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第三章
37 ~あれは青魔晶なのかな?
しおりを挟むミエルは青水樹に向き直り、【言の葉】を使い始めた。
智美には聞き取れない言葉たちが、後ろ姿しか見えないミエルから光の文字となり立ち昇る。
立ち昇る光の文字たちは霧散し、青水樹の球体の一部分にある、透かし彫りのような金属プレートで出来た【文様】に集まりだした。
球体の中は揺らめく水のようで、集まりだした光を受けて、幻想的に光が揺れる。
その青い揺らめきの中に、一際濃く青い塊が見えたような気がして、智美は目を凝らした。
(さらに濃い青色…何か模様?二本の筋みたいのが薄っすらと光ってる)
青い球体の中に何かコアのような色の濃い部分が見えて、目を凝らすうちにそこに何やら薄っすらと二本の筋のようなものが見えた。
その時ミエルの【言の葉】は止まり、言葉の光を受けた【文様】は輝きを落ち着かせ、中央部の円形の透かし部分ががぐにゃりと空間が歪んで見えた。
そこで再び【言の葉】を使いだしたミエルの動きにより、光り輝く言葉の帯の先が歪んだ空間に入ったと思ったとたん、ミエルが手を上げ【言の葉】の帯を引っ張るようなしぐさをした。
ぶわりと歪みから布を広げたように、水の膜のようなものが階下を覆った。
「うわぁ」
「なにこれぇ!すご~い!」
思わず小声で感嘆の声を智美は上げるが、愛子は何の躊躇もなく声を上げる。
そんな声を横に聞きながら、智美の目は階下のまるで水面のような膜を見つめる。
高台にいるミエルの足元に広がる水面のように感じる膜は、透けた先に見える並ぶ人たちがまるで水の中にいるように見えた。
見つめているといつの間にかこちらを向いていたミエルが、【言の葉】を紡いでいるその【言の葉】の帯は、膜上にとどまりゆらゆらとオーロラのように光を放ちながら漂ったかと思うと、一瞬にして霧散し、水の膜に降り注いでいく、まるで水面に降り注ぐ光の雪のようにきらきらと落ちていくと、水の膜が弾かれて幾つかの水滴になっていく、水滴はふわふわと宙を漂い幾つかに纏まり、儀式を受けている者たちの頭上に一人ひとりに球体の水がとどまっている。
ミエルは両手を受け皿のようにして口の前へもっていき、【言の葉】の光が手にあふれ出す。
こぼれんばかりに手に受けた【言の葉】を、空へ放つように前へ差し出した。
解き放たれた【言の葉】たちが蝶のようにひらひらと舞い、宙を漂う水球に一つ一つとまっていく、すべての水球に蝶のような【言の葉】が付いた時、水が滴るように落ちはじめ、下にいる成人たちは一様に少し頭を垂れてそれを頭で受けている。
水が落ち切ると光る蝶の【言の葉】は二つに分かれ儀式を受けている者の両耳にふわりと止まり、光を少し強め、すっと消えた後には青いピアスが見えた。
(あのピアス、おしゃれじゃなくて儀式の一環なのね)
智美は、男性が付けていた青いピアスがこういうことで付けているのだと、今更ながらに気付いた。
「というと、あれは青魔晶なのかな?」
『違いますよ』
自分がカイに借りているピアスが青魔晶なので、智美は単純にそう思って言葉にしたのだが、それにすぐさま答えたのは、いつの間に近くに来ていたのか、到着時にミエルに挨拶をしていた男性だった。
ミエルがこの人物を宰相と言っていたのはわかってはいたが、改めて紹介されてはいないので、どう問い返していいのか、智美が戸惑っていると、相手は察したように、言葉をつないだ。
『青魔晶を所持するのは、皇族の方だけです。青水樹の成人の儀は皇族の方々の成人の儀式を模したもので、実際は全然違うのですよ、青泉水に触れることが出来るのは、めったに無いので、成人の儀で使われる泉水をどうにかとどめようと、頭にかけられた青泉水をピアスにしてガラスに閉じ込めているのです』
そう述べる相手はにこやかだが、何故か責められているように感じるのはなぜだろうか。
『これは失礼いたしました。紹介がまだでしたね。
私、イ領当主で、この青国の宰相を務めさせていただいております。
タジナバルマサ・イ・ソルデ・マリュミアスと、申します。
以後お見知りおきを、別盤者である、サトミ様、アイコ様』
その時、階下から黄色い悲鳴が聞こえてきた。
何事かと思い目を向けると、テッドが肩ひじ付いて、儀式が始まる前に話していた女性に先ほどできたばかりのピアスの片方を、掌に乗せて捧げるように差し出していた。
先ほどまで騒がしかった階下はしんと静まりかえり、みなかたずを飲むようにその光景を見守っている。
『ロゼリア、僕の泉侶、君に捕らわれた僕を哀れに思うなら、どうかこれを受け取ってほしい』
静かな空間に、テッドの言葉だけがこだまする。その言葉に、相手の女性ロゼリアは、感極まったように口元を両手で押さえていたが、ゆっくりとテッドに歩み寄り、彼から掲げられているピアスをそっと摘み上げ、片耳だけ付けていたループピアスを外して、彼から受け取った青いピアスに付け替えた。
『ええ、お受けします』
ロゼリアの言葉と共に、周りが一斉に歓声をあげ途端に騒々しくなった。
テッドは、相手の言葉を聞くないなや、さっと立ち上がり、ロゼリアを抱きしめた。
階下が一層騒がしくなる。あまりの騒がしさに、智美は呆然と下を見つめていた。
────────────
後書き
突然のフラッシュモブ(いや、踊って無いし)
公開プロポーズと言うべきか…。
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