パーティーから追放された中年狙撃手の物語

武田コウ

文字の大きさ
上 下
70 / 83

秘宝

しおりを挟む
「やあ下僕。突然だけどお前の後輩作ってみたから、面倒を見てやってくれないかい?」




「・・・・・・そんなお菓子作ってみたから味見してみない? みたいな軽いノリで言われても困るんだが」




 速見が最強の騎士の偵察を終え、クレアの家に帰って来たら見知らぬ黒い甲冑を着けた騎士がいた。




 その騎士の前で自分の作品を自慢するように踏ん反り返っているクレアを見て、速見は脱力すると供に大きなため息をついた。




 主人の帰宅に瞳を輝かせた太郎が、トコトコとやってきてその足にスリスリと頭をなすりつける可愛らしい様子を見て、何とか気を取り直した速見。




 太郎の頭を愛情を込めてわしゃわしゃと撫でてから、自分の後輩に当たるのだという騎士の元へと歩み寄った。




「ええと初めましてだな後輩君。俺の名前は速見純一、見ての通りしがない狙撃手をやっている。アンタ、名前は?」




 クレアが言うには後輩であるらしい騎士とコミュニケーションを計るべく、挨拶をする速見。騎士はそんな速見に深く一礼をすると、腹の底に響くような重々しい低音で自己紹介を始めたのだった。




「ハヤミ殿ですな。私の名前は暗黒騎士フェアラート。ご指導のほどよろしくお願い致します」




 騎士・・・フェアラートは非常に律儀な性格らしく、速見に対して丁寧に挨拶をした。正直後輩という情報だけでこの騎士が何者なのか計りかねている速見は、挨拶を交わしたモノのやりずらくてしょうがなく、助けを求めるようにクレアに視線を向ける。




 しかしクレアはこの騎士の仲間になった経緯を速見に話す気など無いらしく、一方的に用件を告げるべくその口を開いた。




「とりあえずだけどフェアラートの性能のチェックもかねて、お前に頼みたいお使いがあるんだけど二人で行ってきてくれないかな?」




 嫌な予感しかしない。




 クレアのお使いという言葉に不吉なモノを感じながら、速見はそのお使いとやらの内容を尋ねた。




「・・・それで? そのお使いとやらは何をすればいいんだ。またどこぞの魔王の死体でも発掘に行くのかい?」




「んーそれもいいんだけどね。今回は死体探しじゃないんだ。今後の計画に必要になるであろうとある秘宝を北の遺跡から取ってきて欲しくてね」




 そしてクレアは速見の反応を見るように一呼吸置くと、その美しい顔に意地の悪い笑いを張り付かせて続きを口にした。




「お前は ”命の宝球” って名前の秘宝を知っているかい?」



























(ショウ・・・聞こえますか?)







 声が聞こえる。




 聞き覚えのある柔らかな女性の声。







(闇がその力を増してきています)







(このままでは世界が闇に浸食されてしまう)







(止めなくてはなりません)







(アナタの力が)







(必要です)







 頭の中にぼんやりとモヤがかかったようで、上手く思考がまとまらない。




 でも、聞こえてくる声が訴えている事は理解できる。しかしどうしたら良いのだろう。ショウは考える。




 世界を救う為に、一体自分に何が出来るのか。




「俺は何をすれば良いの?」




 ショウの問いに、柔らかな声の主が微笑んだように感じた。







(ああ、愛しいショウ)







(強大な闇の力に対抗する為にはとある秘宝を探さねばなりません)







(それは北の遺跡に眠る古代の宝)







(世界の希望)







(名を ”命の宝球”)












しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

処理中です...