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第二章
28 〜叫びだしたいくらいだ
しおりを挟む智美の自問
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カイの執務室を出てから、智美はスタスタと歩き続けていた。
平気そうな顔をして部屋を出たが、動悸が激しく手に冷や汗をかいた。
相変わらずの男女関係への耐性のなさに、智美は情けない気持ちになる。
どうして、さらりとかわすことができないのだろう。
智美は小さいときから発育がよく、小学校高学年のころにはもう、今のような女性らしい体型をしていた。
男女の淡い好き嫌いぐらいの感情しか、まだ持っていなかった頃だが、その女性らしい体型は無防備だったのだろう、よく痴漢や変質者に遭遇していたりして、男性というものに嫌悪を抱いていたし、同級生の男子たちは女子に比べればまだ子供の感情で、背も高く肉付きのいい智美は、よく豚とか、牛や熊とか、蔑んだ呼ばれ方をしていた。
そんな智美は、苦手なことは極力避けて通ってきた。
中学では極力男子をさけ、女子高に通い短期大学も女子短大だ。
とにかく苦手なことは避けているのに、恋愛小説や少女漫画など読んで、憧れつづけたりはしたが、しょせん現実ではそんなことはあり得ないのだと、架空の中で浸って満足していた。
二十代半ばの時、このままではいけないとダイエットをして、嫌がる自分を鼓舞して、なれるためと称して合コンや、飲み会など意識していくように努めたが、しばらくしてとても疲れてしまった。
結局苦手なことを避ける意識はぬぐえない、こんな私を好きになる人なんていないと、言い聞かせると以前よりかは、男性と構えず話せるようにはなったが、構えず話せるようになる相手は、男性として意識してない人で、智美のその構えなさからか、相手が好意を示してくることが稀にあったが、その色が見えてくると、プライドなのか怖さからなのか、とたんに智美は距離を取ってしまう。
すると相手もそこで、押してくるほどの気持ちもないのか、引いてしまうのだ。
ゆえに男女の駆け引きなどわかりはしない。
三十になって、いい年した女がこんな十代みたいな初心さ加減なのが自分でも嫌になる。
見た目だって、骨格のしっかりした自分はいくら努力しても、理想の華奢な可愛い感じにはなれないのだと思うと、努力が続かなくなってしまい、頑張って痩せたのに、またぽっちゃっりと太ってきてしまった。
そうなると、坂を転げ落ちるように卑屈になっていく、変にプライドだけは高いから、より一層傷付きたくはなくて、おばちゃんだからわからないよっと、あえて自分から範囲の外に出てしまう。
そんな逃げの状態を続けて寂しいけれど、心の安寧は得られていた。
それなのに、カイの態度にドギマギする自分が怖くなる。
つくづく自分は面食いなのだと思い知る。
身の程をわきまえろっと思っても、自分の年を思い出せ!っと思っても、自分好みドンピシャの顔と、手を持つカイに見つめられると、頭が真っ白になってしまうのだ。
最初はあんな夢を見てしまって、気恥ずかしくて仕方がなかったが、言葉少ないなりにも何故か、いつもそばにいようとしてくれているカイは、智美には心強く、優しく思えた。
不安から泣いていたあの時、あの綺麗な情景を見せてくれたのは、慰めだったのだろうか。
胸を打つあの美しい光景は、智美の不安な気持ちを、しばし忘れさせてくれるものだった。
前から何やらスキンシップが激しくて、話さない分行動に出るのかと思っていたのだけれど、先ほどの壁ドンあごクイの上、軽いキス。
ここまで来ると、智美を女性として見ていて、男性としての好意なのだろうと思うが、思い出すだけでもカイの色香に、動悸がさらに激しくなりそうで、叫びだしたいくらいだ。
カイの色香に当てられるたび、智美は夢を思い出してしまい、十代の様にテンパってしまうのだ。
考えながら歩いていたからだろう、気付くと訓練場が見える渡り廊下に来ていた。
目を向けると、そこには休憩を取る訓練生たちと…愛子がいる。
先ほどの事から気をそらしたくて、この前愛子を諭したことを思い出す。
そしてつくづく、自分はお局様になってしまったんだなあと感慨深く思った。
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後書き
卑屈ですが、無自覚でプライド高いのです。
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