清色恋慕 〜溺れた先は異世界でした〜

月峰

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第一章

3  〜え、何これ…イリュージョン?

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(そういえば、彼女はどうなったのかな。)



 ここにきて、自分を巻添えに海に落ちて溺れる原因を作った人物、自分に必死にしがみ付いていた女性を思い出す。
 ショートカットの小柄なかわいい子だった。会社の新入社員の後輩たちを思い出させる。智美には理解できない考え方を持論に生きている彼女たち。女性だから力仕事をやってもらうのは当たり前、いろいろ、おごってもらうのも当たり前、下手すると難しい仕事は代わりにやってもらえると思ってる。
 一見女性がもてはやされてるように映るが、ただ、若いからいろいろしてもらえるのであって、智美のようにトウがたってしまった女性には、もてはやされる状況はなく、その年まで仕事をしていれば下手な新入社員の男性より、仕事ができてしまう。
 これでかわいげがあれば良かったのだろうが、自分のことは自分でする。力仕事でもなんでも、へたに頑張ってこなしてしまう。見た目もちょっと、身長とぽっちゃりのせいで体格がよく見えるので、女性としてではなく、頼れる同僚的な位置に収まってしまうのだ。

 おまけに真面目な智美は仕事場での異性に恋愛感情は持たないと決めている。平々凡々なちょっと小太りな自分が好かれる訳がないというスタンスをとり続けて、30を超えてからは、あえてこんなおばちゃん選ぶ奴いないでしょっと、まだ二十歳にもなってない新入女子社員をみて、思ったりする。

(現実逃避かな…。その現実逃避すら悲しい内容…。)

 会社での自分の立ち位置を思い出して、いまこの状況を考えないようにしてみてもは、それはそれで、自分が悲しくなっただけだったとげんなりしていると、部屋をノックしてすぐ先ほど出て行ったチェリーブロンドの彼女がドアを開けそのあとから、人がぞろぞろと入ってきた。

 智美は何となく椅子から立って迎えた、チェリーブロンドの彼女の物腰が恭しかったから、よくわからないが偉い人物が来たのだと思ったからだ、入ってきたのは男性五人と女性が一人その女性が発した言葉で、智美は最後に入ってきた人をよく見なかった。

「やっと起きたんだ。おばさん。」

 やっと意味が分かる言葉が智美にかけられたが、おばさんと言われてちょっと複雑な心境になる。その言葉を発したのはよくよく見れば、自分を巻添えに落ちて溺れて必死に離そうとしなかった彼女だった。

「まったく、あいのこと巻添えに落ちるから、死ぬかと思ったじゃん。」

「は?何を言ってるの、あなたが私を巻添えにしたんでしょ。」

 自分のことを“あい“といった彼女の、突然の言いがかりに智美はムッとしながら言い返すと、彼女はこれまた素っ頓狂な事を言い出した。

「愛は泳げないから、おばさんにしがみついちゃったのは仕方が無いじゃない。でもこうして助かったんだから。許してあげるよ。」


 開いた口が塞がらないとはこのことか、と智美は思った。
あまりの相手の暴言で、怒りで言葉が出てこない。
ゆえに無言で彼女を睨みつけてたら、彼女といっしょに入ってきた人物が彼女に、何か話しかけると愛は智美が聞き取れない相手の言うことがわかるのか、顔は優越感をにじませたままだったが、声が少し焦った様にすねたように言った。


「え~愛が話せなくなっちゃうから嫌だよ~。渡さなくったって、愛が説明すればいいよ。」


 智美はその様子に、眉が寄る。さっきから不思議な状態が眼前で繰り広げられている。

 彼女に何やら諭す様に話しかけている男性の言葉は自分はまったく聞き取れないのに、彼女がその言葉を理解して返事をしているのは、智美が理解できる同じ日本語。その相手の男性は彼女が話している事は分かっている様だが、同じ日本語を話している、智美の言葉はわからないようなのだ 。

