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包囲
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「陛下! 国の周囲が魔物に包囲されています!」
エーヌ王国国王は、臣下の報告に息を飲んだ。
その表情は険しく、ついに来るべき時が来たかと唇を噛みしめる。必死に平静を保ちながら状況確認を行った。
「敵の規模は?」
「・・・恐らく我が軍の倍はいるかと。少し確認しただけですがナーガやワイルドスネークなど蛇系の魔物が主な戦力の用です」
相手の戦力はおよそ倍。
エーヌ王国はもともと軍力に優れた国家では無く、倍の戦力を覆せるような力は持っていない。
状況を変える事ができるであろう国一番の腕利きは召還した勇者と供に旅に出ている。
つまりは詰みの状況。
しかし国王である彼が簡単に諦める訳にはいかなかった。
「他国に救援を求める事は可能か?」
「はっ! 今宮廷魔法使い殿に周辺国家へ救援要請のメッセージを飛ばして貰っております。・・・ですが一番近い国からの救援でも早くても3日はかかるかと」
3日。
しかし逆に考えれば3日耐え抜けば逆転の可能性があると言うこと。
「防衛に徹するぞ! 無駄に攻める事はするな。何としてでも3日、この戦線を維持するのだ」
「・・・さて、準備は成った。では蹂躙を始めようか」
かすれたハスキーな声でそう呟いたのは目つきの鋭いゴルゴンの雌。王国を一望できる高台で自身の兵達を見下ろした。
新たなる魔王ヴァルゴ。
人間の上半身に蛇の下半身を持ち、その髪の毛は一本一本が細長い蛇である。手には先が三つ叉に別れた独特な槍を持ち、威厳たっぷりに部下達に命令を下す。
「行け! 妾の兵達よ! 人間の国家を蹂躙せよ!」
その合図と供にエーヌ王国を取り囲んでいた魔物が一斉に進軍を開始した。
ナーガ、ワイルドスネーク、そして危険度Aランクのバジリスクまで存在する。この大軍をしのぐ事は困難だろう。
「せっかくこうして手伝いに来てくれたのに何だが、今回は貴殿の出番は無いだろうよ速見殿」
そう言った魔王ヴァルゴの言葉に、側で王国の様子を見ていた速見は機嫌が悪そうに「そうかい」と呟くと懐からタバコを取り出した。
口にくわえたタバコに火をつけながら、こんな戦場に出張る羽目になった今朝の出来事をぼんやりと思い出す。
◇
「おい下僕」
気持ちのいい朝だった。あくび混じりに部屋の掃き掃除をしていた速見はクレアに呼び止められる。
「おはようさん。何か用かい?」
嫌な予感がする。
だいたいこの魔神がこんなニヤニヤ顔で速見を呼ぶ時は何か良からぬ事を企んでいる時なのだ。
「お前さ、前に蘇らせた魔王ヴァルゴって覚えてる?」
それならもちろん覚えている。
何せ速見がクレアの死霊術の行使に立ち会ったのは、アレが初めてだったのだから。
「・・・ああ、ゴルゴンの魔王だろ? 彼女がどうかしたのか?」
「アイツさ、自分の城が欲しいみたいで適当な国ぶっ潰してそこ自分の拠点にしたいみたいなんだよね。それで明日人間の国に攻め込むみたいなんだけど」
クレアの言葉を聞いて速見は少し顔を曇らせる。
もはや人間を止めた身とはいえ、そういう話はあまり気分が良くないのだ。
「そこで思いついちゃったんだけどさ。お前しばらくヴァルゴの手伝いしてやんな。せっかく蘇らせた魔王がすぐやられちゃったら癪だしね、ヴァルゴが自分の拠点を整えるまでアイツの警護をして欲しいんだ」
前回の魔王カプリコーンの死がよほど面倒だったのだろう。彼女は新魔王の警護を速見に頼んだのだ。
「・・・どうせ俺に拒否権は無いんだろ?」
速見の言葉に、クレアはニヤリと唇を歪める。
「もちろんさ」
◇
「・・・どうやら敵さんは籠城決め込むみたいだな」
高台から見下ろすとよく分かる。
門を硬く閉め、上から矢を放っている。攻める気は無く、時間を稼いでいるという事が丸わかりだった。
立てこもる事を決め込んだこの国を攻め落とすのは時間がかかりそうだ。
「どうする? アンタらにこの状況を打破できるかい?」
そう問いながら速見は背負っていた”無銘”を取り出した。もし魔王ヴァルゴが助太刀をお願いするのなら魔神の下僕として答えねばならないからだ。
「ふふっ、案ずるな速見殿。妾が兵は人間のように貧弱ではない」
そう言って魔王ヴァルゴは地に右手を当てて何かの詠唱を始めた。
足下に出現する光る魔方陣が4つ。そこから召還されたのは速見のよく知る魔物だった。
「・・・ナーガラージャ? しかも4体同時召還か」
かつて速見を苦しめたナーガラージャが4体。魔王ヴァルゴの前に跪いている。
