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北大陸
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「北の遺跡ですか?」
拠点としている宿屋の一階、食事場となっているそのスペースでショウは昨夜受けた啓示について考えていた。一人で考えてもしょうがないと思ったショウはたまたま一緒になったアンネに質問をする。
唐突な質問に女騎士アンネは少し驚いたような表情を浮かべた。しかし尋ねたショウの表情は真剣そのものだったので、アンネも真面目な質問だと悟りその表情を引き締める。
「そうですね。おそらく勇者様がおっしゃっている遺跡は北方のグラキエース大陸、その雪山に存在する難攻不落のスフェール遺跡の事だと思います。そもそも道中にスノードラゴンの巣があるので、普通の冒険者では近寄ることさえ不可能ですね」
スフェール遺跡。
アンネから教えて貰った遺跡の名前を小声で繰り返しながら、ショウは考えた。
話を聞く限りでは相当ハードな旅になりそうだ。何せ相手はドラゴン・・・かつてショウのパーティはドラゴンを退治した事はあるが、それは一匹だけだったから勝てたようなモノである。
スノードラゴンの巣・・・勝てるかはわからない。しかしこれが世界を救うために必要な以上、行かないという選択肢は無かった。
「次はドラゴン退治かい? 勇者君はまったく忙しい事だねえ」
背後から聞こえたからかうような声に、ショウは振り返る。
かつて魔王ヴァルゴと供に戦ったときからパーティに加入したSランク冒険者、タケル。腰まで届く黒髪をゆったりと頭の後ろで結び、切れ長の眼が機嫌が良さそうにさらに細められている。
「・・・いや、今度の目的はドラゴンじゃ無くてその先の遺跡だよ。その遺跡に眠っている秘宝が世界を救う為に必要になるらしいから・・・」
「らしいってことはアレかい? 加護を貰った神様から神託でも下ったのかな?」
タケルの言葉にショウは静かに頷いた。
「まずは情報を集めないとね。・・・それから対ドラゴン用に準備をしないといけないか・・・毎度の事ながら世界を救う旅ってのは一筋縄ではいかないね」
「当たり前だね。誰でも出来るようなら勇者なんて必要ないのさ」
「そうですよ勇者様。それに私たちも精一杯サポートさせて頂きます」
二人の言葉にショウは心が熱くなるのを感じた。
訳もわからぬままこの世界に連れてこられ、そして意味も知らぬまま世界を救うために旅に出る。
それでも彼には仲間がいた。
ともに歩み、支え合い、導いてくれる・・・そんな仲間が。
「・・・行こう。世界を救うために!」
◇
汚れなき乙女を思わせる純白の雪原。
その雪は決して溶ける事は無く、故にグラキエース大陸は人が住むのに適さぬ土地だと言われている。
過酷なその環境に適応した魔物達は皆屈強で、その頂点に君臨するのが大陸の王者スノードラゴン。
歴史あるギルドの記録にもこのドラゴンの討伐記録は残っておらず、その実力は未知数である。
「・・・話には聞いていたけど、この寒さはかなりキツいね」
どこまでも続く雪原を見回して、ショウはぶるりとその身を震わせた。
もちろん耐寒装備を整えては来ているのだが、身に付けた毛皮の上着が頼りなく思えるほどにこの地の風は冷たく、ひどく体力を奪われる。
「体温を維持する奇跡を行使しましょうか? そうすれば少しはマシになるかと思われますが」
魅力的な聖女カテリーナの提案に、しかしショウの横に並んでいたタケルが首を横に振った。
「いんや聖女さん、そりゃあ駄目だぜ? オイラ達はこれからスノードラゴンと戦う可能性が高いんだ。恐らくかなり厳しい戦いになるだろうからね、できるだけ奇跡は温存しておいてくれ」
タケルの言葉にかつて戦ったドラゴンの姿を思い浮かべるカテリーナ。表情を引き締めてコクリと頷いた。
吹雪の中をゆっくりと進む一同。
事前にギルドで情報は調べて遺跡までの地図は持ってきているのだが、こんな目印も何も無いただっ広い雪原、しかも吹雪の中では方向感覚も薄れるというもの。
どこに進んでいるのかもわからず、しかし立ち止まる事は無く少しずつ進んでいると、不意にあれほどうるさく吹いていた吹雪がピタリと止まった。
「・・・アレ? 吹雪が・・・」
キョロキョロと周囲を見回す一同は、やがて吹雪とは違う音がだんだんと大きく近づいていることに気がついた。
バサリバサリと翼で空気を打つ重い音。
ショウは上空を見上げ、その音の主を視認する。
力強く、それでいてしなやかな肢体。
透明感のある薄緑色のかかった乳白色の鱗は、真白な大地を背景にして鮮やかに浮かび上がり、その姿を神秘的に浮かび上がらせた。
カパリとその巨大なアギトが開かれ、鋭く研がれた刃のような牙が顔を覗かせる。
咆哮
大地を振るわせるその咆哮が物理的な圧力を持って勇者一同を強かに打ち付け、その存在の強力さを示した。
スノードラゴン。
