68 / 83
戦の結末
しおりを挟む
度重なる奇襲攻撃により、行軍の速度は予定より大幅に遅れはしたモノの、フスティシア王国の騎士団は、その熟練の動きで無駄な犠牲を出さずに戦闘を乗り切り、ほぼ完璧な状態でドロア帝国の目前までたどり着いたのだった。
「破城槌の用意をしろ!」
アルフレートの指示で、部下達が車輪の付いた木製の屋根のようなモノを運んでくる。中には天井から紐でつるされた大きな丸太が一本。
破城槌と呼ばれる原始的な攻城兵器だ。
コレを城門に密着させた状態で、紐につるされた丸太を後方に引き、鐘を突くような要領で思い切り城門にぶつけて破壊する。
シンプルだが故に使い勝手が良い。
上部に取り付けられた屋根は、槌の操作をする人間を敵の矢から保護する役割があり、安心して扉に専念できる仕組みとなっている。
ドロア帝国の城門が目視できる距離まで近づいたその時、城壁の上から無数の弓兵が一斉に顔を出しその弓を構えた。
「ふふ、さて戦争を始めようか」
それを見て不敵に笑ったアルフレートは腰の聖剣を引き抜き、その切っ先を前方へ向けて大声を張り上げる。
「盾を構えて前進!」
その命令に答え、一斉に盾を構える騎士達。
王国の紋章が刻まれた盾が乱れなく一斉に構えられる様は、正面から見る弓兵にまるで突然壁が現れたかのような錯覚を覚えさせた。
盾を進行方向斜め上に構え、最強の騎士団が進軍を開始する。
一斉に飛来してきた矢の雨は、構えられた盾に阻まれて騎士の身体に届くことは無かった。
しかし帝国兵もそのまま黙っている訳では無い。矢が聞かないのがわかると次は投石機による投石が始まる。
放たれた大きな石による攻撃を防ぎきる事は流石の騎士といえども不可能で、投石により潰される騎士も多数出てきた。
だが騎士団は動じない。
隣で仲間が潰されようが一切の動揺も見せず、隊列を崩すことも無く一定の速度で城門へと迫ってくる。
その異様な姿はまるで感情を持たぬ死霊の軍勢と戦っているようで、城門の上に配置された兵達はぶるりとその身を震わせた。
城門にたどり着いた騎士団達は破城槌の設置にかかる。
そしてその少し後方には騎士団の弓兵部隊が隊列を組み直した。即ちこの部隊は投石などで破城槌の設置を邪魔する兵を地上から射抜くサポート役なのだ。
城門前での攻防を少し離れた所から眺めながら、アルフレートは静かに頷いた。
順調だ。
この調子なら後数分で城門を破る事が可能だろう。この関門をクリア出来れば後は地上戦で負けることなど無い。
そう思考している内に城門の破壊が成ったようだ。
なだれ込む騎士達を見て勝利を確信したアルフレートは、我も参加せんと破られた城門の穴へ馬を走らせた。
騎士団の進軍を止めようとなだれ込んでくる帝国兵達。
鳴り響く金属音と鼻を刺激する生臭い血の香り。
そして行く手を阻むモノ全てを斬り捨てた騎士団たちは、ついに城の内部へ侵入する事に成功した。
馬から下りて城を探索しながらアルフレートは妙な事に気がつく。
(おかしい・・・何故城の中に兵がいない?)
