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高校生編side晴人 好きって自覚したら失恋したよ

6.夢とか目標とか

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「襟足短くして、前髪の分け目変えるね。」

シャンプーの後、話しながら手際良く俺の髪を切っていく美優さんは流石プロだ。

苗字呼びは慣れないからと言われたので、下の名前で美優さんと呼ばせてもらうことになった。

「うちのお店、店長はお父さんなんだけど草野球で骨折しちゃってね。今だけ私が代理なの。」

「そうなんですね。将来は美優さんが継ぐんですか?」

「そうそう。父の仕事を見て来たから、子供の頃から漠然とお店を継ぐんだなって思ってたんだ。」

凄いなぁ。
美優さんは将来自分がやりたい仕事が分かってたんだ。
遥もそうだ。
自分の夢があって、それに向けて行動してる。

それに引き替え俺は、まだ何も決められてない。
夢も、なりたい職業も、やりたい事も。
全く白紙の状態だ。

「凄いですね、夢を叶えて…。」

すると驚いたことに、美優さんは首を振った。

「それがさ、そんな大層なものでもないんだな。」

「え?」

「親の仕事を見てたから、それしか知ろうとしなかったの。
美容専門学校って、当たり前だけど美容に関する事しか習わないのね。」

まぁ国家試験のために化学とかはやらされるんだけどね、と美優さんは顔を顰めて続けた。

「とにかくさ、自分の世界が狭くなるの。
一般常識とかも知らないし。
大学出た子達の会話が分かんなかったり。」

ゼミとか、トーイックとか、タンイとか。
何の事だかさっぱりだったよと笑う。

「美容師になって、実際にお客様と触れ合うようになってから色々知ったんだ。
ほら、色んな職業の方のお話し聞けるでしょ?
新発見ばっかりだったの。
自分に知識が足りないって分かったのもこの頃。」

そうだったんだ…。

「だからね、早くから夢とか目標があればいいって訳でもないかもって思うの。
若ければ若い程、どうしても突っ走りがちになっちゃうから。
勿論、夢を追いかけてるのも素敵な事だけどね。
視野を広く持つのも大事かなって。」

美優さんの言葉は俺の中にストンと落ちた。
夢とか目標がない俺ってダメだなと思ってたけど、そうじゃないのかもしれない。

「美優さん、俺やりたい事とか分かんなくて…。
これと言って得意な事も無いし…。」

普段だったら初対面の人に相談なんかしないけど、気づいたら俺は、ここ数日の心のモヤモヤを吐き出していた。
美優さんには話を聞いてもらいたくなるような、不思議な魅力を感じる。

「目標とか夢とか何もない、こんな凡人の俺が何でも完璧なおさな…じゃなくて、友達と一緒にいていいのかなって考えちゃうんです。」

そっかそっか、と美優さんは頷いてくれた。

「将来に悩む頃だよね。たださ、真っ白って事は何色にも染まれるって事じゃない?
だから今は、知る事から始めたらいいんじゃないかな。」

知ることって何だろう?





●●●
高1で将来のこと考えてる時点で充分偉いと思うんですが、晴人の場合周りが優秀すぎて(*_*)















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