大陸の覇者がその姿を現したのだ。
拠点としている宿屋の一階、食事場となっているそのスペースでショウは昨夜受けた啓示について考えていた。一人で考えてもしょうがないと思ったショウはたまたま一緒になったアンネに質問をする。
唐突な質問に女騎士アンネは少し驚いたような表情を浮かべた。しかし尋ねたショウの表情は真剣そのものだったので、アンネも真面目な質問だと悟りその表情を引き締める。
「そうですね。おそらく勇者様がおっしゃっている遺跡は北方のグラキエース大陸、その雪山に存在する難攻不落のスフェール遺跡の事だと思います。そもそも道中にスノードラゴンの巣があるので、普通の冒険者では近寄ることさえ不可能ですね」
スフェール遺跡。
アンネから教えて貰った遺跡の名前を小声で繰り返しながら、ショウは考えた。
話を聞く限りでは相当ハードな旅になりそうだ。何せ相手はドラゴン・・・かつてショウのパーティはドラゴンを退治した事はあるが、それは一匹だけだったから勝てたようなモノである。
スノードラゴンの巣・・・勝てるかはわからない。しかしこれが世界を救うために必要な以上、行かないという選択肢は無かった。
「次はドラゴン退治かい? 勇者君はまったく忙しい事だねえ」
背後から聞こえたからかうような声に、ショウは振り返る。
かつて魔王ヴァルゴと供に戦ったときからパーティに加入したSランク冒険者、タケル。腰まで届く黒髪をゆったりと頭の後ろで結び、切れ長の眼が機嫌が良さそうにさらに細められている。
「・・・いや、今度の目的はドラゴンじゃ無くてその先の遺跡だよ。その遺跡に眠っている秘宝が世界を救う為に必要になるらしいから・・・」
「らしいってことはアレかい? 加護を貰った神様から神託でも下ったのかな?」
タケルの言葉にショウは静かに頷いた。
「まずは情報を集めないとね。・・・それから対ドラゴン用に準備をしないといけないか・・・毎度の事ながら世界を救う旅ってのは一筋縄ではいかないね」
「当たり前だね。誰でも出来るようなら勇者なんて必要ないのさ」
「そうですよ勇者様。それに私たちも精一杯サポートさせて頂きます」
二人の言葉にショウは心が熱くなるのを感じた。
訳もわからぬままこの世界に連れてこられ、そして意味も知らぬまま世界を救うために旅に出る。
それでも彼には仲間がいた。
ともに歩み、支え合い、導いてくれる・・・そんな仲間が。
「・・・行こう。世界を救うために!」
◇
汚れなき乙女を思わせる純白の雪原。
その雪は決して溶ける事は無く、故にグラキエース大陸は人が住むのに適さぬ土地だと言われている。
過酷なその環境に適応した魔物達は皆屈強で、その頂点に君臨するのが大陸の王者スノードラゴン。
歴史あるギルドの記録にもこのドラゴンの討伐記録は残っておらず、その実力は未知数である。
「・・・話には聞いていたけど、この寒さはかなりキツいね」
どこまでも続く雪原を見回して、ショウはぶるりとその身を震わせた。
もちろん耐寒装備を整えては来ているのだが、身に付けた毛皮の上着が頼りなく思えるほどにこの地の風は冷たく、ひどく体力を奪われる。
「体温を維持する奇跡を行使しましょうか? そうすれば少しはマシになるかと思われますが」
魅力的な聖女カテリーナの提案に、しかしショウの横に並んでいたタケルが首を横に振った。
「いんや聖女さん、そりゃあ駄目だぜ? オイラ達はこれからスノードラゴンと戦う可能性が高いんだ。恐らくかなり厳しい戦いになるだろうからね、できるだけ奇跡は温存しておいてくれ」
タケルの言葉にかつて戦ったドラゴンの姿を思い浮かべるカテリーナ。表情を引き締めてコクリと頷いた。
吹雪の中をゆっくりと進む一同。
事前にギルドで情報は調べて遺跡までの地図は持ってきているのだが、こんな目印も何も無いただっ広い雪原、しかも吹雪の中では方向感覚も薄れるというもの。
どこに進んでいるのかもわからず、しかし立ち止まる事は無く少しずつ進んでいると、不意にあれほどうるさく吹いていた吹雪がピタリと止まった。
「・・・アレ? 吹雪が・・・」
キョロキョロと周囲を見回す一同は、やがて吹雪とは違う音がだんだんと大きく近づいていることに気がついた。
バサリバサリと翼で空気を打つ重い音。
ショウは上空を見上げ、その音の主を視認する。
力強く、それでいてしなやかな肢体。
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カパリとその巨大なアギトが開かれ、鋭く研がれた刃のような牙が顔を覗かせる。
咆哮
大地を振るわせるその咆哮が物理的な圧力を持って勇者一同を強かに打ち付け、その存在の強力さを示した。
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大陸の覇者がその姿を現したのだ。
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