【完結まで残り1話】桜の記憶 幼馴染は俺の事が好きらしい。…2番目に。

あさひてまり

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高校生編side晴人 事件の始まり…なのにキスとかそれ以上とか⁉︎

41.バイバイ(side木村桃)

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賑わう校門の前に立ってどれくらい経っただろう。

ずっとそこにいる私を門の守衛さんが不思議そうに見ているけど、全く気にならない。

頭の中は今日あった事でいっぱいだった。





あの時、プールに陽菜ちゃんが来る気配を感じて、言われた通り萱島君を引き寄せてーー

思い出したのは、前日にした初めての友達であるナナとマユとの会話だった。

「桃、どうしたの?明日の予定ってそんな嫌なやつ?」

「うん…すっごく気が重い…。」

「元気だして!あ、そうだ!じゃあさ、予定が終わったら集まろうよ!」

「え?」

「桃のお疲れ会しよ!」

「賛成ー!!何でも話し聞くから!桃、頑張っておいで!」


そんな言葉で送り出されたのに、私は二人の気持ちに気付いてなかった。

二人とも、私の事が大好きなんだって。

それを教えてくれたのは他でも無い。
今、私が嵌めようとしてる萱島君この人ーーー。


そんなの絶対にダメだ!
私はそんな事したくない!
もう誰も傷つけたく無い!

大好きな友達に、誇れる私になりたいーー。


ここで私がやめても陽菜ちゃんのことだから、上手い事言って私と萱島君がそう言う関係だって流れに持って行くだろう。

それなら、陽菜ちゃんが予想もつかないような状況に持ち込めばいい。

私が今できる事は、それだけ。

ごめんなさい、萱島君。
どうか、私を許してーー。

バッシャーン

勢い良く引いた腕に、萱島君の華奢な身体はプールに吸い込まれていった。

「晴!!」

大声がしたと思ったら、背の高い男子が凄い勢いで萱島君の元へ走って行く。

この人が「蓮」なんだろう。
なるほど、陽菜ちゃんが彼氏にしたいって思う訳だ。
顔の作りも身体の作りも、明らかに一般人のレベルじゃないもの。
世界的人気の某アイドルグループのメンバーって言われても納得しちゃいそう。

その「蓮」が萱島君を引き上げると、それはそれは大切そうに腕の中に抱き込んだ。

そして、私に向けられる明らかな敵意。

一方、陽菜ちゃんはと言えば、驚きに目を見開いて立ち尽くしてる。
私の作戦は一応成功と言っても良さそうだ。

蓮」の圧が怖すぎて身体が震えるけど。
どうしてこうなったか話すと約束すると、彼は萱島君を抱きかかえた。

お姫様抱っこ!!!

なんて尊いの⁉︎
なんだか新しい扉が今開いた気がする!!

そんな私の心情と陽菜ちゃんの心情は真逆だったらしい。

萱島君に食ってかかって「蓮」を怒らせて、止めに入った私を突き飛ばそうとしてくる。

咄嗟に避けたら、まさかの陽菜ちゃんがプールに落ちてしまった。
そこからなおも「蓮」に助けを求めていたけど、彼の目には萱島君しか映ってない事は明らかだった。

何の躊躇いも無く自分にに背を向けるその姿に、陽菜ちゃんが怒りで震えている。

「どうしてあんな奴に…!!」

「陽菜ちゃん、上がって?私、駅まで行ってタオルとか服とか買いに…」
「いらないわよ!!」

最後まで言う前に陽菜ちゃんの絶叫が響いた。

「アンタなんかに世話されたくない!!
この裏切り者!全部アンタのせいじゃない!!
私がいないと存在感価値もないくせに!!」


ずっとずっと、憧れだった。
私には逆立ちしたってなれない、キラキラを纏ったその姿。
近付けるなら、何でもした。
私なんか、それくらいしか価値が無いから。


でも、でもね、陽菜ちゃん。


「陽菜ちゃん、私ね、友達ができたの。」


この後ナナとマユに会えると思うと勇気が湧いてくる。


「私の事大好きでいてくれて、私も大好きなんだ。だからね、もう陽菜ちゃんにいてもらわなくても大丈夫だよ。」

呆気に取られたような表情の彼女に、私は嫌味でも何でも無く自然と言葉が溢れた。

「今までありがとう。憧れの陽菜ちゃんとまた会えて嬉しかったよ。
でもね、友達が待ってるからもう行かなくちゃ。」

そして、多分今まで彼女の前で見せた事がなかった笑顔を向けた。

「バイバイ、陽菜ちゃん。」

背を向けて、日の光が当たる明るい外へと歩き出す。



あの日、好きな相手を「命令」で傷付けてしまった中学生の私。

ずっと胸の中で蹲っていたその私が、笑った気がした。

やってしまった事は戻らないけど、だからこそせめて、精一杯。

大切な人を大切にするね、萱島君ーー。

彼と出会えて良かった。
彼にとっては災難な思い出になってしまったのは申し訳ないけれど。



気持ちは晴れやかなのに、後から後から涙が出てくるのはどうしてだろう。


ああ、早くナナとマユに会いたいなぁ。





●●●
ちょっと拗らせちゃっただけで、桃は元々頭のいい子です。



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