「我が配下よ、やっかいな城門を破壊しろ!」
エーヌ王国国王は、臣下の報告に息を飲んだ。
その表情は険しく、ついに来るべき時が来たかと唇を噛みしめる。必死に平静を保ちながら状況確認を行った。
「敵の規模は?」
「・・・恐らく我が軍の倍はいるかと。少し確認しただけですがナーガやワイルドスネークなど蛇系の魔物が主な戦力の用です」
相手の戦力はおよそ倍。
エーヌ王国はもともと軍力に優れた国家では無く、倍の戦力を覆せるような力は持っていない。
状況を変える事ができるであろう国一番の腕利きは召還した勇者と供に旅に出ている。
つまりは詰みの状況。
しかし国王である彼が簡単に諦める訳にはいかなかった。
「他国に救援を求める事は可能か?」
「はっ! 今宮廷魔法使い殿に周辺国家へ救援要請のメッセージを飛ばして貰っております。・・・ですが一番近い国からの救援でも早くても3日はかかるかと」
3日。
しかし逆に考えれば3日耐え抜けば逆転の可能性があると言うこと。
「防衛に徹するぞ! 無駄に攻める事はするな。何としてでも3日、この戦線を維持するのだ」
「・・・さて、準備は成った。では蹂躙を始めようか」
かすれたハスキーな声でそう呟いたのは目つきの鋭いゴルゴンの雌。王国を一望できる高台で自身の兵達を見下ろした。
新たなる魔王ヴァルゴ。
人間の上半身に蛇の下半身を持ち、その髪の毛は一本一本が細長い蛇である。手には先が三つ叉に別れた独特な槍を持ち、威厳たっぷりに部下達に命令を下す。
「行け! 妾の兵達よ! 人間の国家を蹂躙せよ!」
その合図と供にエーヌ王国を取り囲んでいた魔物が一斉に進軍を開始した。
ナーガ、ワイルドスネーク、そして危険度Aランクのバジリスクまで存在する。この大軍をしのぐ事は困難だろう。
「せっかくこうして手伝いに来てくれたのに何だが、今回は貴殿の出番は無いだろうよ速見殿」
そう言った魔王ヴァルゴの言葉に、側で王国の様子を見ていた速見は機嫌が悪そうに「そうかい」と呟くと懐からタバコを取り出した。
口にくわえたタバコに火をつけながら、こんな戦場に出張る羽目になった今朝の出来事をぼんやりと思い出す。
◇
「おい下僕」
気持ちのいい朝だった。あくび混じりに部屋の掃き掃除をしていた速見はクレアに呼び止められる。
「おはようさん。何か用かい?」
嫌な予感がする。
だいたいこの魔神がこんなニヤニヤ顔で速見を呼ぶ時は何か良からぬ事を企んでいる時なのだ。
「お前さ、前に蘇らせた魔王ヴァルゴって覚えてる?」
それならもちろん覚えている。
何せ速見がクレアの死霊術の行使に立ち会ったのは、アレが初めてだったのだから。
「・・・ああ、ゴルゴンの魔王だろ? 彼女がどうかしたのか?」
「アイツさ、自分の城が欲しいみたいで適当な国ぶっ潰してそこ自分の拠点にしたいみたいなんだよね。それで明日人間の国に攻め込むみたいなんだけど」
クレアの言葉を聞いて速見は少し顔を曇らせる。
もはや人間を止めた身とはいえ、そういう話はあまり気分が良くないのだ。
「そこで思いついちゃったんだけどさ。お前しばらくヴァルゴの手伝いしてやんな。せっかく蘇らせた魔王がすぐやられちゃったら癪だしね、ヴァルゴが自分の拠点を整えるまでアイツの警護をして欲しいんだ」
前回の魔王カプリコーンの死がよほど面倒だったのだろう。彼女は新魔王の警護を速見に頼んだのだ。
「・・・どうせ俺に拒否権は無いんだろ?」
速見の言葉に、クレアはニヤリと唇を歪める。
「もちろんさ」
◇
「・・・どうやら敵さんは籠城決め込むみたいだな」
高台から見下ろすとよく分かる。
門を硬く閉め、上から矢を放っている。攻める気は無く、時間を稼いでいるという事が丸わかりだった。
立てこもる事を決め込んだこの国を攻め落とすのは時間がかかりそうだ。
「どうする? アンタらにこの状況を打破できるかい?」
そう問いながら速見は背負っていた”無銘”を取り出した。もし魔王ヴァルゴが助太刀をお願いするのなら魔神の下僕として答えねばならないからだ。
「ふふっ、案ずるな速見殿。妾が兵は人間のように貧弱ではない」
そう言って魔王ヴァルゴは地に右手を当てて何かの詠唱を始めた。
足下に出現する光る魔方陣が4つ。そこから召還されたのは速見のよく知る魔物だった。
「・・・ナーガラージャ? しかも4体同時召還か」
かつて速見を苦しめたナーガラージャが4体。魔王ヴァルゴの前に跪いている。
「我が配下よ、やっかいな城門を破壊しろ!」
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