パーティーから追放された中年狙撃手の物語

武田コウ

文字の大きさ
上 下
83 / 83

命の宝球

しおりを挟む
「そこを! どけぇ!」




 吐血しながらも声を張り上げ、ショウは目の前のストーンゴーレムに聖剣を振るう。




 技術もへったくれも無いメチャクチャな剣筋に、しかしの激しい闘争心に呼応した聖剣が深紅に輝いてストーンゴーレムの硬いボディを斬り裂いた。




 しかしその攻撃の隙を、背後から忍び寄った別のストーンゴーレムによって突かれ、巨大な石の拳で後頭部を思い切り殴打される。




「・・・っは・・・」




 グシャリと嫌な音と供に訪れる衝撃、薄れゆく意識を気力で押しとどめ倒れそうになる身体を右足を地面に叩きつけて踏ん張る。




 さらなる追撃の拳を紙一重で回避して、ゴーレムの懐に潜り込んだショウは、その胸に聖剣を突き立てて今までの戦闘で把握したコアの位置を正確に貫いて、ストーンゴーレムの動きを停止させる。




 だらんと力なくショウにもたれかかってきたストーンゴーレムを蹴り飛ばして、突き立てた剣を引き抜いたショウは、片膝を地面について荒い呼吸を整えた。




 身体はすでに限界を超えている。少しでも気を緩めたらそのまま意識を失ってしまいそうだ。




 血が流れすぎている。 




 目は霞み、思考もはっきりしない。自らの命の灯火が消えかけている事を、ショウは如実に感じ取っていた。




(駄目だ・・・俺はまだ死ねない)




 足音が聞こえる。




 視線をあげると、再びやってくる新手のストーンゴーレムの姿・・・・・・。




「・・・・・・上等だ」




 フラフラと立ち上がり、左手で聖剣を構える。




(生き延びてやる・・・どんなに無様でも)




 生への執念。




 ショウは手負いの獣のような動きでストーンゴーレムに飛びかかると、その巨体を思い切り蹴飛ばした。




 拳と剣が交差する。




 一合、二合




 硬いモノ同士がぶつかり合う甲高い音を響かせながら剣線が閃き、やがてショウの一撃がクリティカルヒットしてストーンゴーレムを吹き飛ばした。




 勢いよく飛んだその巨体は遺跡の壁にぶち当たり、その勢いのまま壁を砕いて向こう側の空間へと通り抜ける。




 追撃を行う為にショウも壁を通り抜け、倒れゆくゴーレムに馬乗りになってそのコアに剣を突き刺した。




 確かな手応えと供に動作を停止するストーンゴーレム。




 ショウは虚ろな瞳で顔を上げ・・・そして目の前に鎮座する異質な存在感を放つ球体を目にする。




「・・・これ・・・・・・は・・・」




 ショウの目が大きく開かれる。口はだらしなく半開きになり、血のにじんだ唇はわなわなと震える。


 一目見た瞬間にわかった。コレが ”命の宝球” 世界を救うために必要な宝・・・。




 しかし瀕死のショウは、コレが世界を救うために必要だとか勇者の使命だとかそんな事は全く考えられず・・・でも、何故か宝球が自分を呼んでいるような気がした。




 ゆっくりと立ち上がり、全身に走る激痛に顔を歪める。




 フラフラとおぼつかない足取りで聖剣を杖のようにしながら、一歩一歩宝球の元へ歩み寄る。喉がカラカラに乾いている。目は限界まで見開かれ、ただ荘厳な装飾の施された台座の上に置かれた宝球だけを凝視していた。




 そろりと手を伸ばし、震える指先で宝球に触れ・・・その瞬間、宝球から放たれた目映い光りが辺り一面を激しく照らしつけた。






























「やあ、遅かったね。ずっと待ってたよ」




 声が聞こえた。




 聞き覚えのある快活な少年の声・・・。




 目を開くと目映いばかりの純白な空間が広がっていた。ソレはどこまでも奥行きのある途方も無く広い空間にも、もしくは一歩踏み出したら何か壁にぶつかりそうな、息苦しいほど狭い空間にも感じられた。




「こっちこっち、後ろだよ翔」




 名前を呼ばれて振り返ると、そこに立っていたのは小学生くらいの幼き日の自分自身だった。




「・・・・・・君は誰?」




「つれないこと言うなよな? 僕は君に決まってるだろ?」




「君は俺なのか?」




「そう、僕は君で君は僕だ」




 不思議な感覚だった。




 確かに今しゃべっているこの少年は、幼き日の自分に違いないのだと本能で理解できるのだから。




「それにしても君、ずいぶんとボロボロじゃないか。君は何でそんな死にそうな目にあってまで頑張っているんだい?」




 幼き自分の問いに、ショウは静かに首を横に振った。




「それは違う。俺は死なないために、こんなにボロボロになりながらもあがいたんだ」




「そうだね、君は死にたくないからあがいた」




「そう、そして遺跡の宝に手を伸ばした筈なんだけど・・・」




 そこでショウはキョロキョロと周囲を見回す。




(そうだ、自分はあの遺跡で戦っていた筈・・・じゃあこの場所は一体何なのだろう?)




 目の前の少年がニヤリと意地悪く口角をつり上げた。




 ショウはその変貌っぷりにギョッとして思わず後ずさる。




「おめでとう翔。君はみごとに ”命の宝球”を手に入れた。ご褒美に君の生きたいという願いをかなえてあげる」




 おかしい。




 確かに先ほどまで目の前の少年はショウ自身だった筈だ。しかし今目の前にいる少年にショウの面影など何も無く、ただその澄んだ黒色の瞳には底の無い闇が浮かんでいた。




「君は・・・一体・・・」




 ショウの言葉を遮るように足下に生まれた闇色のシミから、無数の手が生えて来てショウの身体に絡みつく。悲鳴を上げる間もなくショウの身体はシミの中に引きずり込まれて消えてしまった。




「おめでとうショウ。君はもう頑張らなくてもいい・・・今日から僕が勇者として君の身体で生きてあげるからさ」




 そう言って微笑んだ少年の顔は、まるで人間味の無い人形のような虚ろさを持っているのであった。











しおりを挟む
感想 4

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(4件)

ツカサメイ
2024.05.09 ツカサメイ

空白だらけで時間の無駄だった・・・
この作者、二度と読まない。

解除
USER
2022.02.20 USER

空白がウザイ!

解除
2021.08.18 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

解除

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。