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第3章 罠
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これが現実なのか、それとも夢なのか。
それすら判別つかないほど、アリカの意識はおぼろげだった。
身体は鉛のように重たく感じる。足首には冷たい鎖の感触があり、重い枷がアリカを縛りつけていた。着ていた服は脱がされており、黒いベビードールが頼りなく身を包む。
頭からつま先までぼうっと痺れるようで、他人の身体を借りているような違和感がある。
目覚めた意識を再び微睡ませるように、甘ったるい香りが充満していた。
それに抗うようにゆっくりと瞼を持ち上げれば、仄明るい空間の中に人影が浮かんでいる。燭台の灯が揺れ動くのと共に、影もまた揺らめいていた。それは、ただ何をするわけでもなくこちらをじっと見つめているようだった。アリカを品定めするかのように冷たい視線は、かつての忌まわしい記憶を想起させる。部屋は適度に心地よい暖かさなのに、底冷えするような眼差しだった。
極めて不愉快だが、眉一つ動かせない。仮面でも貼り付けられたかのようだった。革張りの椅子に座らされて、これではまるで人形。
薬を盛られたのは自業自得、それに怒りは感じない。多少強引な手段ではあるが、この程度ならばかわいいものだろう。
ただ一つ言えるのは、この家の人間の趣向は変態的である。間違いない。
アンネリーゼは、彼女の兄こそがブラーヴ公であると言っていた。引き合わせてもらえるのは願ってもないことだ。ブラーヴ公に認められなければ、皇帝(バルド)へ近づくことすらできない。彼女はそれを承知でアリカに近づいたに違いなかった。アリカを認める代わりに、彼の病魔を払えと言うのだろう。
バルドの解呪を待ってはいられなかったのだろうか――アリカはぼんやりと視線を彷徨わせた。
目の前にある硝子の卓上には銀の水差しとグラスが置かれている。再び薬を盛られるやもと警戒しているアリカの向かいの椅子に、人影は黙したまま腰かけた。そしてより一層無遠慮に、値踏みするような視線を浴びせてきた。
灯に照らされた青白い面もちは、気品を兼ね備えた冷涼な美しさがある。しかしどこか病んでいて、病魔に侵されたもの達と同じ匂いがした。
翠碧の瞳の中に、アリカの姿が映り込む。魂が抜けているかのような己の姿を不思議な心地で覗いていると、男の唇が動いた。
「妹の招待の仕方がいささか手荒で、さぞ戸惑っていることだろう。私も驚いたよ。軍議から戻ってみれば、貴女がいるのだからな。アンネリーゼは確かめろとうるさいことを言っていたが、その薔薇の痣を見れば一目瞭然だ――ドールの薔薇姫。隣国にまで名を馳せた破魔の聖女殿。そんな方を歓待するのがどれほど名誉なことか、侍女の真似事をさせるようなあの男には分かるまい」
薬を盛られた上、逃げられぬように束縛されることのどこが歓待だというのだろう。先代ブラーヴ公は穏やかな御仁だったと聞いているが、今のアリカが置かれた状況を思うに、この男は仁徳ある人間とは言えない。
鼻で笑いたいところだが、薬の効果は未だに途切れず、どうにもできない。
アリカを上から下まで嘗め回すように眺めた後、彼はそのまま続けた。
「あの下賤な男より、私の方が貴女に相応しい。分かるだろう、薔薇姫殿。ここで私の病魔を治し、私の庇護下で暮らせばいい。何不自由ないように取り計らおう。呪詛を解かないのだとしても、このまま部屋の装飾としておくには十分すぎるほど、貴女は美しい。それとも、玩具にされる方がお好みか?」
纏わる視線は不快極まりなく、言葉の端々から感じるものにぞっとした。彼は破魔の聖女を無理矢理手中に収めることに何の罪悪感もなければ、もののように扱うことを当然と思っている。彼にとってアリカは人ではないのだ。
ハティは、口では色々言っていてもアリカをもののように扱うことはなかった。
