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第一章
11 〜全部は覚えてられなかった
しおりを挟む智美はその場にきて食堂というのが自分の思ていたのとは、少し違うのだなと知った。
道すがらミエルが教えてくれたのは、この城は青神泉がある場所の前に有った白い岩山の頂に青龍様があいの泉を作ったそうなのだが、それに合わせて岩山をくり貫いたり、新たに石を積んだりして作られたのがこの城なのだそうな、だから、城の頂という表現になったのかと、智美は納得する。
ちなみに、この城の西側に白山があり、泉は洞窟の中にあるので、その入り口付近に神殿が山にへばりつくように建てられているそうだ。岩山だった城と神殿の間には建物でもある渡し通りがあり間の谷にには、共同の場所が多くあるという。
その一つが今目の前に有る食堂だ、なんというか、昔知り合いに連れて来てもらったことのある、デパートの社員食堂のようだ、でも見ているといろいろ選べるわけではないようだ。
『サトミ様、私たちはこちらです』
そういわれて、物珍しそうに厨房とつながっている食堂を見ていた目を、通路の反対側に向けるそちら側も、柱が何本かあるにもかかわらず開口部は広く取ってあったが、扉があるわけではなく、布で仕切られているようだカーテンのような仕切りを開いて中に入ると、間にいくつか柱があるが、バスケットコート4面は取れるだろうという広い部屋で、大きめの丸テーブルなどがいくつかおいてあるし、どうやら、その先にはバルコニーらしきものも見える。バルコニーへの開口が広いからか、とても明るい。天井もとても高くて、ふと上を見ると、モザイクガラスのような明り取りの窓が開口の上に幾つもあった。
『あ、来た来た!』
部屋の優雅さに見惚れていた智美だったが、バルコニーへ行く途中のテーブルから聞こえた声に、目をやると丸テーブルに頬杖をつきながら手をふるジーサの姿があった。
『ジーサ、珍しいですね。こちらで食べるなんて』
ミエルがそう言いながら、席に近付くと、それをサッと通り越して、ジーサの右隣りに愛子が座って、挨拶していた。
「ジーサさんこんにちは、いつもどこで食べてるんですか?」
先ほどまでのやる気のなさは何処へやら、ニコニコと、意気揚々とジーサの横に素早く座っている、そんな様子をあきれたように見ながら、ミエルは愛子の隣に腰を下ろす。
智美は円卓の上座ってどっちだっけなあと思いながらも、一番近いミエルの空いている側の席に座ろうとすると、ジーサが手招きした。
『サトミ様、こっちこっち』
ジーサが、空いている左隣の椅子を示すのであらがう理由も無いので、すんなりと横に座ると、左手をすっと出して言った。
『診察するから、手を出して』
にっこりほほえみながら言われ、ジーサは医者と思っている智美は何の気兼ねもなく手をのせた。
昨日のように、何かを探る様子を見せたジーサだったが、すぐににこりと笑って、
『うん、異常なしだね』
と言って、軽くのせていた智美の手をぎゅっと握りしめた。
そのしぐさに、智美はドギマギさせられる。驚いて数秒そのままでいただろうか、ふっと誰かの気配を感じたと思ったら、智美の手を握っていたジーサの手をべしっとはたく者がいた。
『いたっ!!なにすんだよカイ皇子』
叩かれた拍子にては離されて、ジーサは叩かれた手をさすっている。
智美は横を仰ぎ見れば、カイ皇子が不機嫌な顔をして立っていた。
『長い』
ぼそりと、言ったカイ皇子の言葉になんだか一瞬分からなかったが、ジーサの言葉で意味が分かった。
『どこが長いんだよ、数秒じゃないか』
ジーサが文句をいてる間に、カイ皇子は智美の隣の席に座る。
あっけにとられて、挨拶をしてないことに智美が気付いて、口を開けようとしたとき、カイ皇子を呼ぶ男性の声がした。
『カイ皇子、いきなり走らんでくださいよ、ちゃんと聞いてたんですか?午後の演習指導には来て下さいよ。本当は昨日の予定だったんですから』
そう言いながら、一際背の高いいかつい感じの男性が近づいてきて、テーブルの面々に気付いたのか、頭を下げて挨拶をする。
『これは、失礼しました。ミエル総代、ジーサ医局長、お久しぶりでございます』
『やあ、元気そうで何より、ザッジ団長、午後にカイ皇子の事を連れてくなら君もここで、一緒に食べればいいよ』
目であいさつしたミエルと違って、ジーサは気軽に話しかける。ジーサの誘いに戸惑い気味のザッジは、どうしたものかという目をしていた。
『あ、こちらの女性たちは、公式発表はまだあとになると思うけど、別盤から来た【清き乙女】のアイコ様とサトミ様だよ、彼は、騎士団団長の、セトザッジ』
ジーサの重要人物の軽い紹介に、ザッジはあきらめたようにカイの隣の席に座った。
『お初にお目にかかります、騎士団団長を務めております。セトザッジ・キ・ラソルデ・ラジュールです。ザッジとおよび下さい』
「こんにちは、愛子でーす」
「初めまして、門野智美です」
智美は相手がフルネームで、言って来たので自分もフルネームで答えたが、心の中で名前を忘れ無い様に繰り返すが、全部は覚えてられなかった。
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