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戦術
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「うーン。どうもこの国は魔王城って感じじゃあないね。どっちかってえと魔物の巣みたいだねえ」
魔物の巣。
タケルの言ったその例えは同行したショウにとっても、一番しっくりくるものだった。
たとえば先日倒した魔王カプリコーン。その部下達はまさに訓練された兵士だった。城の周辺は24時間交代で見張りが立てられていたし、いざ戦闘になれば隊列を組んで事にあたるといった戦術も見せている。
ところがエーヌ王国を占領した魔物にそんな規律は見られない。
たくさんの魔物がいるが、それらは自由に動き回り、外敵からの攻撃に備えている様子も無かった。そう、タケルが例えたように大規模な魔物の巣と形容するのが一番しっくりくるのだ。
「今観測できた魔物はナーガにワイルドスネークかな。蛇系の魔物しかいないみたいだけど・・・」
ショウの言葉にタケルは頷く。
「そうだねえ。しかしこれが自然に発生した魔物の群だとは思わない。そもそもナーガは群をつくる習性はあるけど多くても数十体がせいぜいだからね。こんな数が集まっているところを見ると魔王の仕業・・・とまではまだ断言できないけど、何らかの目的のために集められたと考えたほうが自然だね」
そう言ってタケルは何やら考え込むように自らの顎先を撫でた。
「蛇・・・魔王か。・・・・・・そう、確か数千年前に蛇系の魔王がいたような・・・」
「・・・君は魔王についてくわしいのかいタケル」
ショウの問いに、タケルは考え込むのを止めて何かをごまかすようにヘラリと笑った。
「いんや、そんなに詳しい訳じゃないよ。たまたま魔王についての文献を読む機会があってね。そのときに蛇を操る魔王について読んだ気がしたんだけど思い出せないみたいだ」
「・・・そうなんだね。・・・そうか、わかった。今はそれで納得しておくよ」
怪しいところは多々あるが、敵を目の前に仲間割れをするのはよろしくない。色々と追求するのは事が済んでからでもいいだろう。
「それでタケル。どうするんだい? このまま城の深部まで進もうか?」
ショウの問いに、タケルは首を横に振った。
「その必要は無いね。今見た分だけで十分だ。いったん三人と合流して作戦を練ろうかい」
そして二人はそっと音を立てぬよう動き出す。城を出て城壁に向けてそろりそろり、特段警備兵が巡回しているわけでも無く、二人が見つかる確率はほぼ無いと思われたその時、ショウの右足に激しい衝撃が襲った。
遅れてくる痛みと吹き出す鮮血。
痛みに顔を歪めるショウの腕を隣にいたタケルが引っ張って物陰に隠れた。
「気配を感じなかったけど敵か? 勇者君、ちょっと傷見せて」
そう言ってタケルは冷静にショウの足を確認する。ショウの右太ももが何かに打ち抜かれたかのように穴が開いていた。
タケルは懐から回復のポーションを取り出すと傷口にそれをドバドバとかける。それからショウの袖を腰元の剣で裂いてから簡易的な包帯を作り、傷口に巻き付けた。
「ポーションもかけたしこれで動けるね? ちょいとやっかいな敵みたいだ、慎重に行こう」
タケルの言葉にショウは無言で頷く。
痛みは強いがタケルの適切な処置のおかげで戦闘に支障はなさそうだ。
そのとき、背後から背筋が凍るような殺気を感じたショウは咄嗟に横に転げた。先ほどまでショウが座っていた場所に、どこからか飛んできた青白い光の塊が着弾し、石造りの壁を貫通する。
「クソッ! どこから狙ってるんだ!?」
◇
「ちっ、外したか」
逃げ回る二人の得物を魔王の右目で見据え、速見は再び ”無銘” を構える。先ほどの一撃で速見がどこから狙撃しているかだいたいの位置は掴んだのだろう。二人は速見か死角になるように障害物を利用しながら距離を詰めてくる。
まあ
そもそも ”無銘” と魔王サジタリウスの右目の前ではその行動は意味をなさないのだけれど。
深呼吸をする。
一つ、二つ
酸素を肺に送り込み、呼吸のリズムを身体に染みこませる。
一つ、二つ・・・・・・。
得物が障害物の影で動きを止めた瞬間、稲妻の速さで速見は引き金を引いた。
放たれた光の弾は二人の隠れていた障害物を難なく貫通し、威力もスピードも落とさずに速見の狙った場所に寸分の狂いも無く打ち込まれる。
即ち、得物の心臓へと
◇
「タケル!?」
隣でしゃがんでいたタケルが糸の切れたマリオネットのように地に倒れた。ショウが慌てて駆け寄ると、彼の着ている白色の装束が紅く染まっている。
ショウは懐から回復のポーションを取り出すと服を切り裂き、傷口を露出してそこにポーション瓶の中身をぶちまけた。
素人目に見ても致命傷だ。ポーションをかけても血が止まる気配を見せない。息も荒く、顔は青白く血の気が引いている。
「・・・早くカテリーナに見せないと」
そう決断したショウはタケルを担ぎ上げ、立ち上がった。
敵がどうやってこの位置に隠れていたタケルを狙撃出来たのかは知らない。しかし事態は一刻を争うのだ。
ショウは駆けだした。
今持てる力を全て出し切ってジグザクに走る。
謎の敵に的を絞らせず、そして素早く帰還するための苦肉の策だ。
快調に進んでいたショウの帰還は、一発の光の銃弾が中断させる。
足下に打ち込まれたその弾を回避したショウは、キッと前方を睨み付ける。そこにはフード付きのゆったりとしたローブをつけた見知らぬ魔族がこちらにライフル銃の銃口を向けて佇んでいた。
「止まりな、勇者さんよ」
勇者と速見。
転移者同士の戦いが今始まる。
魔物の巣。
タケルの言ったその例えは同行したショウにとっても、一番しっくりくるものだった。
たとえば先日倒した魔王カプリコーン。その部下達はまさに訓練された兵士だった。城の周辺は24時間交代で見張りが立てられていたし、いざ戦闘になれば隊列を組んで事にあたるといった戦術も見せている。
ところがエーヌ王国を占領した魔物にそんな規律は見られない。
たくさんの魔物がいるが、それらは自由に動き回り、外敵からの攻撃に備えている様子も無かった。そう、タケルが例えたように大規模な魔物の巣と形容するのが一番しっくりくるのだ。
「今観測できた魔物はナーガにワイルドスネークかな。蛇系の魔物しかいないみたいだけど・・・」
ショウの言葉にタケルは頷く。
「そうだねえ。しかしこれが自然に発生した魔物の群だとは思わない。そもそもナーガは群をつくる習性はあるけど多くても数十体がせいぜいだからね。こんな数が集まっているところを見ると魔王の仕業・・・とまではまだ断言できないけど、何らかの目的のために集められたと考えたほうが自然だね」
そう言ってタケルは何やら考え込むように自らの顎先を撫でた。
「蛇・・・魔王か。・・・・・・そう、確か数千年前に蛇系の魔王がいたような・・・」
「・・・君は魔王についてくわしいのかいタケル」
ショウの問いに、タケルは考え込むのを止めて何かをごまかすようにヘラリと笑った。
「いんや、そんなに詳しい訳じゃないよ。たまたま魔王についての文献を読む機会があってね。そのときに蛇を操る魔王について読んだ気がしたんだけど思い出せないみたいだ」
「・・・そうなんだね。・・・そうか、わかった。今はそれで納得しておくよ」
怪しいところは多々あるが、敵を目の前に仲間割れをするのはよろしくない。色々と追求するのは事が済んでからでもいいだろう。
「それでタケル。どうするんだい? このまま城の深部まで進もうか?」
ショウの問いに、タケルは首を横に振った。
「その必要は無いね。今見た分だけで十分だ。いったん三人と合流して作戦を練ろうかい」
そして二人はそっと音を立てぬよう動き出す。城を出て城壁に向けてそろりそろり、特段警備兵が巡回しているわけでも無く、二人が見つかる確率はほぼ無いと思われたその時、ショウの右足に激しい衝撃が襲った。
遅れてくる痛みと吹き出す鮮血。
痛みに顔を歪めるショウの腕を隣にいたタケルが引っ張って物陰に隠れた。
「気配を感じなかったけど敵か? 勇者君、ちょっと傷見せて」
そう言ってタケルは冷静にショウの足を確認する。ショウの右太ももが何かに打ち抜かれたかのように穴が開いていた。
タケルは懐から回復のポーションを取り出すと傷口にそれをドバドバとかける。それからショウの袖を腰元の剣で裂いてから簡易的な包帯を作り、傷口に巻き付けた。
「ポーションもかけたしこれで動けるね? ちょいとやっかいな敵みたいだ、慎重に行こう」
タケルの言葉にショウは無言で頷く。
痛みは強いがタケルの適切な処置のおかげで戦闘に支障はなさそうだ。
そのとき、背後から背筋が凍るような殺気を感じたショウは咄嗟に横に転げた。先ほどまでショウが座っていた場所に、どこからか飛んできた青白い光の塊が着弾し、石造りの壁を貫通する。
「クソッ! どこから狙ってるんだ!?」
◇
「ちっ、外したか」
逃げ回る二人の得物を魔王の右目で見据え、速見は再び ”無銘” を構える。先ほどの一撃で速見がどこから狙撃しているかだいたいの位置は掴んだのだろう。二人は速見か死角になるように障害物を利用しながら距離を詰めてくる。
まあ
そもそも ”無銘” と魔王サジタリウスの右目の前ではその行動は意味をなさないのだけれど。
深呼吸をする。
一つ、二つ
酸素を肺に送り込み、呼吸のリズムを身体に染みこませる。
一つ、二つ・・・・・・。
得物が障害物の影で動きを止めた瞬間、稲妻の速さで速見は引き金を引いた。
放たれた光の弾は二人の隠れていた障害物を難なく貫通し、威力もスピードも落とさずに速見の狙った場所に寸分の狂いも無く打ち込まれる。
即ち、得物の心臓へと
◇
「タケル!?」
隣でしゃがんでいたタケルが糸の切れたマリオネットのように地に倒れた。ショウが慌てて駆け寄ると、彼の着ている白色の装束が紅く染まっている。
ショウは懐から回復のポーションを取り出すと服を切り裂き、傷口を露出してそこにポーション瓶の中身をぶちまけた。
素人目に見ても致命傷だ。ポーションをかけても血が止まる気配を見せない。息も荒く、顔は青白く血の気が引いている。
「・・・早くカテリーナに見せないと」
そう決断したショウはタケルを担ぎ上げ、立ち上がった。
敵がどうやってこの位置に隠れていたタケルを狙撃出来たのかは知らない。しかし事態は一刻を争うのだ。
ショウは駆けだした。
今持てる力を全て出し切ってジグザクに走る。
謎の敵に的を絞らせず、そして素早く帰還するための苦肉の策だ。
快調に進んでいたショウの帰還は、一発の光の銃弾が中断させる。
足下に打ち込まれたその弾を回避したショウは、キッと前方を睨み付ける。そこにはフード付きのゆったりとしたローブをつけた見知らぬ魔族がこちらにライフル銃の銃口を向けて佇んでいた。
「止まりな、勇者さんよ」
勇者と速見。
転移者同士の戦いが今始まる。
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