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第2章 小夜曲

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 ◆

『おにいさま! レイジーンおにいさま!』  
『アシュ!』

 駆け寄ってきた幼い少女を抱きとめて、おにいさまは屈託なく笑う。広くて逞しい胸に頬ずりをして甘えるアシュの頭を撫でると、おにいさまは優しく微笑んだ。

『また見ないうちに大きくなったな、アシュラム』

 アシュはおにいさまを待ち焦がれていた。神殿にはたくさんの神官達、侍女達がいたが、彼らは皆聖女であるアシュとは距離を置いていた。まともに会話をしてくれるのは、神官長のニコルだけだ。
 寂しいという言葉も口に出せず、静寂に包まれた広い神殿の中で、アシュはただ待っていた。
 やっとおにいさまに構ってもらえるのが嬉しくて、アシュは声を弾ませて得意げに話す。

『はい。毎日がんばって、おにいさまに追いつけるよう、たくさん運動しているのです』
『だからと言って、神殿の中を走るんじゃないぞ。ニコルに見つかったらまたこの間のように、お尻叩きの刑だ』
『どんなにお尻をぺんぺんされたって、早くレイジーンおにいさまに会えるならいいの』

 満面の笑みを浮かべて、おにいさまを見上げる。
 おにいさまもアシュを慈しむように見つめ、薔薇のようなアシュの髪をかきあげて額に唇を寄せる。

『ああ――アシュ。寂しい思いをさせてすまない。許しておくれ』
『おにいさま……』

 おにいさまのことが大好きだった。 
 おにいさまが訪れる時には、本を朗読してもらう。読めない字や分からないことがその場で聞けるから、アシュにとっては特別な時間だった。
 今日も新しいお話を読んでもらおうと、あらかじめ図書室から本を持ち出していた。
 およそ八つの子が読むとも思えぬほどに分厚い天文の書だが、読む量が多いほどおにいさまと過ごす時間が増える。内容の難易など些細なことだ。

『今日はお前に会わせたい奴がいるんだ』
『会わせたい人? そんなことより、早く遊びましょう、おにいさま』
『なるほど、聖女様は遊び相手をご所望ですか?』

 膨れっ面の少女に苦笑を浮かべ、一人の青年が跪く。年のころ、十八か十九くらいだろうか。
 アシュよりも十ほど年の離れたその人は、おにいさまの幼馴染の騎士だった。綺麗な青灰色の瞳は全てを見透かすように澄んでいる。アシュと視線を合わせて微笑むと、彼は穏やかに口を開いた。

『お初目にかかります、聖アシュラム。私はロベリア・スフォルツァと申します。レイジーン様とは、恐れながら大変仲良くさせていただいております。アシュラム様のことはいつも殿下から伺っておりますが、なるほど。身内の贔屓目を抜きにしても、本当に可愛らしい』
『ロベリアは、おにいさまのお友だち?』

 アシュは、おにいさまを見上げて首を傾げた。おにいさまは笑って頷く。

『そう、一番大事な友だちだ』

 おにいさまは嬉しそうに言った。
 ロベリアはおにいさまの唯一無二の友なのだ。
 おにいさまは誰よりも、ロベリアのことを認め、頼りにしていた。
 誰よりもおにいさまのお傍にいた人。おにいさまが信じた人。
 幼少の頃より二人は本当のきょうだいのように過ごしたのだという。
 物腰は柔らかで、小さなアシュに対しても、対等に接してくれる。アシュの目を見て話す者は少ない。アシュの瞳は焼けた空よりもなお深い。見るものを慄かせ、不安にさせる。だから、同じ目線で話すのが実に新鮮だった。

『ロベリアはドール一の英傑なのだ。自慢の親友だよ。こいつほど頼りになる男もそういない。アシュにも一度、会わせたくてね』

 まるで自分のことのように誇らしげに、おにいさまは言った。ロベリアは苦笑を浮かべ、やんわりと否定する。

『それは過言でしょう、殿下。私はまだ若輩の身。英傑などという誉高き称号には程遠い。まったく、アシュラム様が私のことを完璧超人か何かだと勘違いしたらどうするのですか?』
『事実、完璧超人だろう? 容姿端麗、知勇兼備。凡庸なこの俺とはわけが違う』

 ロベリアの顔が一瞬曇る。アシュはじっと、二人を見比べた。
 ロベリアの瞳はどこか影を帯びて、冷たいものが這い上がってくるようだった。それに対しておにいさまはいつも通り朗らかに笑う。
 何だか怖くなって、無意識におにいさまの裾をぎゅっと掴んだ。そんなアシュの頭をおにいさまは宥めるように優しく撫でる。

『凡庸だなどと。殿下はいずれ、国を背負って立つお方。私などと比べるべくもない、尊い血筋をお持ちなのです。国の重みを常に背負う殿下と私は違います』
『またそのように謙遜を。いずれ王位を継いだ暁には、お前には一番近くで支えてもらうことになるのだ。皆にこれ以上侮られぬよう、堂々としていればいい』
『謙遜などではありません。……殿下のお傍に私のようなものがいては、名声が傷つきましょう』

 おにいさま以外の者はロベリアを天才だとは言わなかった。
 剣術、槍術、馬術、学問、どれをとっても平均的。その上、魔力はあまり高くないらしい。
 ロベリアの祖は、元は流浪の民だった。ドールに根付いたのは数代前、その頃始めた商いが成功し、今では貴族と同等の裕福な暮らしをしてはいるが、騎士になれたのも異例のこと。故に周囲は、ロベリアを側に置くおにいさまを理解できなかった。
 突出して秀でたものはなく、特段不得手なものがあるわけでもない。それを指摘されると、ロベリアはただ笑って答えるのだ。

『得手不得手など無意味ではありませんか。主にさえ己の力量を認めていただければ、他には何も望みません。周りがどう囀ろうが関係なきこと』

 出る杭は打たれる。才覚溢れるものに嫉妬してその足を引っ張るものは必ずおり、いいように扱われ、やがて潰される。
 凡人として過ごす方がいい。自らの才知をひた隠し、安穏とした日々を送る方が。

 以来、ロベリアは時折アシュを訪ねるようになった。おにいさまが忙しくて来られない時にはロベリアが遊び相手になってくれた。
 寂しさは、和らいだ。
 神殿の中だけでは退屈だろうからと、アシュを愛馬に乗せて聖女の領地を駆け巡り、庭で一緒に薔薇の苗を植え、茶を飲み、本をたくさん読んだ。どんな時でも優しく紳士で、アシュはそんなロベリアを兄のように慕った。
 本来なら、アシュはおとうさまとおにいさま以外にその素顔を見せてはならない決まりだったが、神官達も聖女アシュが懐いているロベリアを無碍にできず、客人として丁重に迎え入れていた。

 ロベリアが聖女のお務めの時間に居合わせたのは、本当に偶然だった。お務めがいつ行われるかはアシュにも知らされず、突然神官長ニコルから言い渡されるのだ。
 幼いアシュに課せられた務めはあまりにも重かったが、その頃はそれがどういうことなのか分かっていなかった。
 聖女の務めは罪を犯した人々を赦し、裁定を下すこと。そのために罪人と神殿の地下室で共に一晩を過ごす。その部屋は特殊な部屋で、一度鍵をかけると外側と内側から同時に鍵を回さねば開かない仕組みになっていた。
 内側の鍵は必ず罪人の目の前でアシュが預かる。
 夜が明ければ裁定が下され部屋を出られるが、罪人の多くは悲しいことに、聖女を傷つけてでも鍵を奪い取って脱走しようと目論む者が殆どであった。無事に夜明けを迎えた事例は数えるほどしかない。
 その日も、一人の罪人がアシュの元に送られてきた。
 罪状を知らされることはなく、ただ相手を迎え入れるしかない。折角ロベリアが訪れてくれていても、ゆっくり話すこともできないのだ。
 促されるがまま禊をして、白い仮面で顔を隠す。更にベールを被り、侍女達に導かれるがまま神殿の懺悔室に入った。
 罪人は、猫背で痩せ細った若者だった。緊張しているのか震える薄い唇を何度も舐め、額には脂汗が滲む。落ち着きなくひしゃげた眼鏡を押し上げて、神官長のニコルに促されるがままアシュの前に跪いた。彼は、ニコルの言葉など聞いていないようで、未知の魔獣でも見たかのような、怯えた目でアシュを見上げる。
 二人が入室すると同時に施錠され、刹那の静寂がその場を支配した。
 幼い聖女の何が恐ろしいというのか、暗く湿った地下の一室に足を踏み入れた途端、彼はアシュに隠し持っていた刃を向けて鍵を渡すように迫った。
 しかしアシュは臆することなく、静かに頭を振った。

『それは、できません。明日になればあなたはここから出られます』
『いいから鍵を渡せ! この、化け物め!』

 アシュと二人になると、罪人はいつも同じ反応を示すのだ。その都度、アシュは密かに傷ついてきた。
 アシュは悲し気に罪人の男を見上げる。

『どうして? たった一晩この部屋で過ごす――それだけのことです』
『そんな言葉を信じられると思うか! 魔法を奪われ放り出されるくらいならば、死んだ方がましだ!』

 罪人はそう叫んで、アシュに襲い掛かってきた。
 聖女に魔法や呪術は効かない、ゆえに力づくで奪おうとするのだ。幼いアシュが力で大人に勝てる筈もなく、難なく冷たい床の上に組み敷かれた。
 仄暗い部屋の中、冷えた白刃が閃く。刃は聖女の柔らかな肉を切り裂き、血の匂いが部屋を漂った。焼けるような激痛に悲鳴を上げれば、罪人は慌ててアシュの口元を抑えた。
 ――いたい。くるしい。
 アシュの澄んだ瞳から涙が零れる。
 飛び散った鮮やかな血は花のようだと、朦朧とする中ぼんやりと考える。罪人は力なく横たわるアシュの身体をまさぐって鍵を探り当てると、扉へ駆け寄った。
 だが、扉が開くはずもない。
 開錠が無理だと悟った彼は大きく舌打ちをした。びくともしない扉を蹴り飛ばすと、今度は八つ当たりのようにアシュの胸倉を掴んで強く揺さぶった。
 その刹那。罪人の瞳から色が失せ、次第に赤へ染まっていく。返り血を浴びた男は茫然と立ち尽くした。

『待て……何をした? 魔法が――魔力が……やめろ、やめてくれ!』

 その身に流れていた魔力が消えた。
 男は、壊れたように笑い、その場に崩れ落ちた。
 それは、破魔の聖女の自己防衛機能が働いた時だけ発動される報復の魔法だった。即ち、害意を持って傷つけられた時、相手の魔法のみならず魔力を全て奪うこと――。
 力の弱い聖女が身を守る為の魔法である。それはアシュにも制御不能であり、一度発動すれば相手がどんなに降伏し、許しを請うても止めることはできない。
 罪人達は試されていた。聖女を傷つけて鍵を奪うか、それとも一晩己を見つめなおし処遇を受け入れるか。
 聖女を傷つければ然るべき報いを受け、大人しく裁定を待てば翌朝には赦され、やり直しの機会が与えられる。
 だが、罪人の殆どが鍵を奪う道を選んだ。
 流れ出た聖女の血が罪人の体内に流れる魔力全てを飲み込んで、消していく。
 赤い目は聖女を傷つけ、魔力を失った証。その罪は最も重く、死んでも許されることはない。彼らは人としての尊厳を失い、自死すら許されない。まさに生きた屍の状態となるのだ。
 故に、聖女が魔力を奪うことは死刑以上に最も重い罰とされていた。

 騒ぎを聞きつけた神官や侍女達が扉の前に集まってきていた。その中には客人として迎えられていたロベリアも混ざっていた。聖女からの応答がないと見るや、力自慢の数人の神官達とロベリアが力を合わせて扉を破壊し雪崩れ込んでくる。
 罪人の男は瞬く間に拘束され、その手にあった得物を取り上げられた。

『アシュラム様、ご無事ですか!』

 すぐにニコルが小瓶を抱えてアシュへと駆け寄り、傷口へ清らかな水を注ぐ。それは神殿の聖泉より湧き出る水で、傷を癒す効力を秘めていた。ぱっくりと開いたアシュの傷も、聖泉の水によって見る間に塞がっていく。
 アシュは震える手でニコルの袖を掴んだ。

『ニコル、ゆるしてあげてください。殺さないで』 

 ロベリアは瞠目し、神官達に拘束される罪人の男とぐったりとするアシュを交互に見比べた。
 この時、ロベリアは初めてアシュの魔法を間近で目撃した。破魔の聖女の存在はドール中に伝わっているものの、その実態は明かされていない。
 聖女の断罪は周知の事実だったが、八つの少女に務まるのかと疑問の声が上がっていたのだ。
 だが、ロベリアは確かに見た。
 罪人の魔力を奪ったのは間違いなくアシュだ。それは誰に対しても公平な裁きだった。
 その時、ロベリアはアシュラムこそ絶対的正義だと確信した。魔力の程度に拘らず才あるものが潰されることなく望めば高みを目指せる――アシュラムが王ならばそんな世界を作れるのだと。
 ロベリアは当たり前のようにその場に跪き、アシュの薬指に口づけをした。

『アシュラム様。どうか私が貴女様の剣となり盾となることをお許し下さい。これからは、私がこの命を懸けてアシュラム様をお守りいたします。私の光となり、私の行くべき道をお示し下さい。そして貴女様の望む道は私がお作り申し上げます。アシュラム様の道しるべとなり、一生お傍を離れぬことを誓います』 
『ロベリアが、わたしの騎士になってくれるのですか?』
『はい。聖アシュラムにこいねがう。私を貴女様の騎士にお望み下さい。どうかただ一言……許す、と――』 

 真摯な瞳に偽りはない。
 アシュはあまりに真剣なロベリアに気圧されるように「ゆるす」と言った。

 ――許すと言わなければよかった。

 ロベリアさえ、アシュの騎士にならなければ――。


 ◇


 悪夢でも見ているのか、アリカは酷くうなされていた。
 額にかかる髪を払い、壊れ物を扱うかのように優しく髪を梳けば、アリカの表情が僅かに和らぐ。ハティだけが知る稚い表情に、心がざわめく。
 いつも強気な癖に、時折酷く不安そうな顔をする。あまりにも頼りなく、その手を放したら露のように消えてしまいそうだった。
 そうしたら今度こそ、もう二度と手が届かなくなる。
 アリカのことを知っているようで知らない。
 アリカも、必要以上のことを話さない。いずれ終わる割り切った関係を貫くために、深入りしようとはしない。
 待つつもりではいるが、もどかしい。薔薇姫にまつわる逸話や噂は数多くあり、そこから推察はできても事実は分からぬ。探ろうと思えばいくらでも過去を明らかにできよう。だが、無理矢理暴けば、今度こそアリカは心を閉ざすに違いなかった。
 ――いや、小難しいことなど考えずに溺れさせてしまえばいい。他のことなど眼中になくなるほど、ハティなしではいられぬ体にしてしまえば。
 華奢な身体を抱き寄せて背中を撫でると、ハティの腕の中で身じろぎして胸板に頬を摺り寄せた。

「おにい、さま……ロベリア……」

 ハティは目を眇めた。
 一体誰に抱かれていると思っているのか。よりにもよって、出てきた言葉が『おにいさま』。そして知らぬ男の名前。
 ドールはアリカの故郷だ。代々聖王と讃えられた君主が国を治め、長く安定した治世が続いていた。薔薇姫が誕生してからはより一層、国は豊かだった。
 だが、アリカの兄――レイジーンが王位に就いてから、かの国の荒廃ぶりは目に余る。
 一度は薔薇姫を貶めたとは言え、現状から想像するに聖女が国外に逃れたのは想定外のことであったに違いない。手中に出来ぬなら、いっそ殺すことも辞さない構えから、レイジーンは余程利己的なのだろう。
 そんな男でも、アリカにとってはたった一人の兄なのだ。そしてハティと過ごした時間など比べものにならぬほどに、長い時を共に過ごした。
 面白くないのは当然のことである。
 不機嫌さを隠さず、ハティはアリカの耳を噛んだ。

「起きろ、アリカ」
「痛っ……」

 寝ぼけまなこを擦って起き上がったアリカは、ハティの顔を認めるとどこか安心したように微笑んだ。
 その笑みに心を鷲掴みにされる。些細なことで嫉妬していたのも吹き飛ぶほどに。
 乱れた髪をかきあげて、アリカは小さく欠伸をした。

「そういえば、南の国境に兵力を集めているんですってね」
「軍事機密だぞ。何故知っている」
「アデレイド公から聞き出したのよ」
「あの御仁は口が軽くて困る」

 呆れるハティに、アリカは続ける。

「ネーヴェフィールを手薄にして大丈夫なの? バルドへの呪詛はドールが絡んでいるのに……」
「ドールは今、他国に侵攻するどころではない。弱体化しているとはいえ、軍事国であるセラフィトに正面から手を出すなど、そのような愚行はすまい」

 かの国はネーヴェフィールが手薄になるのを待っているのだ。確たる証拠はないが、大方、南の蛮族を調略したのだろう。
 北の国境はドールや異民族との攻防が激しく、国防の要所として多くの兵が配置されている。片や南部の砂漠地帯はこれまで大きな衝突が起こった記録がなく、兵も最小限の配置となっている。だが、南部の攻防が激しさを増せば、否応なしに兵力増強せざるを得ない。しかし、セラフィト貴族は須らく呪詛に蝕まれており、余力もない。かといって徴兵したところで十分な戦力など得られまい。よって、充足している箇所から兵を引っ張ってくる以外に術はないのだ。それはネーヴェフィールを措いて他にない。
 そうすれば如何に堅固な守りを展開しているネーヴェフィールとはいえ、攻め入る隙ができるだろうと。
 見え透いた罠であるが、それでも南に戦力を割かねばならない。南の守備は元より手薄だ。砂漠を超えて攻め入る蛮族も少ないが、そこを衝かれると手痛いのも事実なのだ。
 ドールが絡んでいると分かっていても、表向き今は大人しい。故にかの国への強行は諸侯から反感を買う。南部の蛮族侵攻の兆しがあるなら猶更だ。
 ならばドールの思惑に乗るのも一興。
 敢えて北の守備を緩めて隙を見せれば、ここぞとばかりにドールは攻めてくるはず。そうなれば、こちらから仕掛ける口実ができる。侵攻されては大人しく蹂躙されるわけにもいくまい。渋る諸侯を説き伏せるのも容易かろう。
 その時こそ、完膚なきまでに叩きのめす。
 もう二度とセラフィトとアリカに手を出そうなどと愚かなことを考えぬように。

「案ずるな。ネーヴェフィールの怪物――辺境伯を知らぬわけではなかろう。容易に陥落されるほど生ぬるくはない」
「……リッピ侯の心配はしてないけど」

 冷静に返すアリカに、ハティは苛立った。リッピ侯は余程信頼されているらしい。ハティのことは全く信じていないくせに。

「ほう。流石、身体を重ねた仲だけある。俺などがどうこう言わずとも、さぞや彼の者のことなど隈なく知り尽くしておろうな」

 棘を含んだハティの物言いに、アリカは苦笑を浮かべて返す。

「まあ、どうせハティのことだからちゃんと考えあっての兵の異動でしょ? だったら別に何も言うことなんてないわ。時々馬鹿な考えするけどね」

 鼻で笑うアリカに、ハティは憮然として返す。

「馬鹿はお互い様だろう」
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