体の痺れが先ほどよりも薄れたのか、頬がひきつった。
凍り付く喉を震わせて、アリカはやっとのことで声を絞り出した。
「どっちもごめんだわ」
彼はアリカが喋れることに意表を突かれたように目を見開いた。それから不思議そうに訊ねる。
「私のものになりたくはないのか? 私が誰か知らぬわけでもあるまい」
「初対面なのに、知るわけがない」
予想はつくけど、と未だ掠れる声で返せば、彼は柳眉を寄せてぞんざいに返した。
「貴様が面会を切望した男、私こそがブラーヴ公、ユリアン・フォン・ブラーヴだ。私を相手に聖女の証を立て、貴様は皇帝に謁見したいのではないのか。慈悲深い薔薇姫が、ブラーヴ公の頼みだけは聞けないと。リッピ侯を、ハティを救っておきながら、よもやこの私のことは突き放すと」
願われれば断れない、そういう性分が染みついているのは確かだ。もしユリアンが跪いて全てを投げ出す覚悟で必死に願えば、何の駆け引きなしにきっと助けてしまう。白夜亭の皆に散々言われてきたように、単純でお人好しなのだ。
だが、ユリアンは絶対にそれをしない。
あくまで己に優位になるように相手を誘導し、主導権を握ろうとしているのが透けて見える。
公爵三人とも聖女を利用して呪詛を払おうとするのは同じだが、ユリアンの傲慢な態度は腹に据えかねるものがある。
ユリアンと面会するまでは、ブラーヴ公とお近づきになれたら皇帝謁見の承諾を得ようと考えていた。公爵との繋がりを作っておくのは不利益にはならないと踏んでいたし、バルドを救う近道になると思っていた。
しかし、この男はアリカが思っていたのと大分違う。
盛られた薬の効果が切れたのか、身体の怠さが抜けていく。四肢の痺れは少しずつ薄れていき、身体の感覚が正しく戻ってきていた。
アリカは皮肉めいた笑みを浮かべて足元の鎖を打ち鳴らした。涼しげな音に不釣り合いな、忌々しい枷が闇の中で蠢く。
「わざわざお招きいただいた上に、お会いできて光栄だと言いたいところだけれど……生憎あたしが会いたかったブラーヴ公はあんたじゃないの。手荒な歓迎をしておいて、随分と勝手なことを宣う馬鹿の呪詛を払ってあげる理由があって? 解呪は諦めて、大人しく終の時を待ったらいいわ」
強気の返しが意外だったのか、ユリアンは片眉を跳ねあげた。
「あまりにも身勝手なことを言う。皇帝のことも見放すというのか。病魔はどんなに祈っても、待ってはくれない。たとえ幾百もの破魔の薔薇を育てたとしても、いつまで命が持つか分からない。バルドや私に残された時間は少ないのだ」
確かに、バルドがいつまで呪詛に抵抗できるか分からない。頼みの宮廷魔術士はどうにも役に立ちそうもないし、アリカの薔薇だけでどこまでバルドを助けられるか。
幼気な皇帝を盾に縋られると、多少気持ちは揺らぐ。それでも、ユリアンの言葉に頷かない。
気に入らない。
自分の全てを賭して何が何でも解呪を求めてくるのならばともかく、彼は違う。素直に助けて欲しいと願うでもなく、何やら御託を並べ立てて呪詛を解かせようとしているところなど特に可愛げがない。
ユリアンの想像していたのは、神殿育ちで世に疎く従順な聖女なのだろう。反抗されるとは夢にも思わず、強引に攫って少し脅せば容易く御せると考えていたに違いない。その思惑に乗ってやる義理など、どこにもないのだ。
「残念だったわね」
予期せぬ態度に苛立ったようで、ユリアンはいきなりアリカの細い腕を引き寄せた。思いがけないほど力強く、骨が軋みそうな痛みに顔が歪む。つんのめってそのまま男の身体に雪崩込めば、逃すまいと拘束される。
振り解こうにも叶わず、その力強さは、いくら病魔に蝕まれているとはいえ彼も軍事大国に身を置くものであることを思い出させるには十分であった。
「この部屋で焚いている香は少々特殊でね。嗅いでいるうちに身体も思考も麻痺し、否が応でも私に従わざるを得なくなる。それこそ操り人形のように。私が優しくしてやっているうちに病魔を払うと言うのならば、貴様の尊厳くらいは守ってやろう」
「尊厳、ね……」
アリカは足元の鎖に目を落として鼻で笑った。それがまたユリアンの癪に障るのか、手首を掴む手に一層力が籠る。一見細身で力もなさそうに思えるが、両手を押さえつけられては身動きも取れない。
「私に従え。本来、名も無き今の貴様に選択の自由などないのだ。貴様を闇に葬ることなど容易いこと。ハティの取り巻きの一人が消えたところで、取り立てて誰も騒ぎはせぬ。ハティが一人騒いだところで、貴様がこの屋敷にいた事実など容易く揉み消せる。流石のあの男とて、屋敷の結界を破ってまで強行することもできまい」
アリカは内心苦笑した。流石にこんなところまで追ってくるはずもない。軍議が終わってどれくらい経つのか定かではないが、ハティの配下は既にアリカの動向を伝えているだろう。それでも動きがない所を見れば、見放されたと考えるのが自然である。
だが、わざわざそれをユリアンに教えてやる義理はない。何より、この高慢ちきな男につくのは違う気がする。
「……自分の首を絞めることも厭わないのね」
アリカは表情を消したまま彼を見据えた。
公爵の中で最も遅くに迫ってきたというのに、いちいち上から目線なのも腹立たしい。
「大人しく従うのなら、私のものにしてやると言っている。何の不満がある。それにバルドが斃れれば、次の皇帝はこの私。私を助けるというのなら、この国の全てはお前のものだ」
「笑わせないで。そういうのは間に合ってるの。世の女皆があんたのものになりたいわけじゃないってご存知?」
陰影に浮かぶアリカの迫力たるや、筆舌に尽くしがたいものがあった。
闇の中で燃え上がるような紅蓮の双眸は妖しいほど美しく、目を逸らすこともできないほど魅入られる。ユリアンはその瞳の中に己の命の灯を見い出した。それはひどく神聖で、ユリアンがはるか昔に棄てた畏怖の念を想起させる。更に何も考えずに平伏したくなるような衝動が沸き起こり、ユリアンは思わず息を呑んで口を噤んだ。
「今この状況が自分にとって優位だと思っているなら、あんたはとんだ愚か者ね。あまりあたしを失望させないで、ユリアン・フォン・ブラーヴ。あたしはこの国に恩がある。嫌いになりたくないし、滅びの道を歩んで欲しくない」
仄かに照らされた室内で薄く微笑みを浮かべるアリカに、ユリアンは一瞬返すべき言葉を失う。間を置いて、取り繕うように口を開く。
「では、望むがまま財宝を与えよう。私の妻として迎え入れ、皇帝への謁見も許そう」
「それだけ?」
嘲るように答えれば、ユリアンは眉間に皺を寄せた。
「財宝なんていらない。ましてや妻になるなんて気が触れたとしてもお断りよ。どうしても病魔を払って欲しいと言うのなら、無駄に高い矜持は捨てて、せいぜいあたしを楽しませて、その気にさせることね。あんたの場合はそれが何よりの対価」
「楽しませるだと。この私が……」
アリカは嫣然と微笑みを浮かべ、動揺するユリアンをソファーに押し倒して馬乗りになった。太腿で体幹を挟み、どこか狼狽えるユリアンを見下ろす。
「あなた、人に見下されたこともなければ、頭を垂れたこともないでしょう。人を足蹴にしたことはあっても、逆はない。だからあたしが一から教えてあげる」
「何を……っ」
薄い唇に指を押し当て、アリカは目を細めた。
「黙って。呪詛を解きたいのなら、這いつくばって必死に懇願してみせなさいな」
豊かな胸の谷間がちらりと掠める。たわわに実った乳房は、燭台の灯に照らされてほんのりと色づいている。白雪のように美しいきめ細やかな肌は暗がりの中で浮き立って、まろやかな身体の輪郭を艶めかせていた。ほっそりとした腰回りに無駄な肉はなく、すらりと長い四肢がユリアンの身体を囲む。背中に流れる赤銅の髪は絹のようで、さらりと男の顔に落ちた。その瞬間、薔薇の香りが鼻腔を擽る。
ユリアンは思わず生唾を飲んだ。
普段は女がユリアンに奉仕するのが当たり前だった。どの女もユリアンに気に入られようと、あらゆる手段で快楽を与えた。
彼はただ、欲望のままに貪る側だった。
猛るもので突き上げることはすれども、茂みの奥にある蜜壺を舌で味わったこともなければ、肌に吸付いたこともない。
並の女以上の美貌を持つユリアンにとって、女は道具だった。彼女達はユリアンの退屈を紛らわす玩具に過ぎず、壊れても代替はすぐ現れた。そのような卑しいものに唇を寄せ、ましてや舐めるなど到底できない。
アリカは妖艶に微笑んでいた。それこそ、まるで女神のように。
形の良い脚はまるで甘い砂糖菓子のようで、触れると吸い付くように柔らかく、どこまでも滑らかだ。上から下まで指先で撫でると、アリカの唇から甘い吐息が漏れた。
「ふふっ、くすぐったい」
そのまま白い太腿の内側にむしゃぶりつき、甘い肌を吸い上げる。舌で何度も味わうと、アリカの上体が仰け反り返った。下着をずらすと秘部は溢れる蜜で潤い、ユリアンを誘っている。
まさか、どうして。ハティの手付きの女など。これで解呪されなければ――。
そんなことを考えては、次の瞬間には頭が真っ白になった。
ただ、この甘い蜜が欲しい――まるで自制の利かない獣のようだった。
蕩けるような蜜を舌で探り当てるたび、アリカの身体は跳ねた。甘く強請るような吐息は官能的で、ユリアンを滾らせた。滞っていた魔力が再び流れ出して身体を巡っていくのと同時に、芯から冷えていた身体が溶けるように熱くなっていく。我慢しようにも肉欲の証はそそり立ち、ひくひくと痙攣しながら先端から汁を垂らしていた。
アリカは鈴を転がすように笑った。
「……っいい眺めだわ、ユリアン。あたしの玩具にしてあげる」
ユリアンは恥辱に顔を歪めた。しかし信じ難いことに、何もかもを投げ捨てて、ひれ伏したい気持ちでいっぱいになったのだ。
理性は聖女に従うことを拒絶するのだが、身体が言うことを聞かない。アリカの足元に跪き、足の甲に口づける。
「どうぞこの哀れな下僕にお慈悲を――」
「……あたしが皇帝にまみえることを認めるわね?」
「――……認めます。あなたがそれをお望みならば」
抵抗するだけ無駄だと悟り、ユリアンは素直に頷いた。
これで思う存分突き上げられると歓喜した矢先、扉が勢いよく開け放たれた。交じる寸前だった二人は、彼の姿を見て同時に青ざめる。
「言質は取った。……それ以上ブラーヴ公を調教する必要もあるまい。無駄に信者を増やしてどうする」
「ハティ、馬鹿、あなたっ――」
当たり前のように部屋に踏み込んで、ハティはアリカを見下ろして溜息をついた。怒りを通り越して呆れている様子である。馬鹿はお前だ、とお決まりの文句の幻聴が聞こえるようで、アリカは鼻白んだ。
アリカを縛る鎖へ剣を突き立てると、ハティは血の気の引いたユリアンを冷ややかに見つめた。
「アリカは卿の手に余るだろう、ユリアン。これを掌握しようなど、無謀なことを。奔放で、まるで言うことを聞かぬ。手懐けようにもすぐに噛みつき、可愛がってやったところで袖にされるだけだというのに。その上学習能力など皆無とくる。危険に自ら飛び込んでいき、男を見るや誘惑する。意のままに動かぬことへの苛立ちと腹立たしさに、卿では耐えられぬだろう。公爵としての権威を失墜させたくないのならば、駒として手元に置こうなどと考えぬ方が身のためだ。――それとも、卿らは血の雨を降らせてまで、この女を望むか?」
ユリアンは首を振り、ゆっくりと後退った。
聖女さえ手駒として手に入れていれば、失墜しつつあるブラーヴ家もかつての栄華と求心力を取り戻せるはずだった。戦局を左右する切り札としては十分すぎるもので、あのアデレイド公ですら黙らせることができただろう。
だが、そんなことを言えばハティの逆鱗に触れ、間違いなく首が飛ぶ。
ハティのアリカに対する執着は並みならぬものがあるとアンネリーゼから聞いてはいたが、想像以上である。
「何故そこまでして聖女を取り戻そうとする」
「愚問だな。答えるまでもなかろう」
「バルドの為だものね」
アリカが口を挟めば、ハティは深く溜息をついた。
