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陽動
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「”メガ・ファイアボール”」
シャルロッテが展開した上級魔法が城門を破壊する。その衝撃に驚いた魔物達がわらわらと城の外に集まってきた。
「”ヘル・ファイア”」
その魔物の群に向かって広範囲の炎魔法を放つシャルロッテ。
一網打尽。
集まった魔物達は地獄の業火に焼き尽くされた。
しかし城の内部から次から次へと新手の魔物が出てくる。その数はかつて相対した魔王カプリコーンの軍勢よりもさらに多く、質よりも量を体現しているかのようだった。
「シャルロッテ、まだいけるな?」
アンネの問いにシャルロッテは無言で頷いた。
残魔力は十分。上級魔法の連続使用は身体に大きな負担がかかるが、世界を救うための戦いで泣き言は言っていられないのだ。
「”ヘル・ファイア”」
再び放たれた地獄の業火。
しかしそれを回避してシャルロッテの元まで走り来る魔物が数体。
手にした刃をギラリと光らせ、魔法発動後の無防備なシャルロッテに襲い来るナーガを隣で待機していたアンネが剣の一振りで両断した。
「打ち漏らしは私が狩る! シャルロッテは安心して魔法に集中しろ!」
額に汗を浮かべながらシャルロッテはアンネに礼を言った。
ここから長丁場になる。
気を引き締め、前を見る。
作戦の成功は自分たちの働きにかかっているのだから。
◇
城門の方角から響く衝撃音に耳を澄ませ、タケルは頷いた。
「どうやら彼女たちが始めたみたいだ。オイラ達も手早く済ませるとしよう」
タケルの立てた作戦は至ってシンプルなものだった。
この城に巣くっている魔物達は鍛えられた軍隊では無い。ならばこそ見張りも無く、先の潜入も簡単にできたのだろう。
唯一やっかいなのがその数の多さだ。
いちいち相手をしていてはキリが無い。
そこでチームを二つに分断し、広範囲の攻撃が可能なシャルロッテが囮となって魔物を引きつけ、その間にショウが魔王を打つ。
作戦が上手くいっているのだろう。ショウ達が城に潜入してもそこに魔物の影はまったくなく、予想以上にスムーズに進むことが出来ている。
「早く魔王を見つけないと・・・いくらシャルロッテでも長くは持たないだろうからね」
焦ったようなショウの言葉に、カテリーナとタケルも頷いた。
ショウは最初、この作戦には反対だった。何故ならこの作戦ではパーティで一番幼い魔法使いのシャルロッテに最も負担がかかってしまう。
メンバーを二分するという事はそれだけリスクも高くなるのだ。
しかしシャルロッテ本人が自分にやらせて欲しいと申し出てきた。
その瞳は魔王カプリコーンの前で怯えていた少女のソレでは無く、世界を救うために命をかける戦士のモノであった。
走る
走る
彼女の決意を無駄にしないために。
しかし行けども行けども魔王どころか魔物の気配すら無く、焦りだけが加速してゆく。
(・・・何故だ? 何故こんなにも生き物の気配が無い? ・・・まさか、これは敵側の罠なのか・・・?)
頭に浮かんだ一つの疑問。
そして次の瞬間、踏み出したその先の床が消滅した。
落とし穴。
高速で走っていた三人に回避できる筈も無く。そのまま真下へ落ちてゆく。
どこまでも
どこまでも
やがて底が見えた時、ショウは空中でくるりと身を翻して両足で衝撃を殺しながら着地に成功する。
そして後から落ちてきたカテリーナを上手くキャッチすると優しく地面に下ろした。
「あ、ありがとうございます勇者様」
少し頬を紅く染めながら例を言うカテリーナに優しく微笑みかけると、ショウは周囲を見回した。
薄暗くてよく見えない。
なにやら広い空間ではあるようだが・・・。
「しかし落とし穴か・・・またベタな罠に引っかかっちまったね」
自力で着地に成功したタケルが周囲を見回しながら軽口を叩く。ショウがそれに答えようとしたその時、薄暗かった空間に一斉に明かりが点った。
壁にはめ込まれた燭台に一斉に灯された炎。
その光源に照らされるは数えることもばからしいほどの大量の魔物の姿。魔物達の奥には立派な玉座があり、そこに一際異彩を放つ魔族が座っていた。
「ようこそ勇者よ。妾がこの魔物たちの主。魔王ヴァルゴだ」
◇
シャルロッテが展開した上級魔法が城門を破壊する。その衝撃に驚いた魔物達がわらわらと城の外に集まってきた。
「”ヘル・ファイア”」
その魔物の群に向かって広範囲の炎魔法を放つシャルロッテ。
一網打尽。
集まった魔物達は地獄の業火に焼き尽くされた。
しかし城の内部から次から次へと新手の魔物が出てくる。その数はかつて相対した魔王カプリコーンの軍勢よりもさらに多く、質よりも量を体現しているかのようだった。
「シャルロッテ、まだいけるな?」
アンネの問いにシャルロッテは無言で頷いた。
残魔力は十分。上級魔法の連続使用は身体に大きな負担がかかるが、世界を救うための戦いで泣き言は言っていられないのだ。
「”ヘル・ファイア”」
再び放たれた地獄の業火。
しかしそれを回避してシャルロッテの元まで走り来る魔物が数体。
手にした刃をギラリと光らせ、魔法発動後の無防備なシャルロッテに襲い来るナーガを隣で待機していたアンネが剣の一振りで両断した。
「打ち漏らしは私が狩る! シャルロッテは安心して魔法に集中しろ!」
額に汗を浮かべながらシャルロッテはアンネに礼を言った。
ここから長丁場になる。
気を引き締め、前を見る。
作戦の成功は自分たちの働きにかかっているのだから。
◇
城門の方角から響く衝撃音に耳を澄ませ、タケルは頷いた。
「どうやら彼女たちが始めたみたいだ。オイラ達も手早く済ませるとしよう」
タケルの立てた作戦は至ってシンプルなものだった。
この城に巣くっている魔物達は鍛えられた軍隊では無い。ならばこそ見張りも無く、先の潜入も簡単にできたのだろう。
唯一やっかいなのがその数の多さだ。
いちいち相手をしていてはキリが無い。
そこでチームを二つに分断し、広範囲の攻撃が可能なシャルロッテが囮となって魔物を引きつけ、その間にショウが魔王を打つ。
作戦が上手くいっているのだろう。ショウ達が城に潜入してもそこに魔物の影はまったくなく、予想以上にスムーズに進むことが出来ている。
「早く魔王を見つけないと・・・いくらシャルロッテでも長くは持たないだろうからね」
焦ったようなショウの言葉に、カテリーナとタケルも頷いた。
ショウは最初、この作戦には反対だった。何故ならこの作戦ではパーティで一番幼い魔法使いのシャルロッテに最も負担がかかってしまう。
メンバーを二分するという事はそれだけリスクも高くなるのだ。
しかしシャルロッテ本人が自分にやらせて欲しいと申し出てきた。
その瞳は魔王カプリコーンの前で怯えていた少女のソレでは無く、世界を救うために命をかける戦士のモノであった。
走る
走る
彼女の決意を無駄にしないために。
しかし行けども行けども魔王どころか魔物の気配すら無く、焦りだけが加速してゆく。
(・・・何故だ? 何故こんなにも生き物の気配が無い? ・・・まさか、これは敵側の罠なのか・・・?)
頭に浮かんだ一つの疑問。
そして次の瞬間、踏み出したその先の床が消滅した。
落とし穴。
高速で走っていた三人に回避できる筈も無く。そのまま真下へ落ちてゆく。
どこまでも
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やがて底が見えた時、ショウは空中でくるりと身を翻して両足で衝撃を殺しながら着地に成功する。
そして後から落ちてきたカテリーナを上手くキャッチすると優しく地面に下ろした。
「あ、ありがとうございます勇者様」
少し頬を紅く染めながら例を言うカテリーナに優しく微笑みかけると、ショウは周囲を見回した。
薄暗くてよく見えない。
なにやら広い空間ではあるようだが・・・。
「しかし落とし穴か・・・またベタな罠に引っかかっちまったね」
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その光源に照らされるは数えることもばからしいほどの大量の魔物の姿。魔物達の奥には立派な玉座があり、そこに一際異彩を放つ魔族が座っていた。
「ようこそ勇者よ。妾がこの魔物たちの主。魔王ヴァルゴだ」
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