61 / 83
道化
しおりを挟む
「あア、素晴らしきかな無双の軍勢! 完璧な規律の取れたその動きはまさに芸術! いやいや良い物を見せて頂きまシタ」
芝居がかった台詞を、その場で一人クルクルと回りながら大声で叫ぶ道化が一人。ど派手な色をした道化服に身を包み、顔には白と黒でペイントされた質素な仮面をつけている。
「人間も指導者次第でこうも強くなれるのデスね。私感動致しまシタ。・・・それで将軍殿、もう勝負はついていると思いマスが・・・まだ続けマスか?」
道化と相対するはアヴァール王国将軍、フリードリヒ・パトリオット。アヴァール王国最強の男は、しかしその立派な装備はボロボロに破損しており、身体の至る所に焼け焦げた跡が見られた。
まさに満身創痍といった様子のフリードリヒだが、その瞳の闘志はまだ燃えており、右手のランスをぎゅっと握り締めた。
「・・・・・・まさか魔王本人が前線に出て攻めてくるとは思わなかった。部下はほぼ全滅状態になってしまったが、それはお前の軍勢も同じ事! 頭領同士の一騎打ちだ。ここでお前を打てば全てが終わる!」
アヴァール王国は魔王の軍勢に奇襲を受けた。
しかし前回の魔王カプリコーンとの戦いで魔王の脅威を学んだフリードリヒは、すでに対魔王分の備えをしており、攻め込んできた軍勢を返り討ちにすることができたのだ。
・・・ただ唯一誤算があったとすれば、攻め込んできた魔王軍の中に魔王本人がいたという事だろう。
普通魔王は、その絶対強者としてのプライドから自ら動く事をしない。
侵略は部下に任せて居城でどっしりと構えているというのが魔王の常だった。
油断していた。
別に魔王自身が攻め込んでこない保証なんてどこにも無かったのだ。
魔王の軍勢を討ち滅ぼしたフリードリヒの軍勢だが、後から来た魔王一人の手でその軍勢は打ち破られた。
個で軍を超える力。
残ったのはフリードリヒ・パトリオットと魔王の二人だけだ。
「一騎打ち! 一騎打ちデスか! 良いデスねえ騎士っぽくて! 私何故か胸がドキドキと高鳴ってまいりマシた・・・ハッ、まさかこの感情は恋!?」
ふざけた言動でクルクルと回り出す魔王に、しかしフリードリヒは一切の油断もせず大盾とランスを構えた。
何せこの男一人に自慢の軍が全滅させられたのだ。
ぴりぴりとした張り詰めるような緊張感の中、先に動いたのはフリードリヒだった。
「おぉおおお!!」
大盾をがっしりと構えて突進をする。何があっても対応できるように右手に握りしめたランスをグッと身体に引きつけた。
一方の魔王はその攻撃を避ける様子も見せず、無骨な大盾の突進をまともにその身で受ける形となる。
「フホホホッ!! これは痛いデスね!」
メキメキという骨の軋む音とともに魔王は吹き飛ばされた。正直、こんな直線的な攻撃は回避か受け止められると予想して次の手を考えていたフリードリヒには予想外の結果となったが、チャンスな事には変わりない。
追撃。
右手のランスを構えて吹き飛ばされた魔王を追う。
突き出されたランスの一撃。
それは無限にも等しい日々の反復練習により究極にまで高められた技術の結晶。鋭きその一撃に貫けぬモノ無しとまで言われる突きの秘奥。
ランスの先端が魔王の腹部を抉り、そのままその細身の身体を貫通した。
「うぉおお!!」
気合いと供に貫いた魔王を地面に叩きつける。
ランスを引き抜き、その身体に馬乗りになると左手の大盾を振りかぶって顔面に向けて思い切り叩きつけた。
肉の潰れる湿った音が鳴り響く。
普通ならここで勝負ありだろう。しかし相手は魔王、この程度で終わるはずが無い。フリードリヒは再び右手のランスをグッと身体に引きつけ・・・。
「これが愛デスね将軍?」
ぞっとするような声と供に背中に突き立てられる魔王の右腕。
そのまま地に倒れたフリードリヒから引き抜かれたその右手には彼の心臓が握られていた。
「おオ、おれは力強い! 素晴らしきかな将軍殿の心臓!」
何がおかしいのかケタケタと笑いながらフリードリヒの心臓をかかげ、その場でクルクルと回り出す魔王。
突然その回転をピタリと止め、何かを思いついたかのようにフリードリヒの死体を見下ろした。
「・・・これほどの実力者の死体、ただ処理するのは勿体ないデスね」
そういって空いた左手でフリードリヒの巨体をひょいと持ち上げる。
細身の身体のどこにそんな力があるのかは分からないが、死体を持ち上げるその姿に重さを感じている様子は見られなかった。
魔王はそのままスキップでもしそうな陽気さで歩を進めると、いつの間にかその姿は消えていた。
後には崩壊したアヴァール王国の残骸だけが無残な姿をさらしているのだった。
◇
芝居がかった台詞を、その場で一人クルクルと回りながら大声で叫ぶ道化が一人。ど派手な色をした道化服に身を包み、顔には白と黒でペイントされた質素な仮面をつけている。
「人間も指導者次第でこうも強くなれるのデスね。私感動致しまシタ。・・・それで将軍殿、もう勝負はついていると思いマスが・・・まだ続けマスか?」
道化と相対するはアヴァール王国将軍、フリードリヒ・パトリオット。アヴァール王国最強の男は、しかしその立派な装備はボロボロに破損しており、身体の至る所に焼け焦げた跡が見られた。
まさに満身創痍といった様子のフリードリヒだが、その瞳の闘志はまだ燃えており、右手のランスをぎゅっと握り締めた。
「・・・・・・まさか魔王本人が前線に出て攻めてくるとは思わなかった。部下はほぼ全滅状態になってしまったが、それはお前の軍勢も同じ事! 頭領同士の一騎打ちだ。ここでお前を打てば全てが終わる!」
アヴァール王国は魔王の軍勢に奇襲を受けた。
しかし前回の魔王カプリコーンとの戦いで魔王の脅威を学んだフリードリヒは、すでに対魔王分の備えをしており、攻め込んできた軍勢を返り討ちにすることができたのだ。
・・・ただ唯一誤算があったとすれば、攻め込んできた魔王軍の中に魔王本人がいたという事だろう。
普通魔王は、その絶対強者としてのプライドから自ら動く事をしない。
侵略は部下に任せて居城でどっしりと構えているというのが魔王の常だった。
油断していた。
別に魔王自身が攻め込んでこない保証なんてどこにも無かったのだ。
魔王の軍勢を討ち滅ぼしたフリードリヒの軍勢だが、後から来た魔王一人の手でその軍勢は打ち破られた。
個で軍を超える力。
残ったのはフリードリヒ・パトリオットと魔王の二人だけだ。
「一騎打ち! 一騎打ちデスか! 良いデスねえ騎士っぽくて! 私何故か胸がドキドキと高鳴ってまいりマシた・・・ハッ、まさかこの感情は恋!?」
ふざけた言動でクルクルと回り出す魔王に、しかしフリードリヒは一切の油断もせず大盾とランスを構えた。
何せこの男一人に自慢の軍が全滅させられたのだ。
ぴりぴりとした張り詰めるような緊張感の中、先に動いたのはフリードリヒだった。
「おぉおおお!!」
大盾をがっしりと構えて突進をする。何があっても対応できるように右手に握りしめたランスをグッと身体に引きつけた。
一方の魔王はその攻撃を避ける様子も見せず、無骨な大盾の突進をまともにその身で受ける形となる。
「フホホホッ!! これは痛いデスね!」
メキメキという骨の軋む音とともに魔王は吹き飛ばされた。正直、こんな直線的な攻撃は回避か受け止められると予想して次の手を考えていたフリードリヒには予想外の結果となったが、チャンスな事には変わりない。
追撃。
右手のランスを構えて吹き飛ばされた魔王を追う。
突き出されたランスの一撃。
それは無限にも等しい日々の反復練習により究極にまで高められた技術の結晶。鋭きその一撃に貫けぬモノ無しとまで言われる突きの秘奥。
ランスの先端が魔王の腹部を抉り、そのままその細身の身体を貫通した。
「うぉおお!!」
気合いと供に貫いた魔王を地面に叩きつける。
ランスを引き抜き、その身体に馬乗りになると左手の大盾を振りかぶって顔面に向けて思い切り叩きつけた。
肉の潰れる湿った音が鳴り響く。
普通ならここで勝負ありだろう。しかし相手は魔王、この程度で終わるはずが無い。フリードリヒは再び右手のランスをグッと身体に引きつけ・・・。
「これが愛デスね将軍?」
ぞっとするような声と供に背中に突き立てられる魔王の右腕。
そのまま地に倒れたフリードリヒから引き抜かれたその右手には彼の心臓が握られていた。
「おオ、おれは力強い! 素晴らしきかな将軍殿の心臓!」
何がおかしいのかケタケタと笑いながらフリードリヒの心臓をかかげ、その場でクルクルと回り出す魔王。
突然その回転をピタリと止め、何かを思いついたかのようにフリードリヒの死体を見下ろした。
「・・・これほどの実力者の死体、ただ処理するのは勿体ないデスね」
そういって空いた左手でフリードリヒの巨体をひょいと持ち上げる。
細身の身体のどこにそんな力があるのかは分からないが、死体を持ち上げるその姿に重さを感じている様子は見られなかった。
魔王はそのままスキップでもしそうな陽気さで歩を進めると、いつの間にかその姿は消えていた。
後には崩壊したアヴァール王国の残骸だけが無残な姿をさらしているのだった。
◇
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった
ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。
しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。
リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。
現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる