35 / 83
私はもう逃げない
しおりを挟む
「っ!! まだまだぁ!!」
ショウはボロボロになった身体に鞭打ってカプリコーンの正面から斬りかかり、その注意を引きつける。
その隙に背後から距離を詰めたフリードリヒが、ランスの一撃を魔王の背中にたたき込んだ。
完全なる死角からの攻撃。しかし魔王カプリコーンは正面の攻撃を軽く大鉈で払うと、まるで背後に眼があるかのように見もせずにランスの突き先端を左手でつかみ、攻撃を阻止した。
無造作に掴まれたランスは、フリードリヒが全力で押しても引いてもピクリとも動かない。カプリコーンはランスを、それを握っているフリードリヒごと持ち上げて壁に叩きつけた。
そんな戦いを横目で確認しながらカテリーナは、大玉の汗を流してアンネの治療にかかる。
連続した奇跡の行使。
カテリーナの体力は既に限界だった。
しかし止めるわけにはいかない。仲間が戦っているのだ。そして、この戦いには世界の命運がかかっているのだから。
「・・・ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
カテリーナの隣には膝を抱えたシャルロッテが小さな声で謝罪を繰り返している。とても哀れだった。抱きしめて慰めてやりたかったが、今のカテリーナにそんな余裕は無い。
「っはい! 治療終わりましたよアンネさん!」
アンネは小さく礼を言うと、痛みに顔をしかめながら立ち上がった。
無理も無い。
今カテリーナが行ったのは最低限の応急処置にすぎないのだから。
それでも傷はふさがり、手も足も動く。歴戦の戦士であるアンネ・アムレットが戦いに復帰しない理由は無かった。
「せりゃぁあ!!」
果敢に魔王へ向かうアンネの後ろ姿を見送りながらカテリーナは乱れる息を整える。無茶な奇跡の使い方をしているせいで先ほどから頭痛が収まらない。
でもまだやることがある・・・
「・・・大丈夫ですよシャルロッテさん」
膝を抱えるシャルロッテを、カテリーナは優しく抱きしめた。
「カテ、リーナ・・・さん?」
「・・・はい。私はここに居ますよシャルロッテさん」
そう言ってカテリーナは、まるで母親が子供にそうするように愛を込めてシャルロッテの頭を撫でた。
その慈愛に満ちた姿は、今更ながら彼女が聖女と呼ばれる存在であった事を思い出させる。
「・・・カテリーナさん・・・私、怖くて・・・動けなくて・・・」
自分で言っていて情けなくなり、シャルロッテは再び眼に涙がたまるのがわかった。
「いいんですよ怖くて」
しかしカテリーナの声は優しかった。
「怖くていいんです。だって敵は魔王で、そしてアナタはまだ子供なんですから。戦士じゃ無くて当たり前なんです。覚悟が出来て無くても当然なんですよ?」
カテリーナは優しく、どこまでも慈愛に満ちた顔で語る。
「私はね、正直アナタがこのパーティに入る事に反対でした。だって、アナタにはまだ早いと感じたから。勇者様もアンネさんも・・・そして私も。私たちは皆世界を救う為に戦う覚悟を持っています。けれどアナタは違う・・・そうでしょ? アナタの力は強い、だけどそれだけじゃ世界を救えないの・・・ううん、力があるだけで世界を救うべきでは無いのよ」
カテリーナの言葉を聞いて、シャルロッテはそっと視線を上げた。
目の前では強大な力を持つ魔王に立ち向かう勇者達の姿。倒れても倒れても立ち上がるその姿に、諦める様子は見えない。
「戦わなくてもいい。怖がってもいい。でもここで見ていて、私たちは確かに、世界を守るために戦っているんだって事を」
その時、負傷したフリードリヒがこちらにやってきた。
手が折れているのかあらぬ方向に曲がっている。
「すまない聖女殿、治療を頼みたい!!」
他の二人はまだ戦っている。自分も早く戦線に戻らなくてはと、その顔には焦りの色が見えた。
「はいただいま。・・・シャルロッテさん、私はいきますね」
そう微笑んでカテリーナはシャルロッテを抱きしめていた手をそっと離す。暖かな手が身体から離れ空気が少し冷たく感じられた。
シャルロッテはそっと治療を始めるカテリーナの横顔を伺う。
額に汗を流しながら必死に治療の奇跡を行うその姿は、世界を救う英雄そのものだった。
否、彼女だけでは無い。
女騎士アンネ
アヴァール王国将軍フリードリヒ
そして勇者ショウ
みんな世界のために、魔王という自分たちより強大な敵に臆すること無く立ち向かっている・・・。
「・・・格好悪いな・・・私」
戦いもせず、ただ部屋の隅で震えるだけ。
シャルロッテに世界を救う覚悟なんて無い。ただ少し英雄にあこがれただけのどこにでもいる小娘に過ぎないのだから。
だが思い出す。
英雄になりたいとはにかみながら語った幼なじみの姿を。それを微笑ましげに見つめるくたびれた中年男の姿を。
(世界なんて救えない・・・だけど・・・・・・)
二人に格好悪いとこは見せたくない
ぎゅっと唇を噛みしめて立ち上がる。
いつの間にか震えは止まっていた。愛用の木の杖を握りしめ、シャルロッテは魔王カプリコーンへ歩みを進めた。
「・・・ほう、なかなか良い面構えになったな小娘」
ショウとアンネの攻撃を捌きながら、魔王カプリコーンは余裕の表情でシャルロッテを見据える。
「私は・・・もう逃げない!!」
ショウはボロボロになった身体に鞭打ってカプリコーンの正面から斬りかかり、その注意を引きつける。
その隙に背後から距離を詰めたフリードリヒが、ランスの一撃を魔王の背中にたたき込んだ。