 どうやら、彼女が首から下げている水晶らしきもので、もめているらしい。

 え~、でも、大丈夫だよ。いいじゃん愛が持ってれば…
 愛と言う女の子の言葉を聞く限り、どうやらごねてらちがあかなくなってきたのに、呆れたのか、最後に入ってきた男性が二人の間に入って、言い合いを止める。

(あれ、あの人…??)
 智美はその男性を知っている気がした、けれどなぜそう思ったのか分からない。

 彼は二、三、女の子と話していた男性に言葉をかけて、おもむろに自分がつけていた青い石のついたピアスを片方外すと、手のひらに乗せた。

 智美はその時信じられないものを見た。


 彼の手にあるピアスがふわりと浮くと、彼が何やらつぶやきはじめ空中に連なった模様が薄く輝き漂い始めた。

 その陽炎のような淡い模様が彼の手に浮いているピアスに、リボンで毬を巻くようにクルクルと回転して球になっていくよく見るとその陽炎のような模様は彼の口から出ているようにみえる。

 智美が驚きただただ見つめる中、陽炎のような模様が重なり合い一つの丸い光球となって、一瞬強く光ったかと思うと、ふっと、霧を払うかのように光球は消えて無くなり、残ったピアスだけがぽとりと、再び彼の掌に落ちた。


(え、何これ…イリュージョン?)


 そのピアスをもって、彼が智美に近づこうとすると、部屋にいた男性たちが何か言って近づこうとするのを、目と手で制して彼は智美に近づきピアスを付けた。しばらく使っていなかったピアスホールは狭くなっていて、少し痛かったけれど、智美はその場の雰囲気にのまれてピクリとも動けなかった。ほわりと、触られている耳たぶが温かく感じる。

 年下の20代後半らしき男性にピアスをつけられるという、なんとも気恥しい雰囲気に、智美は目をそらしていたが、つけ終わってもなお、彼は耳から手を離さずにいるので智美が相手を見ると、己を見るのを待っていたらしいその青い双眸はうっすらと、微笑んでいた。

 智美はその青い双眸を見て今日夢で見た人物を思い出す。

 自分に甘い口づけをし、夢とはいえ胸でイカされた相手、あまりの恥ずかしさに智美は頭が真っ白になった。

『カイ、いきなりそれをするか。』

 その白くなった頭に響くように聞こえてきた声に驚いてそちらを見ると、先ほど入ってきた五人のうちの一人の男性、20代半ばハニーブロンドでカイと呼ばれた男性と同じ青い目をしている。いつの間にか、部屋中央にある布張りの椅子の真ん中に座って、こちらを見ていた。まわりの様子からすると、彼が一番偉いのかもしれない。と智美は察しをつけるが、彼が言っていることの意味が分かることに、智美は動揺した。

『意思が通じないと。こいつはなぜか渡さないし。』

 自分の事を“あい”と言っている彼女をこいつと言いながらカイは冷めた目で見ていた。

『だが、それは…』

『兄上、…【言の葉ことのは】の仮結です。』

(兄上?え、弟?逆に見えるけど、でもなんで意味が分かるの、日本語じゃなのは分かるんだけど!おまけに彼は、彼に!ひーーーー!!)

 事の成り行きがのみこめず、智美はパニック気味だったが、はたから見れば落ち着いて佇んでいるように見えるだけだった。この時ばかりは智美は自分の顔色の変化が乏しいことに感謝した。

 それとは、反対に何やらカイに嫌味らしきことを言われた彼女には、ちょっと顔を赤くしながら拗ねたようにそっぽを向いていた。

『まあいい。すまないね、意味が分からないだろう。
 説明するから、こちらに来て座って話そう。簡単には説明出来ないから。』

 兄上と呼ばれた人物は、困ったように笑うと、彼の前の長椅子に誘った。

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