パーティーから追放された中年狙撃手の物語

武田コウ

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後継

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「んー? 大気中のマナを利用して術者の足りない魔力を補う秘術か・・・・・・そもそも大気中のマナってどういうモノなんですかパイシス先生?」




 今まで触れたことの無い高度な学問を前に、苦戦するマルク。そんな彼の様子を見て、嬉しそうにする存在があった。




「良い質問だな我が弟子よ。大気中のマナとは・・・そうだな、わかりやすく言うとこの星自体が内包する魔力の事だ」




 そう答えたのは部屋の書き物机の上、にちょこんと偉そうに座っている掌サイズのスケルトンだった。




「星の・・・魔力?」




「左様。何も魔力を持つのは生物だけでは無い。この世に存在するありとあらゆる物質は全てその中に魔力を内包している。動物も植物も無機物も・・・その量に差はあれど魔力を持たない物質なんて無いのだよ」




「・・・なるほど、つまりマナとはこの星自体が内包する魔力が空気中に滲み出たモノだということですか?」




「その通り。星の魔力は膨大だ。ソレを意のままに操作する術を身に付ければ個人の持つ魔力程度で行使される魔法とは、一線を画す大魔法が完成するだろう・・・・・・まあ賢者と呼ばれたこの私ですら、その技術を完璧に身に付ける事は出来なかったのだがな」




 無念そうにうなるミニチュアスケルトンに、マルクは疑問をぶつけた。




「そんな凄い術ならばもっと多くの魔法使いが研究していてもおかしくないのでは? マナという存在自体先生の話を聞くまで耳にした事が無かったのですが」




「当然の疑問だな。まあ聞いたことが無いのも当たり前・・・何せ全ての物質に魔力が宿っているという事実を発見したのはこの私で、しかもそれを世間に公表する事はしなかったのだからな」




「それは何故でしょう? 公表して、多くの魔法使いに研究してもらった方が技術が確立する可能性が高まると思うのですが・・・」




「ああ無垢なる弟子よ、お前は魔法使いという人種を全く理解しておらぬのだな。確かにこの事実を公表していたのなら・・・ひょっとしたら私以外の誰かが大気中のマナを利用する術を完成させたかもしれない。しかし魔法使いとは欲が深い人種でな、高度な研究成果とは秘匿して当然。後継者以外に知識を分け与えるという事は決してしないものなんだ」




 そうしてパイシスは昔を思い出すように窓の外を眺めた。雲一つ無い夜空に美しい満月が闇を照らしている。




「・・・さて、今日の講義はここまで。明日の修行も早いのだろう? 早くベッドに入ってゆっくりと休むことだ。・・・自習も大事だが、身体を壊しては元も子もないぞ?」




 毎晩講義の後にマルクが一人で魔法の練習をしている事を知っているのだろう。パイシスは呆れたような声音でそれを指摘した。




「・・・バレてましたか。しかし俺は才能が無いので努力するしか無いんです。魔法にしても剣にしても・・・・・・・・・・・先生、アナタは何でこんな凡人を後継者に選んだのですか?」




 真剣な声音で問いかけるマルクを、パイシスは軽く笑い飛ばした。




「フハハッ! 自惚れるなよ馬鹿弟子が。別にお前を選んだ訳じゃ無い。たまたま後継者を探していた時にタイミング良く私の元に来たのがお前だったというだけの話だ。・・・・・・まあ縁という奴だな。私はこの出会いも神の思し召しだと思っている」




 その言葉を聞いても納得していないといった表情のマルクに、パイシスは優しい声で言葉を付け加えた。




「それに才能なんて気にするな。私にとっては他の魔法使いなど全て凡才、故に誰でもよかったのだ・・・だからお前でも良いんだよマルク。自信を持て、私に出会えた幸運なお前は、きっと誰よりも偉大な魔法使いになれるのだから」




























 草木も寝静まった真夜中。マルクが眠りについたのを確認したパイシスはやれやれと一人首を振った。




 弟子を持つなんて数千年ぶりの事で、何から教えて良いのやら毎日がてんてこ舞いだ。




 ・・・あの日、魔神を名乗る女にパイシスは殺された。




 否




 アンデットだから破壊されたと形容した方が正しいのだろうか。




 しかしパイシスは用心深い男だ。




 エルダーリッチとなってから数千年。自分が危機に追いやられた時の対策をしていない筈が無かった。




 独自の魔法により自身の魂をいくつかに砕き、予備の身体を作ってそこに定着させる。もし自分が殺された時はその予備の身体の内の一つに意識が逃げ込める仕組みとなっている。その一つがマルクに手渡した魔導書という訳だ。




 もちろん今のパイシスにかつての魔王としての力は無い。しかしそんな彼でも自分の知識を弟子に後継する事くらいは出来るのだ。




「さて・・・あの魔神もどきが何をする気かは知らないが・・・何にせよ、我が弟子には早く強くなってもらわないとだな」




 そう、パイシスに力が無いのなら弟子に力をつけさせれば良い。




 あの女の計画を阻止する為にも、そして自分の魔法を後の世に伝える為にもだ。




 美しい月を見上げながら、かつて魔王であったアンデットは不敵に微笑むのであった。











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