完全なる死角からの攻撃。しかし魔王カプリコーンは正面の攻撃を軽く大鉈で払うと、まるで背後に眼があるかのように見もせずにランスの突き先端を左手でつかみ、攻撃を阻止した。
無造作に掴まれたランスは、フリードリヒが全力で押しても引いてもピクリとも動かない。カプリコーンはランスを、それを握っているフリードリヒごと持ち上げて壁に叩きつけた。
そんな戦いを横目で確認しながらカテリーナは、大玉の汗を流してアンネの治療にかかる。
連続した奇跡の行使。
カテリーナの体力は既に限界だった。
しかし止めるわけにはいかない。仲間が戦っているのだ。そして、この戦いには世界の命運がかかっているのだから。
「・・・ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
カテリーナの隣には膝を抱えたシャルロッテが小さな声で謝罪を繰り返している。とても哀れだった。抱きしめて慰めてやりたかったが、今のカテリーナにそんな余裕は無い。
「っはい! 治療終わりましたよアンネさん!」
アンネは小さく礼を言うと、痛みに顔をしかめながら立ち上がった。
無理も無い。
今カテリーナが行ったのは最低限の応急処置にすぎないのだから。
それでも傷はふさがり、手も足も動く。歴戦の戦士であるアンネ・アムレットが戦いに復帰しない理由は無かった。
「せりゃぁあ!!」
果敢に魔王へ向かうアンネの後ろ姿を見送りながらカテリーナは乱れる息を整える。無茶な奇跡の使い方をしているせいで先ほどから頭痛が収まらない。
でもまだやることがある・・・
「・・・大丈夫ですよシャルロッテさん」
膝を抱えるシャルロッテを、カテリーナは優しく抱きしめた。
「カテ、リーナ・・・さん?」
「・・・はい。私はここに居ますよシャルロッテさん」
そう言ってカテリーナは、まるで母親が子供にそうするように愛を込めてシャルロッテの頭を撫でた。
その慈愛に満ちた姿は、今更ながら彼女が聖女と呼ばれる存在であった事を思い出させる。
「・・・カテリーナさん・・・私、怖くて・・・動けなくて・・・」
自分で言っていて情けなくなり、シャルロッテは再び眼に涙がたまるのがわかった。
「いいんですよ怖くて」
しかしカテリーナの声は優しかった。
「怖くていいんです。だって敵は魔王で、そしてアナタはまだ子供なんですから。戦士じゃ無くて当たり前なんです。覚悟が出来て無くても当然なんですよ?」
カテリーナは優しく、どこまでも慈愛に満ちた顔で語る。
「私はね、正直アナタがこのパーティに入る事に反対でした。だって、アナタにはまだ早いと感じたから。勇者様もアンネさんも・・・そして私も。私たちは皆世界を救う為に戦う覚悟を持っています。けれどアナタは違う・・・そうでしょ? アナタの力は強い、だけどそれだけじゃ世界を救えないの・・・ううん、力があるだけで世界を救うべきでは無いのよ」
カテリーナの言葉を聞いて、シャルロッテはそっと視線を上げた。
目の前では強大な力を持つ魔王に立ち向かう勇者達の姿。倒れても倒れても立ち上がるその姿に、諦める様子は見えない。
「戦わなくてもいい。怖がってもいい。でもここで見ていて、私たちは確かに、世界を守るために戦っているんだって事を」
その時、負傷したフリードリヒがこちらにやってきた。
手が折れているのかあらぬ方向に曲がっている。
「すまない聖女殿、治療を頼みたい!!」
他の二人はまだ戦っている。自分も早く戦線に戻らなくてはと、その顔には焦りの色が見えた。
「はいただいま。・・・シャルロッテさん、私はいきますね」
そう微笑んでカテリーナはシャルロッテを抱きしめていた手をそっと離す。暖かな手が身体から離れ空気が少し冷たく感じられた。
シャルロッテはそっと治療を始めるカテリーナの横顔を伺う。
額に汗を流しながら必死に治療の奇跡を行うその姿は、世界を救う英雄そのものだった。
否、彼女だけでは無い。
女騎士アンネ
アヴァール王国将軍フリードリヒ
そして勇者ショウ
みんな世界のために、魔王という自分たちより強大な敵に臆すること無く立ち向かっている・・・。
「・・・格好悪いな・・・私」
戦いもせず、ただ部屋の隅で震えるだけ。
シャルロッテに世界を救う覚悟なんて無い。ただ少し英雄にあこがれただけのどこにでもいる小娘に過ぎないのだから。
だが思い出す。
英雄になりたいとはにかみながら語った幼なじみの姿を。それを微笑ましげに見つめるくたびれた中年男の姿を。
(世界なんて救えない・・・だけど・・・・・・)
二人に格好悪いとこは見せたくない
ぎゅっと唇を噛みしめて立ち上がる。
いつの間にか震えは止まっていた。愛用の木の杖を握りしめ、シャルロッテは魔王カプリコーンへ歩みを進めた。
「・・・ほう、なかなか良い面構えになったな小娘」
ショウとアンネの攻撃を捌きながら、魔王カプリコーンは余裕の表情でシャルロッテを見据える。
「私は・・・もう逃げない!!」
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった
ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。
しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。
リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。
現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる