清色恋慕 〜溺れた先は異世界でした〜

月峰

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第一章

17 ~そうか、逃げれば良かったんだ

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  智美はしばらく、何も見えず、何も聞こえなかった。

 ただ辺りに漂う焦げ臭い香りが鼻に付く。

 閃光と地響きでしゃがみこんでいた智美に、触れるものがいる。
ビクッとして身を引き目を瞬かせると、ようやく目に映ったのは心配そうな瞳で智美の顔を覗き込む、カイ皇子の姿だった。

『  ミ、サ ミ、大丈夫か?』

 そこでようやく耳も聞こえるようになってきた。

 智美は大丈夫ですと言おうとして、カイ皇子の後ろに黒焦げになった魔獣の塊が目にうつり、声が出なくなる。
 そして自分の手が震えているのに気づき、その震えを止めようと己の手を握り合わせるが一向に震えは止まらない。

『すまない、こんな怖い思いをさせる事になるとは…』

 カイ皇子は震える手にそっと、返り血を浴びなかった左手を乗せる。
その顔は、少し青ざめて見えた。

『いえ、カイ皇子のせいではありませんから』

 思ったよりしっかりとした声が出た事に、智美は安堵する。

 立ち上がることを促す様な仕草を、カイ皇子がするので一緒に立ち上がろうとすると、カイ皇子が一瞬クラっとよろめいた。
慌てて智美はカイ皇子に手を添える。

「カイ皇子こそ、大丈夫ですか?」

『大丈夫だ。』

『大丈夫じゃありません。最初の魔法もですが、被害を拡大させたくないからとかなりの魔力を使いましたね。』

 軽く返事をするカイ皇子に、近くにいたミエルは庇っていた護衛二人の後ろから出てきて、静かに怒りながら話し出す。

『ザッジ団長!! こちらに少々いいでしょうか?』

 ミエルにしては大きい声でザッジを呼ぶ。

 けが人の確認や、手当の手配など指示していたザッジが、意外な人物に呼ばれて、びっくりしながらも近づいてきた。

『ミエル総代、何用でしょう。』

『この大バカ者を、ジーサの所へ連れて行って下さい。』

『え、カイ皇子をですか?』

 側からは平気そうに見えるので、何故自分を呼ばってまで命じるのかザッジは疑問に思う。

『ええ、魔力欠乏で立っているのも、かなり辛いはずです。』

 そう話すミエルをカイ皇子は睨み返す。

 その双眸を平気で受け止め、ミエルは言った。

『サトミ様はこの私がお部屋まで無事お送りするので、貴方は早く、ジーサに治してもらってください。』





 智美はミエルと、ミエルの護衛の人達と一緒に部屋に戻ってきた。
普段いない護衛がいるのは、今回の演習最後に魔獣を呼び出す事を知っていたお付きの青泉使に強要され、念のため護衛を付けていたことを今更ながらに聞く、念のためだったのだろうが、ある意味付いていて良かったと思う。

 戻りながら、愛子がいない事を疑問に思い聞くと、魔獣が出現した時点で走って逃げ帰っていた様で、気にしなくて良いと言われた。

(そうか、逃げれば良かったんだ)

 あの場所にいても、何ら役に立てなかったのだからとっとと逃げれば良かったのだろうが、驚きと怖さで、思いつきもしなかった。
カイ皇子の動きに魅せられてしまったのもある。

「カイ皇子は大丈夫でしょうか?」

 医局へ連れて行かれる、カイ皇子の様子を思い出しながら智美は呟く様に言った。

 その言葉に、ただの魔力欠乏ですから、ジーサに診て貰えば大丈夫ですと、ミエルは言って呆れた様に続けた言葉が、智美はいまいち意味がわからなかった。

『本来あそこまでの魔獣を呼び出す予定ではなかった筈ですが、それでもカイ皇子の魔力を全て使うほどの、魔獣ではなかったのです。
守りたかっただけなのか、良い所を見せたかったのか、全く呆れてしまいます。』





「お送りいただき、ありがとうございます。」

 部屋の前で、お礼を言う。

『いえ、今日は色々あって疲れたでしょうから、部屋でおくつろぎ下さい。
後で様子を伺う様に侍女に申しておきましょう。』

 そう言って、ミエルは部屋に入るそぶりも見せず戻って行った。

 部屋に入って智美は一息つき、そう言えばミエルはカイ皇子がする様なお暇の仕方をしなかったなと思う。

(まあ、これから就寝する訳じゃないし)

 そう思いながら部屋を見ると、入った時は薄暗くなっていた部屋に光がともっている。

 どうやら、人の魔力を感知してともるらしいのだが、全く魔力のない自分に反応するのは何故かと思ったら、カイ皇子に借りている青魔晶のピアスに反応しているとの事だった。
借りられて本当に良かったと思う。
意思が通じるというのはもちろんの事、これが無いとトイレにも入れないのだから。

 この世界の文明の発展は不思議だ、インフラがすごく発展していて、明かりや空調、水道、トイレ、シャワーなど自分の世界と同じようなものがあるのに、写真や、デジタル機器は無い。
よく考えれば当たり前だ、電気の代わりに魔力の籠った泉水を使用しているのだから。
インフラの充実に驚いていたら、ここまで設備が整ってるのはどうやら城ぐらいのようで、巷ではここまで便利にはなってないとの事だが、城から一歩も出てない身としては、そんなことは分からなかった。

 換気をしていたのか、部屋に付いているいているバルコニーへ続く窓が開いていたので、閉めようと窓に近づくと、窓際に置いてある机の上に、何かおいてあるのに気付いた。



────────────
後書き


この辺は、調整区域
繋がりがおかしかったらすみません。


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