恐ろしいほど静かだ。
先ほどの騒がしい戦闘が嘘のよう・・・。
アルフレートの眼が見開かれる。
気がついたのだ。
この奇妙な現状の正体に。
「不味いぞ! 早く撤退を・・・」
そして
城の各地に設置された爆弾が爆発した。
◇
煌々と燃え上がる城を見上げながら、ドロア帝国皇帝ジョージ・フラギリス三世は複雑な思いを抱いていた。
当然だ。
圧倒的な戦力差を埋めるための策とはいえ、歴史ある自分の城が燃えているのを見るのは嫌なモノだった。
「陛下、かの最強の騎士は仕留めましたがまだ敵の残兵おりますのでそこは危険です。移動しましょう」
そう言ったのはジョージの最も信頼する部下、騎士クリサリダ・ブーパ。この策を提案した張本人である。
「・・・そうだな悪いがクリサリダ、残兵の掃討は任せたぞ?」
「ハッ! お任せ下さい」
いくら最強の騎士団とはいえ急にその長を失った動揺は大きいはず。クリサリダほどの男ならその隙をついて掃討する事は可能だろう。
この場はクリサリダに任せて避難しようとしたジョージ、最後に燃える城をちらりと一瞥し・・・あり得ない光景を目にして口をあんぐりと開ける。
その男は悠々と燃えさかる城の壁を破壊して、外に出てきた。
史上最強の騎士アルフレート・ベルフェクト・ビルドゥ。
身体の各所がわずかに焦げ付いてはいるものの、あれだけの爆発の中、致命傷を負った様子は見られない。
乙女と見まがうばかりの美しい顔を憤怒に染めて、最強の騎士は単機でこちらにゆっくりと歩いてきた。
「・・・驚いたよ。私が炎の聖剣使いで無ければ死んでいたところだ」
そしてアルフレートは手にした聖剣の真名を解放する。
「燃え上がれ! ”沈まぬ太陽の剣”」
刀身に深紅の炎が纏わりつく。
それを大きく振り上げたアルフレートは、そのまま怒りに任せて聖剣を全力で振り下ろした。
刀身から放たれた灼熱の炎が一瞬にしてその範囲を拡大し、ドロア帝国皇帝、ジョージ・フラギリス・三世の元へと襲い来る。
「・・・・・・嘘だろ?」
その言葉を最後にジョージは深紅の炎に飲み込まれた。
周囲にいた近衛兵達も巻き込まれて辺りは炎の地獄へと変わり果てる。
「へ、陛下ぁあああ!?」
主を失ったクリサリダの絶叫が炎の地獄に響き渡った。
◇
「破城槌の用意をしろ!」
アルフレートの指示で、部下達が車輪の付いた木製の屋根のようなモノを運んでくる。中には天井から紐でつるされた大きな丸太が一本。
破城槌と呼ばれる原始的な攻城兵器だ。
コレを城門に密着させた状態で、紐につるされた丸太を後方に引き、鐘を突くような要領で思い切り城門にぶつけて破壊する。
シンプルだが故に使い勝手が良い。
上部に取り付けられた屋根は、槌の操作をする人間を敵の矢から保護する役割があり、安心して扉に専念できる仕組みとなっている。
ドロア帝国の城門が目視できる距離まで近づいたその時、城壁の上から無数の弓兵が一斉に顔を出しその弓を構えた。
「ふふ、さて戦争を始めようか」
それを見て不敵に笑ったアルフレートは腰の聖剣を引き抜き、その切っ先を前方へ向けて大声を張り上げる。
「盾を構えて前進!」
その命令に答え、一斉に盾を構える騎士達。
王国の紋章が刻まれた盾が乱れなく一斉に構えられる様は、正面から見る弓兵にまるで突然壁が現れたかのような錯覚を覚えさせた。
盾を進行方向斜め上に構え、最強の騎士団が進軍を開始する。
一斉に飛来してきた矢の雨は、構えられた盾に阻まれて騎士の身体に届くことは無かった。
しかし帝国兵もそのまま黙っている訳では無い。矢が聞かないのがわかると次は投石機による投石が始まる。
放たれた大きな石による攻撃を防ぎきる事は流石の騎士といえども不可能で、投石により潰される騎士も多数出てきた。
だが騎士団は動じない。
隣で仲間が潰されようが一切の動揺も見せず、隊列を崩すことも無く一定の速度で城門へと迫ってくる。
その異様な姿はまるで感情を持たぬ死霊の軍勢と戦っているようで、城門の上に配置された兵達はぶるりとその身を震わせた。
城門にたどり着いた騎士団達は破城槌の設置にかかる。
そしてその少し後方には騎士団の弓兵部隊が隊列を組み直した。即ちこの部隊は投石などで破城槌の設置を邪魔する兵を地上から射抜くサポート役なのだ。
城門前での攻防を少し離れた所から眺めながら、アルフレートは静かに頷いた。
順調だ。
この調子なら後数分で城門を破る事が可能だろう。この関門をクリア出来れば後は地上戦で負けることなど無い。
そう思考している内に城門の破壊が成ったようだ。
なだれ込む騎士達を見て勝利を確信したアルフレートは、我も参加せんと破られた城門の穴へ馬を走らせた。
騎士団の進軍を止めようとなだれ込んでくる帝国兵達。
鳴り響く金属音と鼻を刺激する生臭い血の香り。
そして行く手を阻むモノ全てを斬り捨てた騎士団たちは、ついに城の内部へ侵入する事に成功した。
馬から下りて城を探索しながらアルフレートは妙な事に気がつく。
(おかしい・・・何故城の中に兵がいない?)
恐ろしいほど静かだ。
先ほどの騒がしい戦闘が嘘のよう・・・。
アルフレートの眼が見開かれる。
気がついたのだ。
この奇妙な現状の正体に。
「不味いぞ! 早く撤退を・・・」
そして
城の各地に設置された爆弾が爆発した。
◇
煌々と燃え上がる城を見上げながら、ドロア帝国皇帝ジョージ・フラギリス三世は複雑な思いを抱いていた。
当然だ。
圧倒的な戦力差を埋めるための策とはいえ、歴史ある自分の城が燃えているのを見るのは嫌なモノだった。
「陛下、かの最強の騎士は仕留めましたがまだ敵の残兵おりますのでそこは危険です。移動しましょう」
そう言ったのはジョージの最も信頼する部下、騎士クリサリダ・ブーパ。この策を提案した張本人である。
「・・・そうだな悪いがクリサリダ、残兵の掃討は任せたぞ?」
「ハッ! お任せ下さい」
いくら最強の騎士団とはいえ急にその長を失った動揺は大きいはず。クリサリダほどの男ならその隙をついて掃討する事は可能だろう。
この場はクリサリダに任せて避難しようとしたジョージ、最後に燃える城をちらりと一瞥し・・・あり得ない光景を目にして口をあんぐりと開ける。
その男は悠々と燃えさかる城の壁を破壊して、外に出てきた。
史上最強の騎士アルフレート・ベルフェクト・ビルドゥ。
身体の各所がわずかに焦げ付いてはいるものの、あれだけの爆発の中、致命傷を負った様子は見られない。
乙女と見まがうばかりの美しい顔を憤怒に染めて、最強の騎士は単機でこちらにゆっくりと歩いてきた。
「・・・驚いたよ。私が炎の聖剣使いで無ければ死んでいたところだ」
そしてアルフレートは手にした聖剣の真名を解放する。
「燃え上がれ! ”沈まぬ太陽の剣”」
刀身に深紅の炎が纏わりつく。
それを大きく振り上げたアルフレートは、そのまま怒りに任せて聖剣を全力で振り下ろした。
刀身から放たれた灼熱の炎が一瞬にしてその範囲を拡大し、ドロア帝国皇帝、ジョージ・フラギリス・三世の元へと襲い来る。
「・・・・・・嘘だろ?」
その言葉を最後にジョージは深紅の炎に飲み込まれた。
周囲にいた近衛兵達も巻き込まれて辺りは炎の地獄へと変わり果てる。
「へ、陛下ぁあああ!?」
主を失ったクリサリダの絶叫が炎の地獄に響き渡った。
◇
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった
ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。
しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。
リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。
現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる