清色恋慕 〜溺れた先は異世界でした〜

月峰

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第四章

40 〜陛下にお願いがあります

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新たなる展開です。
──────────────



 鏡の様な衝立に写る人たちは、思っていたよりも若々しかった。
 実際に直接会っている訳では無いが、年月に培われた威厳と高貴さが、感じられて自然と、首が垂れる。
 だがしかし、頭を下げながらも智美思ったことは、下品な事だった。

(胸デカ!!)

 皇后さまは、FカップどころかHカップはあろうかと言うほどの、爆乳の色香漂う熟女であった。

(ここに来てから、胸の大きい女性を見たのははじめて…じゃ無いか、食堂のおばさんがけっこう大きかったかなあ。でも、浴場ではスレンダーな人しか見た事なかったしな)

 智美は思う、別にセクシーなドレスを纏って居た訳でもなく、どちらかと言うと、禁欲的なほど肌の色が全く見えない服装なのに、その豊かな胸が全てを凌駕して、色香漂う淑女にしていた。

「うわあ、美魔女」

 横から、ぼそりと聞こえて来た言葉に、思わず相づちを打ちたくなったが、ぐっと堪える。
 皇妃様の印象が強烈で、つい皇帝に意識がいかなかったが、美魔女の夫である皇帝も、渋い色香漂うイケオジで、二人揃ってクラクラ来そうなほど、目に眩しい方々である。

 何故、愛子と二人智美が、鏡越しに謁見する羽目になったのには訳があった。

 この青国は、皇家が世代交代する際、皇帝が皇子に後を任せて視察という名の挨拶回りで、1、2年かけて諸国を回る。
 その間の皇子の采配も考慮されるので、様子見でもある。
 無事、全ての領を廻り終えてのち、城都で退位と即位である譲り渡しの儀が行われる。その時に各領の公主が儀式に集められるのだ。

 今は、世代交代のために、皇帝は各領に出向いている。今は城都から一番遠いヨ領の青泉樹が有るリョキュに着いた為、青泉の力で連絡が取れ、簡易的に謁見ができる事になった。

『頭を上げてくれませんか?サトミ様』

 柔らかい女性の声に、恐るおそる顔をあげるが、視線を合わせる程の勇気はなかった。
 そんなさかなに目の端に写るは、ほけらと気の抜けた顔で相手をマジマジと見つめている、愛子が目に入った。
 智美は全く、緊張など感じさせない愛子にある意味感心する。
 そんなところに先ほどとは違う、重厚な響きがあるのに、滑らかな深みのある低い声がかけられた。

『よもやお二人も、清き乙女がこちらへ来ていただく事になろうとは、お二人には申し訳ないことではあるがこの国の皇としては、ありがたく思うっておる』

 その言葉に、智美は感心する。
 どちらかが清き乙女と言う態度では無く、どちらも清き乙女で、より相応しい者が儀式をすると言う表向きの態度なのであろう。
 実際そう思っているのか、建前で言っているのかは、流石皇帝であるので読み取れなかったが、その言葉を聞いた愛子は、何故か不機嫌な顔になった。
 それを目の端でとらえながら智美は、疑問に思いながらも顔は、前に向けていた。

「陛下、その事につきましては、私達にも判断がつきませんので、青龍様にお伺いしたいのです。
 それに関連して、陛下にお願いがあります」

 智美は、向けてなかった視線を陛下に向けて、話した。お願い事をするのに、相手の目を見ないのは失礼だと思ったからだ。

『願い事か…、
 聞き届けるかは内容によるが、サトミ殿は何を願うのか?』

 先ほどまで、気圧されていた様子の智美が、はっきり物を言うのを皇帝は、面白いものを見る様に言葉を紡ぐ、そして智美のまわりにいるの者が願い事を言い出した事に、誰も咎めないのを見て、事前にまわりに相談していたのだろう事がうかがえた。

「青神泉の洞窟へ入る許可を頂きたいのです。
 普段、青龍様はそこにおられるとおうかがいしております。今は女神の元におられ会うことは叶わないと、青泉使総代様にお聞きましたが、私達が問いかける事により、青龍様からご返答を頂ける可能性が少しでもあればと思い、お願い申し上げております」

 智美は早く【清き乙女】が愛子だとハッキリさせたかった。
 いまだにどちらかわからず、二人とも【清き乙女】である対応が続いている。
 智美は、カイは【清き乙女】だから甲斐甲斐しく世話してくれるのだろうと言う状況が、相手が好きだからこそ苦痛だった。
 好きな人から構われれば、それは嬉しいけれど、カイは義務でしているのかもしれないと思うと、気持ちが沈む、その気持ちの上がり下がりが辛くて落ち着かない。
 だからもうさっさとハッキリさせて欲しかった。

「私達はそこから来たと、うかがっておりますが、気を失っておりましたので、泉の記憶は全くございません。
 青神泉の場は皇族の方か、青泉使の方しか入れないと聞いております。
 陛下にお会いもしておりませんのに、勝手に入る事は憚られると思いまして、許可を得てから青龍様に問いかけたいと思いまして、お願いしております」

 智美の言葉に皇帝は智美ではなく、横に居る愛子に目を向ける。

『アイコ殿もそう願うか?』

 自分に声をかけてくると思ってなかったのか、愛子はビクッとして一瞬黙り込んだが、恐る恐る言葉を返した。

「…まあ、そうですね…」

 そう答えてはいるが、顔は何か不満げな様子だが、流石に場に飲まれたのか、いつもの様なわがままなもの言いはしなかった。

『では、許可しよう、
 願わなくとも、こちらからお願いする事でもあったのだ。
 青龍様がこちらの問いかけに、応えてくれる事を願おう』

 皇帝のその言葉に智美がほっとすると、皇妃がにこにこしながら、こちらを見ている事に気付いた。
 智美の気をひいたのに気付いたのか、皇妃が智美に声をかけて来た。

『サトミ様、カイゼジャールは言葉少ないと思いますが、どう思われてますか?』

 皇妃のピンポイントな問いに、智美は対応出来なくて頭が真っ白になる。

 己の問いに固まる智美を、にこにこ見ていた皇妃の眉が心配そうに寄ると、横から声がかけられた。

『母上、』
『あら、居たのですか?カイ』

 カイも皇妃からの問いの答えを聞きたかったが、智美が困った様子なので声を挟む。

 カイの声を聞いて我に帰った智美は、しばし言葉をつまらせた後返事をした。

「…カイ皇子には、色々お世話になっております。
 言葉は少なくとも、気遣いは多く頂いておりますので、ありがたく思っております」

 その言葉に、皇妃はにこにこ笑みをたたえつつも、カイに目を向けたその瞳は、何やら憂いた様子だった。





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