清色恋慕 〜溺れた先は異世界でした〜

月峰

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第一章

8 〜カイ、何故、サトミを連れてった

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『まあ、年はだいたい見た目通りだったね。
31歳微妙だな…。17歳の方が成人してないんだし確実だろうか?』

 ジーサの言葉に、ミエルは別盤者が来た様子に思いをはせていたことにハッとする。

『それは、どうでしょう。アイコ様は若すぎるせいか、おっしゃっていることが分からないことが多いのですが、とても”清き”と言えるような言動には思えないのですが。』

 ミエルは目が覚めた時からの愛子の言動を聞いているので、思ったことを口にする。

『確かに、来た時の様子も明らかにアイコ様の方が嘘でしょうね。嘘がばれるのが嫌で水入り水晶を渡さなかったんでしょうし…。』

 呆れたようにため息をつきながら、タンザがそう言うと、それまで黙っていたアル皇子が話し出した。

『はっきり聞いてしまえば良いのだろうが、女性にそんなことを聞くのははばかられるし、本当の事を言うとは限らない。
あの儀式に使う青魔晶は特別で、一つしかないし一度しかできない。
言葉の言祝ぎが失敗しても、人は死なないが、明らかにこの国の秩序や組織は崩壊して、国力は衰退してしまうだろうな。
そうならないためにも、間違ってはならない。』

 そういうと、カイの方を向いて少し険しい顔をする。

『カイ、何故、サトミを連れてった。』

『青龍が、俺の泉侶を迎えに来いと言ったから。』

『『『!』』』

 アルの問いに、答えたカイの言葉にみな驚く。

 泉侶とは成人の義の時に起きる神の啓示により、将来の伴侶のことを漠然と知らされ、啓示を受けて得た伴侶は泉侶とよばれる。
皆が皆啓示されるわけではないが、皇族男子は、青龍が住まう青神泉にて儀式を行うことにより、青龍より直接知らされるため、皇子の妻は泉侶なことがほとんどだ。
青龍から直接伝えられるが、はっきりとした内容ではなく漠然としたイメージなことが多いので、政治的策略をされないために、皇子は内容を秘密にしていることが多い、そのため、カイ皇子の泉侶の内容も知られてなかったのだ。

『俺は成人したとき、別盤者が泉侶で、来るとき呼んでやると青龍に言われたんだ。』

 淡々と話すカイ皇子のセリフにみな納得しそうになるが、疑問に思ったタンザが問いただす。

『サトミ様がそうだと青龍様がおっしゃったのですか?』

『いや、だが、サトミが俺の泉侶であるのは間違いない。』

 泉侶に会えば否応なくわかると言われている。
何の根拠もなく本能でわかるというのだ。
こればかりは男性側にしかない本能のようだが、大概において女性に拒まれることはないという。

 何時も無表情に近い顔でいるカイなのに、この時ばかりはほんのりと嬉しそうに見える。
そんな弟の様子にうれしく思うアル皇子だったが、釘はさしておかねばならない。

『わかった。だが、カイの泉侶とはいえ【清き乙女】ではないと言うわけではない。
はっきりするまでは契ってはならない。』

 アル皇子のその言葉にカイ皇子はさっきまでの嬉しそうな様子から、眉を潜ませる。そんな弟にアル皇子は苦笑した。

『その代り、サトミが【清き乙女】であったときは、お前が儀式をすればよい。』

『当然です。』

 アル皇子の言葉に、ぶぜんとしながらもカイは答えた。

『ねえ、アイコ様が【清き乙女】だったら、どうするの。』

 皇子同士のやり取りを見ていたジーザが軽い気持ちで疑問を口にする。

『ある程度の魔力の強い者でないといけないのだが、愛子に選んでもらうだろうなあ。』

 アル皇子の言葉に、タンザが困った顔をする。

『そうすると、明らかにアル皇子を選ぶと思いますよ。』

『そうなのか?それは困るな、私には泉侶がいるのだし…。』

 きょとんとしたように、アル皇子が言いよどむと、ミエルが引き継ぐように言った。

『明日から、二人にこちらの盤園の事を、説明しようと思いますので、その時にでもアル皇子のことは話しておきます。
どちらかが乙女にしろ、こちらに来てしまったからには戻れないのでしょうから、こちらの事を理解してもらわなければなりませんでしょう。』

『ああ、よろしく頼む。』

 ミエルの言葉に安堵するようにアル皇子は答えた。

『アル皇子、宰相には何と伝えましょうか?』

 タンザがそう問うと、アル皇子はため息を付くように息を吐くと、きっぱりとした声で言った。
『宰相家は【清き乙女】と接触を持つことを青龍様より禁じられておるからなあ。
宰相にはどちらかはっきりするまで、待つよう言付けてくれるか。』

『分かりました。とにかく、早く青龍様が戻られるのを待つしかありませんね。』

 タンザの言葉にみな同じ思いだった。


──────────

後書き

謎だらけ~どれだけ明かせば良いのか加減が難しい。

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