パーティーから追放された中年狙撃手の物語

武田コウ

文字の大きさ
上 下
79 / 83

共闘

しおりを挟む
 世界の深淵を覗くための研究、その人間の好奇心の極みとも言える知識の産物である魔法と、神にその身の全てを捧げて信仰する事で為し得る神聖術。人間の清い信仰心を糧とする奇跡は真逆とも言えるベクトルの力だ。




 目の前のストーンドラゴンが、この異なる二つの力を使ったという事実にタケルは一瞬頭が真っ白になる。




 深い知識を持つタケルだからこそ生まれたその一瞬の隙だが、それを見逃すほどストーンドラゴンは優しくは無かった。




 その巨大な尻尾を振りかぶり、タケルに向かって一線。




 まともに攻撃を受けたタケルは、身体をくの字に折り曲げて地面と水平に飛んでいき、そのまま壁に衝突して意識を失った。




 まだ動いている獲物は一人。




 ストーンドラゴンはこの遺跡を守護するという仕事を全うすべく、黒焦げたアンネの治療を行っているカテリーナに向かって歩を進めた。




「くっ・・・ここで終わる訳には・・・」




 カテリーナは迫り来るストーンドラゴンの巨体に、恐怖の視線を向けながらもアンネの治療を続けた。




 ドラゴンは再び口を開くとサンダーボルトの魔法を展開。アンネの治療を続けるカテリーナに向かって偽りの雷が襲いかかる。




「っく・・・”プロテクション”」




 アンネに治癒の奇跡を行使しながら二人の周囲にプロテクションの防壁を展開。放たれたサンダーボルトの魔法は透明な防壁に阻まれてたち消えた。




 治癒の奇跡とプロテクションの奇跡の同時展開。




 カテリーナが聖女と称される程優秀な聖職者であるからこそできる荒技であり、その消耗は計り知れない。




 額に冷や汗を浮かべ、顔色は血の気が引いて青白くなってくるがそれでもカテリーナは二つの奇跡を行使し続けた。




 アンネの状況があまりよくない。




 このまま放置していれば死に至る危険があるのだ。




(・・・ああ、でもそろそろプロテクションの方が・・・)




 サンダーボルトを防がれたのが気にくわなかったのか、ストーンドラゴンは怒濤の勢いで駆け寄ってきてその巨大な前腕で猛烈な物理攻撃を仕掛けてきた。




 一撃、二撃。




 プロテクションの防壁が石の巨腕に打たれる度に、カテリーナの体力がゴリゴリと削られていくのがわかる。




(もう・・・限界・・・)




 ストーンドラゴンの強撃を前に、ついにプロテクションの防壁が破られる。表情の無い石作りのドラゴンの顔が、ニヤリと意地悪く笑ったような錯覚を覚えた。




 ドラゴンの巨大な前腕が振り上げられるのを見て、カテリーナはギュッと眼を閉じて身を固くする。




(ああ・・・神よ・・・)




 やってくるであろう衝撃に恐怖し、神への祈りの文言が頭に浮かぶが、しかしそれは部屋の入り口方向から聞こえた聞き覚えのある声によって遮られた。




「”メガ・ファイアボール”」




 側面からぶつかってきた巨大な火の球に、ストーンドラゴンは不意をつかれてそのまま横転する。




 カテリーナが入り口の方向を見ると、そこに立っていたのは木製の杖を高らかに掲げたシャルロッテの姿だった。




「シャルロッテさん! 無事だったのですね!」




 落とし穴の罠にはまったシャルロッテをずっと心配していたカテリーナは、目に涙を浮かべて安堵するが、彼女の隣に見知らぬ二人が立っている事に気がつく。




 フード付きの暗色のコートをつけた中年の男と、漆黒の全身鎧を身に付けた巨体の騎士風の男だ。




 騎士風の男が、その巨体からは想像できない軽やかな動きで倒れたストーンドラゴンの前まで駆け寄り、右手に持った禍々しい装飾の施されたランスを構える。




「我が名は暗黒騎士フェアラート! 遺跡の守護者よ、いざ尋常に勝負!」 




しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

処理中です...