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第四章
51 〜それも?
しおりを挟む『そなたの、魂は藍で在ったもので、藍ではない』
その言葉に、何故か智美は安堵する。
しかし、少し不安になる、記憶のメモリーが有るということは、先ほど見た幻の内容が実行されたという事だろうから、ならば、その記憶を青龍は智美に移すのだろうか。
『あの事柄には続きがあるのだが、もう、我はそなたに記憶を書き加えようとは思っておらぬから、安心するがいい』
青龍がそう言うので、智美は再び安堵した。
そんな、智美を青龍はただ寂しげに見つめた。
青龍はふっと視線を外し、指で挟んでいた光の文字の帯を離し空中へ漂わせると、上げた手をそのままに指先をじっと見詰めた。
暫くすると指先に光の粒が溢れ出し、その場で光が増すごとに凝縮と収束がなされ、光が弱まったと思うと、そこには先ほど見た青魔晶の核よりは少し小さめの青魔晶がふんわりと光を放って浮いていた。
(…綺麗)
智美が見惚れていると、青魔晶の近くを漂っていた先ほど青龍が手放した光の帯が青魔晶に巻き付き、強い光を放つった。
眩しいと智美が目蓋を瞬く間に、光は無くなりそこには青く深い紺色がかった青魔晶が、青龍の手の上に浮いていた。
『これを、其方に与えよう。
そしてこれでを使って儀式をすれば、【言祝ぎ】を施す事が出来る。』
浮いたままの青魔晶を、そのまま智美の方にやると、前に出した智美の手のひらにポトリと落ちる。
「【言祝ぎ】ですか…という事は、私が【清き乙女】なのですか?」
智美の言葉に一瞬考えた青龍だったが、ああと思い出した様に言葉を繋いだ。
『そう言えば、【清き乙女】と伝聞してあったか、これが使えるのは、藍の魂を持つ者のみだ、清きも乙女も関係は無いが、しかし何故わざわざ問い質すのだ?』
(という事は、手塚さんはどうやっても、コレを使う事は出来ないという事なのか)
青龍の言葉に、カイが青魔晶を使った儀式で言葉が通じる様になり、文字も分かるという事を言っていたのを思いだすとともに、智美は清き乙女だと思っていた愛子の事を思いだし、つい呟いてしまう。
「まあ、彼女には水入り水晶が有るから大丈夫か」
『水入り水晶?』
問い返してくる青龍に、智美は先の質問の答えでもある、一緒に来ている愛子の事を話した。
『そんな者も、一緒に来ていたのか?
この盤園の青国はあらゆるものが我の管轄内だが、別盤者は我の感覚から外れる者なのだ、龍妃がよく面倒を見ていたが、そう言えば言葉が通じないので、あの水晶を貸し出す事となっていたな…だが、あれは彼奴の妄執に取り憑かれているからなあ。』
「彼奴の…妄執ですか?」
龍妃にまつわる話になったためか、青龍は懐かしそうにしながらも、眉をひそめながらはなしだす。
『今の宰相家だったか?イ家の当主の証である青魔晶の指輪に、我の妃に横恋慕したイ家当主になった、彼奴の妄執の記憶がこびりついて、代々指輪を受け継ぐ当主に暗示をかけている。
横恋慕したそいつは別盤者だったのだが、水晶を貸し出せる状況になくてな、水晶が龍妃の物だった事と自分には貸し出されなかった事が起因なのか、亡くなってとうに魂さえこの盤園に無いと言うのに、妄執の記憶だけが残り、イ家に取り憑いている』
最後には、冷めた目で遠くを見ながらそう言った青龍は、さすが神と言うべきか何処か得体のしれない怖さが有った。
『ああ思い出した、それも有って【清き乙女】としたのだった』
「それも?」
青龍の言葉を不思議に思い問い返すと、思いもよらない問いが智美に返って来た。
『其方はカイゼジャールの泉侶であろう』
「えっ、はい、そうです」
『…藍の…龍妃の生まれ代わりが別園から来ると、伝えてあったら、其方はすぐ様隔離されて、我の元に送られて来ただろう、カイゼジャールの泉侶であるのに、ただ、【言祝ぎ】を扱える別盤者が来るとだけ伝えると、今度は水晶を貸し出された別盤者が彼奴に狙われる。
だから手を出されない様【清き乙女】とした」
青龍の説明に、智美は一つ疑問が起きる。
それを恐る恐る言えば、青龍はその神威を感じさせない表情で、しれっと言った。
「あ、あのう…カイ皇子の泉侶が来て【言祝ぎ】をおこなえると言えばよかっただけでは…」
『我は龍妃を奪われるのだ、簡単に渡してなどやるものか、それにカイゼジャールには来たら教えてやるといってあったしな』
その言葉に、智美は絶句する。
何とも人間味な理由で言葉をにごし、偽りの言葉を使ったのかと思うと、遠い目をしたくなる。
『だがその代わり、我は待ってやっただろう』
そう言った青龍の瞳は、親が子を思う瞳に似ていた。
『すぐ様我に会ってしまったら、我の気で魂が揺さぶられ、泉侶の想いに応える事が難しくなるやも知れぬ、故に待った其方たちの気が交わるのを…
だか、よく見れば交わると言うより、纏っていると言うべきか』
青龍に言われた事で、ジーサに言われた事を思い出し、思わずピキリッと智美は硬直する。
そして、今までの青龍の言葉を深読みすると、公平だと言われている青龍であっても、感情で左右されるのだろうかと思う。
「先ほども思ったけど、もしかして処女じなくても大丈夫なのかな?」
その台詞に青龍は、あくどい顔でにんまりと笑い話しを続ける。
『そうだな、藍の魂である事が鍵だからな、生娘でなくとも大丈夫だが、こちらの盤園の者と多勢に交わるのは儀式をするには困るだろうな』
言われた台詞に、智美は何か嫌な予感がする。
聞きたく無いが、気にはなるので青龍に聞けばていよくはぐらかされた。
「どう言う意味ですか?」
『それは、カイゼジャールに聞くがいい、
それでは、元の盤園に戻るかの』
そう言って手を差し出されて、智美は従うしかなかった。
──────────────
後書き
神様は独自ルールで生きてます。
藍関係以外は、冷徹なほど公平なんです。
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