全てを察したユリアンは、憐れみを込めてハティを見上げた。百戦錬磨の狼公爵がこれなのだ。ユリアンに聖女をどうこうできるわけがなかった。
それすら判別つかないほど、アリカの意識はおぼろげだった。
身体は鉛のように重たく感じる。足首には冷たい鎖の感触があり、重い枷がアリカを縛りつけていた。着ていた服は脱がされており、黒いベビードールが頼りなく身を包む。
頭からつま先までぼうっと痺れるようで、他人の身体を借りているような違和感がある。
目覚めた意識を再び微睡ませるように、甘ったるい香りが充満していた。
それに抗うようにゆっくりと瞼を持ち上げれば、仄明るい空間の中に人影が浮かんでいる。燭台の灯が揺れ動くのと共に、影もまた揺らめいていた。それは、ただ何をするわけでもなくこちらをじっと見つめているようだった。アリカを品定めするかのように冷たい視線は、かつての忌まわしい記憶を想起させる。部屋は適度に心地よい暖かさなのに、底冷えするような眼差しだった。
極めて不愉快だが、眉一つ動かせない。仮面でも貼り付けられたかのようだった。革張りの椅子に座らされて、これではまるで人形。
薬を盛られたのは自業自得、それに怒りは感じない。多少強引な手段ではあるが、この程度ならばかわいいものだろう。
ただ一つ言えるのは、この家の人間の趣向は変態的である。間違いない。
アンネリーゼは、彼女の兄こそがブラーヴ公であると言っていた。引き合わせてもらえるのは願ってもないことだ。ブラーヴ公に認められなければ、皇帝(バルド)へ近づくことすらできない。彼女はそれを承知でアリカに近づいたに違いなかった。アリカを認める代わりに、彼の病魔を払えと言うのだろう。
バルドの解呪を待ってはいられなかったのだろうか――アリカはぼんやりと視線を彷徨わせた。
目の前にある硝子の卓上には銀の水差しとグラスが置かれている。再び薬を盛られるやもと警戒しているアリカの向かいの椅子に、人影は黙したまま腰かけた。そしてより一層無遠慮に、値踏みするような視線を浴びせてきた。
灯に照らされた青白い面もちは、気品を兼ね備えた冷涼な美しさがある。しかしどこか病んでいて、病魔に侵されたもの達と同じ匂いがした。
翠碧の瞳の中に、アリカの姿が映り込む。魂が抜けているかのような己の姿を不思議な心地で覗いていると、男の唇が動いた。
「妹の招待の仕方がいささか手荒で、さぞ戸惑っていることだろう。私も驚いたよ。軍議から戻ってみれば、貴女がいるのだからな。アンネリーゼは確かめろとうるさいことを言っていたが、その薔薇の痣を見れば一目瞭然だ――ドールの薔薇姫。隣国にまで名を馳せた破魔の聖女殿。そんな方を歓待するのがどれほど名誉なことか、侍女の真似事をさせるようなあの男には分かるまい」
薬を盛られた上、逃げられぬように束縛されることのどこが歓待だというのだろう。先代ブラーヴ公は穏やかな御仁だったと聞いているが、今のアリカが置かれた状況を思うに、この男は仁徳ある人間とは言えない。
鼻で笑いたいところだが、薬の効果は未だに途切れず、どうにもできない。
アリカを上から下まで嘗め回すように眺めた後、彼はそのまま続けた。
「あの下賤な男より、私の方が貴女に相応しい。分かるだろう、薔薇姫殿。ここで私の病魔を治し、私の庇護下で暮らせばいい。何不自由ないように取り計らおう。呪詛を解かないのだとしても、このまま部屋の装飾としておくには十分すぎるほど、貴女は美しい。それとも、玩具にされる方がお好みか?」
纏わる視線は不快極まりなく、言葉の端々から感じるものにぞっとした。彼は破魔の聖女を無理矢理手中に収めることに何の罪悪感もなければ、もののように扱うことを当然と思っている。彼にとってアリカは人ではないのだ。
ハティは、口では色々言っていてもアリカをもののように扱うことはなかった。
体の痺れが先ほどよりも薄れたのか、頬がひきつった。
凍り付く喉を震わせて、アリカはやっとのことで声を絞り出した。
「どっちもごめんだわ」
彼はアリカが喋れることに意表を突かれたように目を見開いた。それから不思議そうに訊ねる。
「私のものになりたくはないのか? 私が誰か知らぬわけでもあるまい」
「初対面なのに、知るわけがない」
予想はつくけど、と未だ掠れる声で返せば、彼は柳眉を寄せてぞんざいに返した。
「貴様が面会を切望した男、私こそがブラーヴ公、ユリアン・フォン・ブラーヴだ。私を相手に聖女の証を立て、貴様は皇帝に謁見したいのではないのか。慈悲深い薔薇姫が、ブラーヴ公の頼みだけは聞けないと。リッピ侯を、ハティを救っておきながら、よもやこの私のことは突き放すと」
願われれば断れない、そういう性分が染みついているのは確かだ。もしユリアンが跪いて全てを投げ出す覚悟で必死に願えば、何の駆け引きなしにきっと助けてしまう。白夜亭の皆に散々言われてきたように、単純でお人好しなのだ。
だが、ユリアンは絶対にそれをしない。
あくまで己に優位になるように相手を誘導し、主導権を握ろうとしているのが透けて見える。
公爵三人とも聖女を利用して呪詛を払おうとするのは同じだが、ユリアンの傲慢な態度は腹に据えかねるものがある。
ユリアンと面会するまでは、ブラーヴ公とお近づきになれたら皇帝謁見の承諾を得ようと考えていた。公爵との繋がりを作っておくのは不利益にはならないと踏んでいたし、バルドを救う近道になると思っていた。
しかし、この男はアリカが思っていたのと大分違う。
盛られた薬の効果が切れたのか、身体の怠さが抜けていく。四肢の痺れは少しずつ薄れていき、身体の感覚が正しく戻ってきていた。
アリカは皮肉めいた笑みを浮かべて足元の鎖を打ち鳴らした。涼しげな音に不釣り合いな、忌々しい枷が闇の中で蠢く。
「わざわざお招きいただいた上に、お会いできて光栄だと言いたいところだけれど……生憎あたしが会いたかったブラーヴ公はあんたじゃないの。手荒な歓迎をしておいて、随分と勝手なことを宣う馬鹿の呪詛を払ってあげる理由があって? 解呪は諦めて、大人しく終の時を待ったらいいわ」
強気の返しが意外だったのか、ユリアンは片眉を跳ねあげた。
「あまりにも身勝手なことを言う。皇帝のことも見放すというのか。病魔はどんなに祈っても、待ってはくれない。たとえ幾百もの破魔の薔薇を育てたとしても、いつまで命が持つか分からない。バルドや私に残された時間は少ないのだ」
確かに、バルドがいつまで呪詛に抵抗できるか分からない。頼みの宮廷魔術士はどうにも役に立ちそうもないし、アリカの薔薇だけでどこまでバルドを助けられるか。
幼気な皇帝を盾に縋られると、多少気持ちは揺らぐ。それでも、ユリアンの言葉に頷かない。
気に入らない。
自分の全てを賭して何が何でも解呪を求めてくるのならばともかく、彼は違う。素直に助けて欲しいと願うでもなく、何やら御託を並べ立てて呪詛を解かせようとしているところなど特に可愛げがない。
ユリアンの想像していたのは、神殿育ちで世に疎く従順な聖女なのだろう。反抗されるとは夢にも思わず、強引に攫って少し脅せば容易く御せると考えていたに違いない。その思惑に乗ってやる義理など、どこにもないのだ。
「残念だったわね」
予期せぬ態度に苛立ったようで、ユリアンはいきなりアリカの細い腕を引き寄せた。思いがけないほど力強く、骨が軋みそうな痛みに顔が歪む。つんのめってそのまま男の身体に雪崩込めば、逃すまいと拘束される。
振り解こうにも叶わず、その力強さは、いくら病魔に蝕まれているとはいえ彼も軍事大国に身を置くものであることを思い出させるには十分であった。
「この部屋で焚いている香は少々特殊でね。嗅いでいるうちに身体も思考も麻痺し、否が応でも私に従わざるを得なくなる。それこそ操り人形のように。私が優しくしてやっているうちに病魔を払うと言うのならば、貴様の尊厳くらいは守ってやろう」
「尊厳、ね……」
アリカは足元の鎖に目を落として鼻で笑った。それがまたユリアンの癪に障るのか、手首を掴む手に一層力が籠る。一見細身で力もなさそうに思えるが、両手を押さえつけられては身動きも取れない。
「私に従え。本来、名も無き今の貴様に選択の自由などないのだ。貴様を闇に葬ることなど容易いこと。ハティの取り巻きの一人が消えたところで、取り立てて誰も騒ぎはせぬ。ハティが一人騒いだところで、貴様がこの屋敷にいた事実など容易く揉み消せる。流石のあの男とて、屋敷の結界を破ってまで強行することもできまい」
アリカは内心苦笑した。流石にこんなところまで追ってくるはずもない。軍議が終わってどれくらい経つのか定かではないが、ハティの配下は既にアリカの動向を伝えているだろう。それでも動きがない所を見れば、見放されたと考えるのが自然である。
だが、わざわざそれをユリアンに教えてやる義理はない。何より、この高慢ちきな男につくのは違う気がする。
「……自分の首を絞めることも厭わないのね」
アリカは表情を消したまま彼を見据えた。
公爵の中で最も遅くに迫ってきたというのに、いちいち上から目線なのも腹立たしい。
「大人しく従うのなら、私のものにしてやると言っている。何の不満がある。それにバルドが斃れれば、次の皇帝はこの私。私を助けるというのなら、この国の全てはお前のものだ」
「笑わせないで。そういうのは間に合ってるの。世の女皆があんたのものになりたいわけじゃないってご存知?」
陰影に浮かぶアリカの迫力たるや、筆舌に尽くしがたいものがあった。
闇の中で燃え上がるような紅蓮の双眸は妖しいほど美しく、目を逸らすこともできないほど魅入られる。ユリアンはその瞳の中に己の命の灯を見い出した。それはひどく神聖で、ユリアンがはるか昔に棄てた畏怖の念を想起させる。更に何も考えずに平伏したくなるような衝動が沸き起こり、ユリアンは思わず息を呑んで口を噤んだ。
「今この状況が自分にとって優位だと思っているなら、あんたはとんだ愚か者ね。あまりあたしを失望させないで、ユリアン・フォン・ブラーヴ。あたしはこの国に恩がある。嫌いになりたくないし、滅びの道を歩んで欲しくない」
仄かに照らされた室内で薄く微笑みを浮かべるアリカに、ユリアンは一瞬返すべき言葉を失う。間を置いて、取り繕うように口を開く。
「では、望むがまま財宝を与えよう。私の妻として迎え入れ、皇帝への謁見も許そう」
「それだけ?」
嘲るように答えれば、ユリアンは眉間に皺を寄せた。
「財宝なんていらない。ましてや妻になるなんて気が触れたとしてもお断りよ。どうしても病魔を払って欲しいと言うのなら、無駄に高い矜持は捨てて、せいぜいあたしを楽しませて、その気にさせることね。あんたの場合はそれが何よりの対価」
「楽しませるだと。この私が……」
アリカは嫣然と微笑みを浮かべ、動揺するユリアンをソファーに押し倒して馬乗りになった。太腿で体幹を挟み、どこか狼狽えるユリアンを見下ろす。
「あなた、人に見下されたこともなければ、頭を垂れたこともないでしょう。人を足蹴にしたことはあっても、逆はない。だからあたしが一から教えてあげる」
「何を……っ」
薄い唇に指を押し当て、アリカは目を細めた。
「黙って。呪詛を解きたいのなら、這いつくばって必死に懇願してみせなさいな」
豊かな胸の谷間がちらりと掠める。たわわに実った乳房は、燭台の灯に照らされてほんのりと色づいている。白雪のように美しいきめ細やかな肌は暗がりの中で浮き立って、まろやかな身体の輪郭を艶めかせていた。ほっそりとした腰回りに無駄な肉はなく、すらりと長い四肢がユリアンの身体を囲む。背中に流れる赤銅の髪は絹のようで、さらりと男の顔に落ちた。その瞬間、薔薇の香りが鼻腔を擽る。
ユリアンは思わず生唾を飲んだ。
普段は女がユリアンに奉仕するのが当たり前だった。どの女もユリアンに気に入られようと、あらゆる手段で快楽を与えた。
彼はただ、欲望のままに貪る側だった。
猛るもので突き上げることはすれども、茂みの奥にある蜜壺を舌で味わったこともなければ、肌に吸付いたこともない。
