パーティーから追放された中年狙撃手の物語

武田コウ

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修行の日々

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「へえ、クレアさんは錬金術師なんですね!」




「ええそうなの。それで錬金術の素材を集める為にこのダンジョンに来ているのよ」




「でもダンジョンに女性一人というのは危なくないですか?」




「ふふ、心配してくれてありがとう。でもこう見えてアタシ強いのよ?」




「そうだとしても、見たところ装備も整えてない見たいですし・・・そうだ、俺たちと一緒に行動しましょうよ。みんなで一緒にいた方が安全でしょうから! ね、師匠。問題ないですよね?」




 マルクの無邪気な問いかけに、二人の会話を黙って聞いていたエリザベートは難しい顔をしながらも返答をした。




「そう・・・ですわね。確かにダンジョンでソロはよほど腕に自信が無い限りオススメはしませんわ」




「あら、それならお邪魔しようかしら。・・・マルクくんアタシを守ってね?」




「はい! 任せて下さい!」




 ハキハキと返事をするマルクを横目に、エリザベートは注意深くクレアを観察していた。




 彼女が言っていたように凄腕の錬金術師は総じてその戦闘能力が高い人物も多い、しかしそれでも装備も整えずにダンジョンに一人で潜る事があるのだろうか?




 わからない。




 彼女を判断するにはまだ材料が足りなすぎるのだ。

























「はぁああ!!」




 先ほどの戦いで何かをつかんだのか、マルクは順調にエンカウントした魔物を屠ってゆく。このダンジョンの性質なのか、出会う敵はすべてアンデット系の魔物であった。




「凄いわねマルクくん。こんなにたくさんアンデットを倒せるなんて」




「いえ、俺はまだ修行中の身ですから」




 謙遜してみせるマルクだが、クレアに褒められてやけに嬉しそうだ。




 そんな二人の様子を、後方で控えているエリザベートはおもしろくなさそうに見ている。特にマルクがクレアに対してデレデレしているのが気にくわないようだ。




(なんですのマルクのあの態度!! 相手が美人だから? それとも・・・)




 エリザベートはじっとクレアの胸部を凝視する。




 クレアのシンプルな衣服の上からでもわかる女性の象徴。その巨大な双球が強烈に自己主張をしているのを見て、自身の平らな胸部に視線を落とす。




「・・・・・・・・・・・・」




 何とも言えぬ敗北感を抱きながらエリザベートは警戒と、多少の私的な憎しみを込めてクレアを睨み付けるのであった。




























 かさかさに乾燥した地面は、足を踏み下ろすだけでもうもうと土煙をあげて呼吸を阻害した。マルクは軽く咳払いをすると、口元に手を当てながら前へと進む。




 空気が乾いている。喉のひりつきを感じ、ポーチから革袋の水筒を取り出すと飲み口を加えて中身を口に含んだ。




 ぬるくなった水だが、乾いた喉には心地よい。




 水分補給を終えたマルクは、周囲を警戒しながら前進を再開した。なにせこのダンジョンはたちの悪いことにアンデットだらけ、いちいち登場する度に気味の悪いうめき声をあげるモノだから心臓に悪いことこの上ないのだ。




『・・・ふむ、冒険者かね? 何にせよ来客は久しぶりだ』




 不意に耳元で聞こえたざらつく男の声。




 マルクはさっと振り返って腰のグラディウスに手をかけるが、そこにいたのは背後で控えていたエリザベートとクレアの二人だけで男の姿など影も形もない。




「・・・? どうかしましたのマルク」




 エリザベートが首をかしげている。




 もしかしてあの声は自分にしか聞こえていないのだろうか? 




『そのまま前に進むと良い。鍵は開けておこう』




 再び聞こえる男の声。




 その声には何故か抗いがたい力が込められており、マルクは自分の意思とは関係なく声に導かれるまま前へ進む。




「マルク?」




 背後からマルクを呼ぶ声も、今やかすかにしか聞こえない。




 マルクはただ男の声に導かれるまま進み・・・やがて目の前にダンジョンには似合わない鋼鉄の扉が現れた。




『さあおいで』




 扉に手をかける。




 どうやら鍵はかかっていないようで、何の抵抗もなくソレは開いた。




 マルクが扉の奥に入ると背後で扉の閉じる音が響き渡る。その音で我に返ったマルクは慌てて扉を引くが、今度は押しても引いてもびくともしなかった。




(まずい・・・師匠と分断された) 




 その時背後から何かが動く気配。




 振り返るとそこに存在したのは、濃厚な死のオーラを纏った存在。




 ボロボロなローブを身に纏い、フードから除くその顔には肉と呼べるモノが一切見られなかった。




 人間の頭骨、その虚ろな眼窩の奥から青白い炎が燃えている。




 スケルトンでは無い。




 その絶望的なまでなプレッシャーが、マルクにその存在の強大さを伝えていた。




『初めまして若き冒険者。私の名前はパイシス。見ての通りエルダーリッチだ』




 エルダーリッチ。




 手厚く葬られなかった強力な魔法使いが死後、その強い魔力の為朽ちることも出来ずアンデット化した魔物の事をそう呼ぶのだ。




 高い知性と強力な魔法を持ち、その危険度はギルドからSランクの認定を受けている。




「・・・・・・流石に無理でしょ」




 マルクは絶望と供に情けない笑い声を漏らした。
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