64 / 83
刃の向かう先
しおりを挟む
「団長、急に抜刀などされていかがなされたので?」
史上最強の騎士アルフレート・ベルフェクト・ビルドゥは、怪訝そうな顔をして問いかけた側近の言葉に微笑むとそっと抜刀した剣を鞘に収めた。
”沈まぬ太陽の剣”(サント・ルス)
勇者の持つ ”暁の剣” にも劣らぬ威力を秘めた聖剣の一振りである。長い歴史を持つその剣は王国の大貴族ビルドゥ家の当主に代々受け継がれてきた一品だ。
「見えなかったかい? どうやら私は今命の危機だったようだよ?」
からかうような口調のアルフレートの言葉に側近の男は表情を硬くする。
「・・・まさか何者かが狙撃を? ただちに兵を走らせて狼藉者を捕らえます!」
慌てて駆け出そうとする側近に向かって、アルフレートは静かに首を横に振ってその行動を引き留めた。
「無駄になりそうだし止めておくといい。今から兵を走らせたとて捕らえられる場所にはもういないだろうしね」
そう言いながら、ちらりと弾の飛んできた方向を見る。
その方向には狙撃が出来る隙間などなく、密集した建物が並んでいた。どうやったのかはわからない、だが尋常ではない実力の持ち主であることに違いは無いだろう。
「それでも・・・私が負けることはないだろうね」
手の内もわからぬ暗殺者に対する自身に満ちた言葉。しかしその一言はハッタリでは無い。彼は知っているのだ。恐らく自分がこの世で最も強いという事を。
今、世の中を騒がせている魔王という存在ですら、史上最強の騎士アルフレートは難なく屠ってしまえるだろうと考えている。
しかしアルフレートは王族に仕える騎士。その刃は王の命令無く振るうことが許されないのだ。
「・・・でもそろそろかもね」
現在、多くの魔王によって人類という種は絶滅の危機に追い込まれている。
フスティシア王国はその強大さ故に敵も多い。だからこそ国の防衛という点で自ら魔王を狩りに行くような事は今まで行ってこなかったのだが・・・魔王からの被害が深刻な現状、国の最高戦力であるアルフレートの騎士団が派遣される日も遠くないだろう。
「魔王だか何だか知らないけど・・・あまり人類を舐めない方がいい」
その笑みは絶対的な強さに支えられた自信に満ちていた。
◇
「・・・・・・アヴァール王国が落ちたか・・・これは流石に我々も動かねばならない事態だな」
重々しい口調でそう呟いたのは、フスティシア王国12代国王セサル・フエルテ・フスティシアだ。御年74才の高齢だがスッと伸びた背筋と見る者を威圧する眼力からどう猛な印象を人に与える。
口に蓄えた見事な白ひげを手でなでつけると、セサルは机を囲む国の重役達に意見を求める。
「我が国の誇る最強戦力によって魔王を討伐しようと思うのだが・・・お前達はどう思うかね?」
最初に口を開いたのは体格の良いはげ頭の男。将軍の地位を持つ、この国における軍事責任者だ。
「私は賛成です。誇り高き我が国は正義と騎士道を重んじる騎士の国・・・動くのが遅すぎるくらいです。ここで動かねば正義が廃ります」
しかしその言葉に反論する者もいた。参謀役の神経質そうなやせ男が将軍の勇ましい言葉に異を唱える。
「それはどうでしょうか将軍殿。今我が国はドロア帝国、グランツ帝国という強大な二国とにらみ合いをしております。魔王軍を倒すならそれなりの兵力が必要・・・その隙を突かれたら手痛いですぞ?」
「ふむ、確かに。・・・魔王軍討伐へ要する兵力を引いて考えても、ドロア帝国かグランツ帝国、どちらか片方ならどうにかなるでしょう。しかし両国が手を組むと流石に我が国の精鋭でも厳しいですな」
それは軍事責任者として、国の兵力を正確に把握した将軍だからこその言葉。
フスティシア王国の兵力は強大だ。仮に敵対している二国が手を組んだとて、万全の状態なら返り討ちにする事も可能だろう。
二人の話し合いを聞いていたセサルが大きく息を吐き出すと、手で二人の言葉を制した。ゆっくりと立ち上がり今後の方針を宣言する。
「よろしい。あまり気乗りはしないが魔王討伐の前に不安の種を摘んでおこうか・・・アルフレートよ前に」
セサルの言葉に、後方に控えていた騎士アルフレートが前へと進み出た。
「アルフレートよ、お主にはドロア帝国を攻めて貰う。お主直属の騎士団をつれて行くといい・・・攻略に時間はどれだけ必要だ?」
王の言葉に、アルフレートは輝かんばかりの笑顔で答えた。
「ならば一月もかからないでしょう」
歴史は動き出す。
人類最強の男は魔王を倒すよりも先に、敵対国家を潰す為にその力を振るうのだ。
◇
史上最強の騎士アルフレート・ベルフェクト・ビルドゥは、怪訝そうな顔をして問いかけた側近の言葉に微笑むとそっと抜刀した剣を鞘に収めた。
”沈まぬ太陽の剣”(サント・ルス)
勇者の持つ ”暁の剣” にも劣らぬ威力を秘めた聖剣の一振りである。長い歴史を持つその剣は王国の大貴族ビルドゥ家の当主に代々受け継がれてきた一品だ。
「見えなかったかい? どうやら私は今命の危機だったようだよ?」
からかうような口調のアルフレートの言葉に側近の男は表情を硬くする。
「・・・まさか何者かが狙撃を? ただちに兵を走らせて狼藉者を捕らえます!」
慌てて駆け出そうとする側近に向かって、アルフレートは静かに首を横に振ってその行動を引き留めた。
「無駄になりそうだし止めておくといい。今から兵を走らせたとて捕らえられる場所にはもういないだろうしね」
そう言いながら、ちらりと弾の飛んできた方向を見る。
その方向には狙撃が出来る隙間などなく、密集した建物が並んでいた。どうやったのかはわからない、だが尋常ではない実力の持ち主であることに違いは無いだろう。
「それでも・・・私が負けることはないだろうね」
手の内もわからぬ暗殺者に対する自身に満ちた言葉。しかしその一言はハッタリでは無い。彼は知っているのだ。恐らく自分がこの世で最も強いという事を。
今、世の中を騒がせている魔王という存在ですら、史上最強の騎士アルフレートは難なく屠ってしまえるだろうと考えている。
しかしアルフレートは王族に仕える騎士。その刃は王の命令無く振るうことが許されないのだ。
「・・・でもそろそろかもね」
現在、多くの魔王によって人類という種は絶滅の危機に追い込まれている。
フスティシア王国はその強大さ故に敵も多い。だからこそ国の防衛という点で自ら魔王を狩りに行くような事は今まで行ってこなかったのだが・・・魔王からの被害が深刻な現状、国の最高戦力であるアルフレートの騎士団が派遣される日も遠くないだろう。
「魔王だか何だか知らないけど・・・あまり人類を舐めない方がいい」
その笑みは絶対的な強さに支えられた自信に満ちていた。
◇
「・・・・・・アヴァール王国が落ちたか・・・これは流石に我々も動かねばならない事態だな」
重々しい口調でそう呟いたのは、フスティシア王国12代国王セサル・フエルテ・フスティシアだ。御年74才の高齢だがスッと伸びた背筋と見る者を威圧する眼力からどう猛な印象を人に与える。
口に蓄えた見事な白ひげを手でなでつけると、セサルは机を囲む国の重役達に意見を求める。
「我が国の誇る最強戦力によって魔王を討伐しようと思うのだが・・・お前達はどう思うかね?」
最初に口を開いたのは体格の良いはげ頭の男。将軍の地位を持つ、この国における軍事責任者だ。
「私は賛成です。誇り高き我が国は正義と騎士道を重んじる騎士の国・・・動くのが遅すぎるくらいです。ここで動かねば正義が廃ります」
しかしその言葉に反論する者もいた。参謀役の神経質そうなやせ男が将軍の勇ましい言葉に異を唱える。
「それはどうでしょうか将軍殿。今我が国はドロア帝国、グランツ帝国という強大な二国とにらみ合いをしております。魔王軍を倒すならそれなりの兵力が必要・・・その隙を突かれたら手痛いですぞ?」
「ふむ、確かに。・・・魔王軍討伐へ要する兵力を引いて考えても、ドロア帝国かグランツ帝国、どちらか片方ならどうにかなるでしょう。しかし両国が手を組むと流石に我が国の精鋭でも厳しいですな」
それは軍事責任者として、国の兵力を正確に把握した将軍だからこその言葉。
フスティシア王国の兵力は強大だ。仮に敵対している二国が手を組んだとて、万全の状態なら返り討ちにする事も可能だろう。
二人の話し合いを聞いていたセサルが大きく息を吐き出すと、手で二人の言葉を制した。ゆっくりと立ち上がり今後の方針を宣言する。
「よろしい。あまり気乗りはしないが魔王討伐の前に不安の種を摘んでおこうか・・・アルフレートよ前に」
セサルの言葉に、後方に控えていた騎士アルフレートが前へと進み出た。
「アルフレートよ、お主にはドロア帝国を攻めて貰う。お主直属の騎士団をつれて行くといい・・・攻略に時間はどれだけ必要だ?」
王の言葉に、アルフレートは輝かんばかりの笑顔で答えた。
「ならば一月もかからないでしょう」
歴史は動き出す。
人類最強の男は魔王を倒すよりも先に、敵対国家を潰す為にその力を振るうのだ。
◇
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった
ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。
しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。
リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。
現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる