45 / 83
錬金術師
しおりを挟む
錬金術師カルロス・アルキミアは一人辺境の山を探索していた。
頭の禿げかけた中年の小男。一目見ただけではどこにでもいそうなパッとしない容姿だが、彼はかつて魔術学院で教鞭をとっていた事もある凄腕の錬金術師だ。
カルロスの野望はまだ誰も知らぬ未知なる分野で成功を収め、歴史に名を刻むこと。そのために長年勤めていた魔術学院を止め、一人で世界各地を旅している。
(しかし遠くまで来たものだ。・・・ここに私の求めているものがあるといいのだが)
カルロスの目的は錬金術での大成では無い。
そもそも錬金術師の家系に生を受けたから、なし崩し的に錬金術を学んできただけで、特段この分野に何の愛着も無いのだ。
彼の探すものは、何でもいいから自分が歴史に名を残せる新たなる発見。
そうやって各地に足を運び、やってきたのが此処。極東の島国、ヤマト国と呼ばれる辺境の地だ。
ここにたどり着いてからカルロスがまず行ったのは、現地人への聞き取り調査。
ヤマト国の生活、慣習、歴史、伝説。一見彼の目的には何の関係も無いそれらの情報は、時として思いも寄らない発見につながることがあることをカルロスは知っている。
そして得たのがこの地域の固有種 ”鬼” と呼ばれる亜人の存在。
どうやら少しタイミングが悪かったようで、この国で最後に残った鬼達は先日ドロア帝国の軍によって討伐されたようだが、まだ住処だった山に新たな発見が残っているかもしれない。
そう考えたカルロスはこうして山登りをしているのだ。
(しかしこの気温はどうにかならないものか。暑すぎてどうにもたまらん)
もともとカルロスはインドア派なため、体力に自信が無い。それにこの国は湿度が高く、ムシムシとした熱さが彼を悩ませている。
衣服は汗でべったりと張り付き、額から絶え間なく流れる汗は定期的に拭わないと視界を阻害するほどだ。
しばらくして何やら開けた場所に出た。
否、開けたというか元々密集していた木々を、強大な力を持った何者かがなぎ倒して出来た空間といった方が正しいだろう。
そこにあったのは乾いた血の跡と折れた木々、踏み荒らされた雑草。戦闘の爪痕だった。
人間の死体などは見当たらない事から、もしかしたらドロア帝国の軍団が帰国する前に回収していったのかもしれない。それとも野性の獣に食われたと考える方が妥当か。
カルロスはじっくりとその場を検分する。
半ばからぽっきりと折れた巨木には人とも獣とも見える足跡がくっきりと残っていた。この足跡の持ち主が ”鬼” なのだろうか?
「・・・鬼の死体はドロア帝国が持ち帰ったのだろうか?」
それならばいっそこれからドロア帝国に渡るのもいいかもしれない。魔術学院に勤めていた時につくったコネクションで、ドロア帝国の上部とコンタクトを計る事は出来る。
こんな辺境でこそこそ調べ物をするよりは有意義な時間が過ごせそうだ。
そう決断したカルロスは山を下りようと振り返り、そこであるものを発見した。
木々の隙間から差し込んだ陽光を反射した金属の輝き。彼はそこに近づき、落ちていたソレを拾い上げる。
ソレは見たことも無いものだった。
細長い金属の筒。その物体の一部は緩やかに湾曲しており平たくつぶれていた。
「・・・なんだこれは?」
山で拾った謎の物体を持ち帰ったカルロスは、宿屋の一室で引きこもってその物体の解析を行った。
カルロスの持つ豊富な知識や錬金術による解析、そして長い時間をかけてたどり着いた答えに彼は興奮で顔を紅くする。
「なんという!! 素晴らしいぞこの道具は!」
それは武器だった。
今まで見たことの無いその武器は、鉄の塊を飛ばして遠くにいる対象を破壊するというもの。
人間に対する殺傷力は高いがそれでも魔法に比べるとどうしても威力は落ちる。対魔物用に使うことはないのだろう。
しかしこの武器の真骨頂はその威力では無い。
取り扱いの簡単さだ。
剣も魔法も、それを取り扱うためには相応の修練がいる。優れた兵を育てるのには時間と金がかかるのだ。
その点、この武器にはそんな面倒な時間は必要ない。
たとえば昨日までクワを握っていた百姓が今日この武器を持ったらすぐにでも人を殺せるだろう。
誰が使っても、平等に人を殺すことができる。
即ち・・・・・・
「コレを量産できたなら・・・戦争の意味がまるで変わってくる。私の名は確実に歴史に刻まれる!」
カルロスの高笑いが夜の闇に響く。
それは血と動乱の歴史の始まりを告げる鐘の音のようだった。
◇
頭の禿げかけた中年の小男。一目見ただけではどこにでもいそうなパッとしない容姿だが、彼はかつて魔術学院で教鞭をとっていた事もある凄腕の錬金術師だ。
カルロスの野望はまだ誰も知らぬ未知なる分野で成功を収め、歴史に名を刻むこと。そのために長年勤めていた魔術学院を止め、一人で世界各地を旅している。
(しかし遠くまで来たものだ。・・・ここに私の求めているものがあるといいのだが)
カルロスの目的は錬金術での大成では無い。
そもそも錬金術師の家系に生を受けたから、なし崩し的に錬金術を学んできただけで、特段この分野に何の愛着も無いのだ。
彼の探すものは、何でもいいから自分が歴史に名を残せる新たなる発見。
そうやって各地に足を運び、やってきたのが此処。極東の島国、ヤマト国と呼ばれる辺境の地だ。
ここにたどり着いてからカルロスがまず行ったのは、現地人への聞き取り調査。
ヤマト国の生活、慣習、歴史、伝説。一見彼の目的には何の関係も無いそれらの情報は、時として思いも寄らない発見につながることがあることをカルロスは知っている。
そして得たのがこの地域の固有種 ”鬼” と呼ばれる亜人の存在。
どうやら少しタイミングが悪かったようで、この国で最後に残った鬼達は先日ドロア帝国の軍によって討伐されたようだが、まだ住処だった山に新たな発見が残っているかもしれない。
そう考えたカルロスはこうして山登りをしているのだ。
(しかしこの気温はどうにかならないものか。暑すぎてどうにもたまらん)
もともとカルロスはインドア派なため、体力に自信が無い。それにこの国は湿度が高く、ムシムシとした熱さが彼を悩ませている。
衣服は汗でべったりと張り付き、額から絶え間なく流れる汗は定期的に拭わないと視界を阻害するほどだ。
しばらくして何やら開けた場所に出た。
否、開けたというか元々密集していた木々を、強大な力を持った何者かがなぎ倒して出来た空間といった方が正しいだろう。
そこにあったのは乾いた血の跡と折れた木々、踏み荒らされた雑草。戦闘の爪痕だった。
人間の死体などは見当たらない事から、もしかしたらドロア帝国の軍団が帰国する前に回収していったのかもしれない。それとも野性の獣に食われたと考える方が妥当か。
カルロスはじっくりとその場を検分する。
半ばからぽっきりと折れた巨木には人とも獣とも見える足跡がくっきりと残っていた。この足跡の持ち主が ”鬼” なのだろうか?
「・・・鬼の死体はドロア帝国が持ち帰ったのだろうか?」
それならばいっそこれからドロア帝国に渡るのもいいかもしれない。魔術学院に勤めていた時につくったコネクションで、ドロア帝国の上部とコンタクトを計る事は出来る。
こんな辺境でこそこそ調べ物をするよりは有意義な時間が過ごせそうだ。
そう決断したカルロスは山を下りようと振り返り、そこであるものを発見した。
木々の隙間から差し込んだ陽光を反射した金属の輝き。彼はそこに近づき、落ちていたソレを拾い上げる。
ソレは見たことも無いものだった。
細長い金属の筒。その物体の一部は緩やかに湾曲しており平たくつぶれていた。
「・・・なんだこれは?」
山で拾った謎の物体を持ち帰ったカルロスは、宿屋の一室で引きこもってその物体の解析を行った。
カルロスの持つ豊富な知識や錬金術による解析、そして長い時間をかけてたどり着いた答えに彼は興奮で顔を紅くする。
「なんという!! 素晴らしいぞこの道具は!」
それは武器だった。
今まで見たことの無いその武器は、鉄の塊を飛ばして遠くにいる対象を破壊するというもの。
人間に対する殺傷力は高いがそれでも魔法に比べるとどうしても威力は落ちる。対魔物用に使うことはないのだろう。
しかしこの武器の真骨頂はその威力では無い。
取り扱いの簡単さだ。
剣も魔法も、それを取り扱うためには相応の修練がいる。優れた兵を育てるのには時間と金がかかるのだ。
その点、この武器にはそんな面倒な時間は必要ない。
たとえば昨日までクワを握っていた百姓が今日この武器を持ったらすぐにでも人を殺せるだろう。
誰が使っても、平等に人を殺すことができる。
即ち・・・・・・
「コレを量産できたなら・・・戦争の意味がまるで変わってくる。私の名は確実に歴史に刻まれる!」
カルロスの高笑いが夜の闇に響く。
それは血と動乱の歴史の始まりを告げる鐘の音のようだった。
◇
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった
ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。
しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。
リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。
現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる