清色恋慕 〜溺れた先は異世界でした〜

月峰

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第一章

14 〜わ、溶けかけてる!

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「ありがとうございます。よろしければカイ皇子もパンをもっとお召し上がりください。
 こんなには食べられませんので」

 何も言わずに教えてくれた事に、にっこり微笑んで、御礼を言う。昨日食べていた量を思うと、魚を渡したとは言え、さらに食べそうだと思ったからだ。

『ああ、では1枚頂くか』

 カイ皇子は少し嬉しそうに智美に返事をすると、真ん中の大きめなパンを1枚取って半分ほど食べていたスープ雑炊の中に千切って入れていた。

 そんな様子をみながら智美はスープの肉をふやけたパンごと、パンですくって口に入れた。ホロホロとくずれるお肉と、スープをたっぷり吸ったパンと、まだ固く香ばしいすくったパンを齧って口の中で咀嚼する。

 香草と塩味のスープだけれどとても美味しかった。

『カイ皇子、贅沢な食べ方ですね』

 智美がスープにしみじみしていると、カイ皇子に話しかけるザッジの声が聞こえて、はっとする。
「良かったら、ザッジ団長もパンを如何ですか」

『え、ありがとうございます。ですがすでに食べてしまったので…』

 ザッジの言葉に、彼の皿を見ると、雑炊の皿と魚の皿は空で、根野菜の和え物のが、2、3口残っていただけだった。

 もっと早く気づけば良かったなとすまなそうな顔に、ザッジは慌てて言い募る。

『それに、サトミ様の分がなくなってしまいますよ』

「いえ、私はもう、手元にある分でいっぱいなので、食べて頂けるならありがたかったのですが」

 そう会話をするのが耳に入ったのかミエルが話しかけてくる。

『ザッジ団長、何なら麦をお代わりしたらどうですか?午後から演習予定ならなおさらそんな量では、あなたには足らないのではないのですか』

『え、いえそんなことは…』

「愛、もうお腹いっぱいだから、何なら全部あげるよ」

 遠慮するザッジに愛子もそんなことを言うが、パン以外は全部手を付けているので、それを勧めるのかと智美は思う。
魚の真ん中あたりをほじる様に二三口食べてある。確かにその部分が肉厚でおいしいところだろうが、見た目的にどうかと思う。根野菜はサツマイモのような甘い芋も入っていたのだが、さほど多くは無く、それを拾うように食べてあり、スープは肉は全て食べてあるが、玉ねぎは食べなかったのか、まるで玉ねぎだけのスープの様になっている。

(好き嫌いは人の自由だと思ってるけど、好き嫌いって問題じゃないよねそれ)

『十分食べたので、大丈夫ですよ』

 ザッジはにっこり笑いながら言ってはいるが、彼の体格を見る限りかなり食べそうだなと、智美は思う。

『らしくないな、遠慮せずお代わりを注文すればいい』

 カイのセリフにジーサがすかさず言った。

『じゃ、お代わりを頼もう!俺、パン少し食べたいから、スープにするや!カイ皇子も麦お代わりする?ミエルは?』

『私は、いいです』

『俺は、スープにしてくれ』

 カイの言葉に、ん?とジーサは思ったが、魚を多く食べてるせいかと思った。

『はいは~い、追加良いかな。』

 ジーサはまた、ガラス細工をつついて、追加を注文した。





 全員が食べ終わり、食後のお茶を提供されているときに、さらに追加で一人一人に置かれた、小皿には薄緑色のドーム状のものがキラキラと光る糸の籠のような飴細工に鎮座していた。

『ライネのシャーベットになります』

 給仕の人がそお言って、皿を置くとジーサはぼそりとつぶやいた。

『ありゃ、がんばっちゃたね』

 ジーサは、せいぜい南方のフルーツがカットされて出てくるくらいだと思ったのだが、氷の魔法が得意なマットはわざわざシャーベットを作ったようだ、おまけに飴細工。どうりで、なかなか出てこないと思った。

「きれいな色、甘ずっぱくて、さっぱりした味ですね。ライネって柑橘系の果物ですか。」

 智美は、おいしそうに一口食べると、だれにというわけでもなくそう聞いた。

『ああそうだ』

 カイ皇子が即座に肯定したが、それでは話はそこどまりだ。おいおいとジーサは思うが、聞いた智美はたいして気にしてないようだ。

『ライネは完熟すると、皮と種の周りの果肉に苦味が出てしまうから、青いままで収穫するんだ。だからこんな緑色をしてるんだよ。』

「そうなんですね、青いまま収穫する柑橘系の果物は、私の世界…盤園にも有りましたけど、たしか青いときのが匂いが良いからだったと思います。それと酸味として、調味料として使われてるのもありますね」

 何気に、ライネの小話をジーサがすると、それにこたえるように智美が話し出したので、ついジーサは別盤の話に興味が行ってしまい、調味料の話で智美と話し込んでしまった。

『サトミ、溶ける』

 カイ皇子のその声に、ジーサはハッとしてカイ皇子を見ると、どんよりとした空気を纏ってジーサを睨んでいた。

「わ、溶けかけてる!」

 カイ皇子に言われて、智美が自分のシャーベットを見ると、表面がどろっとして来ていため、あわてて智美は食べだした。

 そんな様子を愛子以外が、意外なものを見るようにカイ皇子を見ている。愛子は「愛はアイスクリームのが好きなんだけどなあ」といいながらシャーベットをちまちまと削りながら食べていた。





『カイ皇子、そろそろ演習の準備を…』

 ザッジがカイ皇子に話しかけると、その言葉を受けてか、智美に話しかける。

『見に来ないか』

 シャーベットを勢いよく食べたせいで、口の中が冷たくなった智美は、温かいお茶をゆっくりと飲んでいた。

 一瞬誰に言ってるのか分からなかったが、目線は自分を見ている。智美は戸惑いながらミエルに目を向ける午後の予定を聞いてなかったので、カイ皇子の申し出を受けていいのかどうか分からなかったからだ。

『午後は、城の者に城内の案内を頼もうと思ってたのですが、とり急ぐものでもないので見に行かれたらどうですか』

 ミエルは、カイ皇子のもの言いたげな視線に耐えられずそう言った。

『じゃあ、俺も見に行こうかな』

「愛もいく~」

 ジーサの言葉に愛子も便乗する。
にこにこと言うか、にまにまと笑うジーサにミエルはあきれたように言った。
『貴方はそんなに暇じゃないでしょう』

『うーん、でもこんな面白いことそうそうないし』

 そう言って、カイ皇子と智美をみて含んだように口角をあげるジーサにミエルはため息をついた。



──────────
後書き

淡々と進みます。
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