上 下
66 / 247
高校生編side晴人 守ってくれるのは大切だからだって思いたい

50.身代わり

しおりを挟む
文化祭は短縮と言う形で終わった。

混乱を避けるために小火の件は公表されなかったから、急な決定に生徒は文句タラタラ。

学校側は翌日…つまり今日、全校集会を開いてそこで事情を話すと約束した。



で、今はその集会中だ。

最初に生徒会から、文化祭の急な短縮に関する予算の修正とかの報告。
昨日の今日で資料が足りなかったり、終始バタバタしてたのが不憫だ。

その後が、事件に関する話しだった。

昨日小火があった事。
その場所が剣道部の部室だった事。
イタズラ目的の可能性がある事。

それに関して注意喚起されて集会は終了した。


少し残って啓太と話してると、先輩達が合流して来た。

「学校側からは注意だけか。もし内部犯だったらどうすんだよ。」

「校長、事勿れ主義だもんな。頼みの綱の理事長は出張中らしいし。」

「まぁでもホラ、もしかしたらこの後の持ち物検査で何か出てくるかもしれないぜ?」

「持ち物検査?」

「あっ、一年は知らないよな。文化祭の翌日って帰りに持ち物検査があんの。
何年か前に、文化祭の備品を持って帰ろうとする事件があったらしくて。」

へぇー。まぁ禁止な物は特に持って来てないから大丈夫か。

そんな事を考えながら先輩達と別れて教室に戻ると、全員鞄を持って視聴覚室に移動するように言われた所だった。

視聴覚室には先客がいて、派手な髪色が目立つ。

「特進と合同でやるんだね。いつもゲームとか持って来てるけど大丈夫なのかな?」

「ご心配なーく!先輩から情報入ってるから今日の鞄は優等生でっす!」

背後から明るい声と共に肩を抱かれて、驚いて振り返ると黒崎君だった。

「そ、そうなんだ…。流石だね。
あ、昨日はありがとね!」

「全然だいじょーぶ!俺さ、待ち合わせ忘れてて相手激オコだったんだけど、人助けしてたって言ったら許してくれたからむしろ有難かった!」

悪びれもせず言う黒崎君に思わず笑ってしまう。
と、急に彼が仰け反った。

「痛っえ!何すんだよ、蓮!」

見ると、黒崎君の太腿に長い脚が蹴りを入れてる。

「急に走り出したと思ったらこれか。腕退けろ。」

急な蓮の登場に心臓がひっくり返った。
昨日の事を思い返すと嫌な汗が止まらない。

下手したら昨日のあれで、俺が蓮を好きだってバレたんじゃないか⁉︎
何とか弁解しないと、と思うのに、見つめたまま声が出なくて…。

パチっと目が合うと思いっ切り逸らしてしまった。


あぁぁ!!これじゃあ火に油!!!


その時、担任が入って来て荷物検査の説明が始まった。
皆んな大ブーイングだ。

だけど…

バァン!!

大きなドアの音と共に視聴覚室に入って来た人物に、部屋の中が静まり返った。

「ゲッ!鬼丸じゃん。」

黒崎君が小声で呻く。

鬼丸こと田丸先生は、学年主任兼体育教師。
デカイ声と鋭い眼光が威圧的で、かなり厳しい事で有名だ。

「アイツ、特進のこと目の敵にしてんだよな。」

特進は服装に関して自由なんだけど、田丸先生がそれに猛反対してるのは周知の事実だ。
彼曰く、『服装の乱れは心の乱れ』らしい。

ドアの前に仁王立ちする田丸先生に、部屋の緊張感が一気に高まる。

その隙に、荷物検査が始まった。
検査する先生は3人で、生徒はランダムに呼ばれる。
(田丸先生は何でいるんだろう。見張り?)


パーテーションがあって、プライバシーには考慮してるけど当然あんまりいい気持ちはしないよなぁ。

啓太は直ぐに呼ばれて行ってしまった。

俺ももうすぐかもしれない。
なんとなく鞄の中を探って…見慣れない箱に首を傾げる。

これって…え???

それが何か悟った瞬間、全身から血の気が引いた。

「晴、どうした?」

様子のおかしい俺に気付いたのか、蓮が小声で尋ねる。
だけど、上手く答えられない。

「…これ……」

震える手で掴んだその箱を見て、蓮が息を呑んだ。

違う、俺のじゃ無い!
全く身に覚えが無いんだ!

そう言いたいのに、舌がもつれて上手く言葉が出ない。
そんな俺に、蓮は声を押し殺して言う。

「寄越せ。」

「え?」

良く理解できないまま、蓮が俺の手からそれを奪うのを呆然と見ていた。

「れ…」「切藤!!何してるんだ!!」

突然の大声に、部屋の中の全員の目がこっちに注がれる。

田丸先生はズカズカと蓮に近付いて、その手から箱を奪い取るとニヤリと笑った。

「ほぉ?これは…タバコだなぁ?」

ヒュッと息を呑む声があちこちから聞こえた。

「立て、切藤!お前は別室だ!」

無理矢理蓮を立たせる先生に向かって、俺は必死に言った。

「先生!違うんです!それは…」「触んじゃねーよ。行けばいんだろ?」

俺の言葉を遮って、蓮が田丸先生の手を振り払う。

「なんだその態度は!これだから特進は!!」

ヒートアップした田丸先生は俺の話しなんか聞いちゃいない。


言い争いながら部屋を出て行く二人を、残された全員が呆然と見送る。




「な…なんで…?」


ふいに聞こえた声に振り返ると、真っ青になった相川さんがドアの向こうを見つめていた。




●●●
今後タバコに関する表現がありますが…未成年の喫煙ダメ、絶対。








































しおりを挟む
感想 82

あなたにおすすめの小説

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

妹を侮辱した馬鹿の兄を嫁に貰います

ひづき
BL
妹のべルティシアが馬鹿王子ラグナルに婚約破棄を言い渡された。 フェルベードが怒りを露わにすると、馬鹿王子の兄アンセルが命を持って償うと言う。 「よし。お前が俺に嫁げ」

俺はすでに振られているから

いちみやりょう
BL
▲花吐き病の設定をお借りしている上に変えている部分もあります▲ 「ごほっ、ごほっ、はぁ、はぁ」 「要、告白してみたら? 断られても玉砕したら諦められるかもしれないよ?」 会社の同期の杉田が心配そうに言ってきた。 俺の片思いと片思いの相手と病気を杉田だけが知っている。 以前会社で吐き気に耐えきれなくなって給湯室まで駆け込んで吐いた時に、心配で様子見にきてくれた杉田に花を吐くのを見られてしまったことがきっかけだった。ちなみに今も給湯室にいる。 「無理だ。断られても諦められなかった」 「え? 告白したの?」 「こほっ、ごほ、したよ。大学生の時にね」 「ダメだったんだ」 「悪いって言われたよ。でも俺は断られたのにもかかわらず諦めきれずに、こんな病気を発病してしまった」

処理中です...