並の女以上の美貌を持つユリアンにとって、女は道具だった。彼女達はユリアンの退屈を紛らわす玩具に過ぎず、壊れても代替はすぐ現れた。そのような卑しいものに唇を寄せ、ましてや舐めるなど到底できない。
アリカは妖艶に微笑んでいた。それこそ、まるで女神のように。
形の良い脚はまるで甘い砂糖菓子のようで、触れると吸い付くように柔らかく、どこまでも滑らかだ。上から下まで指先で撫でると、アリカの唇から甘い吐息が漏れた。
「ふふっ、くすぐったい」
そのまま白い太腿の内側にむしゃぶりつき、甘い肌を吸い上げる。舌で何度も味わうと、アリカの上体が仰け反り返った。下着をずらすと秘部は溢れる蜜で潤い、ユリアンを誘っている。
まさか、どうして。ハティの手付きの女など。これで解呪されなければ――。
そんなことを考えては、次の瞬間には頭が真っ白になった。
ただ、この甘い蜜が欲しい――まるで自制の利かない獣のようだった。
蕩けるような蜜を舌で探り当てるたび、アリカの身体は跳ねた。甘く強請るような吐息は官能的で、ユリアンを滾らせた。滞っていた魔力が再び流れ出して身体を巡っていくのと同時に、芯から冷えていた身体が溶けるように熱くなっていく。我慢しようにも肉欲の証はそそり立ち、ひくひくと痙攣しながら先端から汁を垂らしていた。
アリカは鈴を転がすように笑った。
「……っいい眺めだわ、ユリアン。あたしの玩具にしてあげる」
ユリアンは恥辱に顔を歪めた。しかし信じ難いことに、何もかもを投げ捨てて、ひれ伏したい気持ちでいっぱいになったのだ。
理性は聖女に従うことを拒絶するのだが、身体が言うことを聞かない。アリカの足元に跪き、足の甲に口づける。
「どうぞこの哀れな下僕にお慈悲を――」
「……あたしが皇帝にまみえることを認めるわね?」
「――……認めます。あなたがそれをお望みならば」
抵抗するだけ無駄だと悟り、ユリアンは素直に頷いた。
これで思う存分突き上げられると歓喜した矢先、扉が勢いよく開け放たれた。交じる寸前だった二人は、彼の姿を見て同時に青ざめる。
「言質は取った。……それ以上ブラーヴ公を調教する必要もあるまい。無駄に信者を増やしてどうする」
「ハティ、馬鹿、あなたっ――」
当たり前のように部屋に踏み込んで、ハティはアリカを見下ろして溜息をついた。怒りを通り越して呆れている様子である。馬鹿はお前だ、とお決まりの文句の幻聴が聞こえるようで、アリカは鼻白んだ。
アリカを縛る鎖へ剣を突き立てると、ハティは血の気の引いたユリアンを冷ややかに見つめた。
「アリカは卿の手に余るだろう、ユリアン。これを掌握しようなど、無謀なことを。奔放で、まるで言うことを聞かぬ。手懐けようにもすぐに噛みつき、可愛がってやったところで袖にされるだけだというのに。その上学習能力など皆無とくる。危険に自ら飛び込んでいき、男を見るや誘惑する。意のままに動かぬことへの苛立ちと腹立たしさに、卿では耐えられぬだろう。公爵としての権威を失墜させたくないのならば、駒として手元に置こうなどと考えぬ方が身のためだ。――それとも、卿らは血の雨を降らせてまで、この女を望むか?」
ユリアンは首を振り、ゆっくりと後退った。
聖女さえ手駒として手に入れていれば、失墜しつつあるブラーヴ家もかつての栄華と求心力を取り戻せるはずだった。戦局を左右する切り札としては十分すぎるもので、あのアデレイド公ですら黙らせることができただろう。
だが、そんなことを言えばハティの逆鱗に触れ、間違いなく首が飛ぶ。
ハティのアリカに対する執着は並みならぬものがあるとアンネリーゼから聞いてはいたが、想像以上である。
「何故そこまでして聖女を取り戻そうとする」
「愚問だな。答えるまでもなかろう」
「バルドの為だものね」
アリカが口を挟めば、ハティは深く溜息をついた。
全てを察したユリアンは、憐れみを込めてハティを見上げた。百戦錬磨の狼公爵がこれなのだ。ユリアンに聖女をどうこうできるわけがなかった。
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