

本当にどんな状況下でも、晴人が最優先なんだな?



ほんの小さな動作で「晴を頼む」が伝わるようになってしまった俺は、呆れた様に溜息を吐いてしまった。


「分かった。」の意味を込めて極小さく頷くと、切藤はニヤリと笑って部屋を出て行く。




取り残された部屋はシンと静まり返っていて、先生達も呆気に取られた表情だ。

「な…なんで…?」

誰かの呟きを皮切りに、爆発的に部屋が騒がしくなる。

この騒ぎようからして、学校の王VS嫌われ者の鬼の噂はあっと言う間に全校に広まるだろう。


そっちに気を取られていた俺が気が付くと…

晴人がいないーーー。


急いで部屋を出て晴人を探して疾走する。
すると、廊下から声が聞こえて来た。


「違うんです!蓮じゃない!!」

「萱島、落ち着きなさい。」

生徒指導室の前で切藤の無罪を叫ぶ晴人の周りには、数人の先生達。

「あれは、俺の鞄に入ってたんです!田丸先生と話しをさせて下さい!」

「明日また聞くから、今日は帰りなさい。」

「明日じゃ遅いんだよ!今じゃないと、無実の蓮が責められる!!」


俺は驚いた。

普段「ほんわか」と言う表現がピッタリの晴人が、
こんなに声を荒らげるのを見たのは初めてだ。

いつだったか、突然頭から水をぶっかけられた時だってヘラリとしていた晴人。

そんな温厚な晴人の怒りを孕んだ必死な姿に、俺は衝撃を覚えた。


「何だ!うるさいぞ!」


声が聞こえたのか、生徒指導室から田丸が出て来る。

「先生!あれは蓮のじゃありません!俺の鞄に入ってたんです!」

「ほぅ?お前は萱島だな?じゃあ、あれはお前の煙草なのか?」

「違います!俺のじゃないけど、俺の鞄に入ってて…」

すると、田丸は納得したような顔をする。

「成る程?バレたらそう言えと切藤に脅されていたんだな?」

「なっ…違います!!」

「なあ、萱島。それは正しい正義じゃないぞ?
悪い事をした奴を庇うのは、正義じゃないんだ。
本当の正義とは何か、俺が生徒達に示したい。」

突然そんな事を言い出す田丸に、晴人が目を丸くする。

俺の目も真ん丸だったと思う。
田丸の表情は、明らかに自分に酔っていた。

「あ、あの…そうじゃなくて…!」

「だからお前は静かに正義の姿を見ていろ。
これ以上言うのであれば、お前だけじゃなくて周りの仲間も苦しむ事になるぞ?」

「…どう言う意味ですか?」

「そんな考えの者がいる部活に、スポーツマンシップが守れるとは思えないからな!
暫く活動を自粛して自分を見つめ直す機会が必要だろう!」

それは、剣道部を部停にすると言ってるのか。

「そんな…。」

部活を持ち出されて、晴人が明らかに動揺した時だった。


「部活の事を私に相談無く決めていただきたくないですねぇ。」

突然の声に振り返ると、顧問の大山先生がこっちに向かって来ていた。

「萱島、気持ちは分かるけど落ち着くんだ。
今日は切藤に事情を聞くだけだから。」

「…っ、でも、蓮が…」

「俺も一緒に事情を聞くようにするから。な?
(…あまり田丸先生を刺激すると、切藤への当たりが強くなるかもしれない。最後まで切藤と2人にさせないようにするから、ここは俺に任せなさい。)」

最後の方は周りに聞こえないように囁き声だった。
それが聞こえる程晴人に近付いていた俺に、先生は目配せする。

信頼する大山先生からそう言われて力の抜けた晴人を引っ張って、俺は校舎の外に出た。

今日は元から一斉下校で、校舎内に残る事はできない。
晴人の鞄は誰か(多分黒崎)が持って来てくれるだろうから、ここで待とう。



案の定、黒崎が鞄を持って来てくれた。
校門にもたれて膝を抱える晴人を心配しつつも、彼は去って行った。

困ったのは、晴人がこの場から動かなくなってしまった事だ。

切藤が解放されるまでここで待つつもりなんだろう。

しょうがない、俺も付き合うかーー。



諦めてその隣に腰を下ろすと、低くなったその目線の先に、不意に赤色が見える。


赤いハイヒールが、俺達の前で止まっていた。



●●●
正しくはボルドーのピンヒールです。
啓太には分からん。笑


























しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

からかわれていると思ってたら本気だった?!

雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生 《あらすじ》 ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。 ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。 葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。 弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。 葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

【Stay with me】 -義理の弟と恋愛なんて、無理なのに-

悠里
BL
高3の時、義理の弟に告白された。 拒否して、1人暮らしで逃げたのに。2年後、弟が現れて言ったのは「あれは勘違いだった。兄弟としてやり直したい」というセリフ。 逃げたのは、嫌いだったからじゃない。ただどうしても受け入れられなかっただけ。  兄弟に戻るために一緒に暮らし始めたのに。どんどん、想いが溢れていく。

処理中です...