清色恋慕 〜溺れた先は異世界でした〜

月峰

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第三章

38 ~違います! これは借りてるんです

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『泉侶ですか』

 横から聞こえて来た声は、何処か忌々しい感情が滲み出た声色だった。智美はその声に驚いて、横で階下を見ている宰相に目を向けた。

 その視線に気付いたのか、宰相は智美にちらりと目を向けたが、また階下に目を向けたまま、話し出す。

『聞いてるでしょう?泉侶の事は』

「詳しくは、聞いていないので、どんなものなのかは分かってはいないのですが…伴侶みたいなものですか?」

 智美の言葉に、宰相は怪訝そうな視線で智美を見たが、何の感情も載せない瞳のまま、言葉をつないだ。

『成人の儀で青泉水に触れる事で、まれに啓示を受ける者がいます。
 その啓示は、魂の伴侶、番いの印象を知らせるものでだそうですよ、まあ、私には啓示がありませんでしたので、人伝の話ですがね。
 一説には、龍妃を乞い願う、青龍様の想いに触発されてるのではないかと言われてますね』

 智美は宰相の言葉に、少なからずショックを受けている自分に途惑った。

『啓示を受ける者も、青龍様の血を引いている者が多いので貴族に多いのですが、それでも稀です。
 なのに、庶民で啓示を受けて、すぐに見つかるとは…』

 宰相の物言いに少し引っ掛かりを感じた智美が、怪訝そうな顔をしたからか、宰相は飲み込んだ言葉を説明した。

『啓示を受けたとしても、必ず相手に会えると言うものでもないのですよ。
 大概は、見つけるまで探し求め、恋い焦がれつつ探し求めながらも、あまりの見つからなさにあきらめてしまう者もいる。
 一時期はカイ皇子もその様に言われておりましたが、見つかったようで何よりでございます』

 そう言って智美に頭を下げる宰相の行動がの意味がわからず、智美が途惑っていると、続けられた言葉に、慌てることになる。

『そのピアスは、カイ皇子の青魔晶でございましょう。
 よもや、カイ皇子の泉侶が別盤者だとは、今思えば、カイ皇子の成人の儀後の行動もわかるような気がいたします。』

 隠してはいるが、少々皮肉気に感じる口調で話す宰相なのだが、そんな事より言われた内容に驚いて、宰相の表情など気付かない智美は慌てて、言葉を発した。

「違います! これは借りてるんです」

 智美の勢いに驚きながら、宰相は途惑った。
 何故なら、カイ皇子から直接聞いた訳ではないが、アル皇子の側近タンザに、智美はカイ皇子の泉侶だとはっきり説明されていたからだ。
 タンザは、イ公家の連面に続く行動を記憶していたので、懸念を抱き別盤者である智美カイ皇子の泉侶に手を出されては困るため、はっきりと明言していた。
 そこに、口を挟む者がいた。

『そうだよ、愛がこれ借りてるから、おばさんの分無くてさ~』

 愛子は秘宝の水晶を見せながら話すと、宰相の目が、一瞬きらりと光った気がした。

『仕方がないから、カイ皇子が自分のピアスに魔法をかけて、おばさんに貸してあげたんだよ』

(貴方が、貸し渋ったからこうなったんでしょうが)

 愛子の言い方に、心の中で悪態を付きながらも言っている事は事実なので、智美は黙り込む。

『そうでございましたか、別盤者に貸し出される水入り水晶は、アイコ様がお持ちでしたか。』

 先程の怪訝そうな顔とは打って変わった表情で、宰相はアイコに話しかける。アイコはうなずくような仕草をして、水晶を見せびらかしていた。

『そうそう、アイコ様は17とお伺いしております。
 私の一番下の息子と歳が近いので、話し相手にでもと連れてまいりました。』

 そう言って、宰相の後方から前に出てきた者は、宰相とは髪、瞳とも色は違うが、面差しはにていた。

『サジュルマサと申します。
 私は、先月18になりましたので、アイコ様とは一つ違いとは言え、ほぼ同い年ですね』

 サジュルマサは、智美を丸無視して、アイコに向かって挨拶をした。そのあからさまの行為に、智美は呆れるが、愛子は分かっているのか居ないのか、にこやかに挨拶してきた相手に見惚れていた。

『宰相殿、これはどう言う事です。』

 そんな所に、儀式を終えたミエルがイ領の青泉使を従えて現れた。視線の先には愛子に話しかけているサジュラマサがいる。
 後からこの場に来たミエルではあるが、サジュラマサは色味が違うにしろ顔立ちは宰相に似ているので、血が繋がって居るのは分かる。
 当代宰相家であるは、に関わる事は、青龍様から禁じられている。

 ミエルの睨むような面差しをまともに受けながらも、しれっと宰相は言う。

『私は、である、愛子様の話し相手になるかと、歳の近い息子を連れてきたまでです。』

『詭弁ですか!』

『それに、あれはイ家の者ではありませんよ』

 宰相の物言いに、ミエルは眉を潜め、更に宰相を強い面差しで見詰める。

(認めてない庶子という事ですか、全く忌々しい。
 しかし、何故アイコ様だけに…流石に皇家の泉侶には、手が出せませんか…)

 宰相、ミエルそれぞれの思惑を他所に、智美は一人物思いに耽っていた。







────────────
後書き

泉侶の遭遇認識が違うのは、皇家、貴族、庶民によって発生確率と出逢い率がちがうので、皇族は割と出会えて、行動範囲が狭い庶民は出逢い率が下がります。
宰相であるイ家は、泉侶を得たものが居ないので、庶民の感覚です



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