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あの日見た夢
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「おおよく来てくれたショウ・カンザキ殿!」
アヴァール王国に来た勇者一行を迎え入れてくれたのは、秘書官を名乗るちょび髭の中年男だった。
秘書官の男は勇者一行を迎え入れると王宮の応客間へ案内。この国のすぐ近くに居城を構えた魔王カプリコーンについての情報と、この国の現状について語り出す。
「・・・なるほど、お話はわかりました。俺たちの準備は出来ています明日にでもその魔王城に案内して頂けますか?」
ショウの言葉に秘書官は頷く。
「かしこまりました。では本日は皆さんを王宮の客室へご案内します。何か入り用のモノがあれば遠慮無く申しつけ下さい」
決戦は明日。
一同はそれぞれの思いを胸に秘め、今日という一日を終えるのであった。
「凄い・・・大きくて、ふわふわ」
シャルロッテはメイドに案内された部屋の豪華なベッドに横たわって、その感触に驚いた。
かつてマルクや速見とパーティを組んでいた時に泊まった宿はどれも安く、それどころかシングルの部屋を一つしか取れなくて、たった一つのごわごわしたベッドにシャルロッテが寝て男二人は床でいびきを掻いていた事もある。
あの時は一人ベッドを使う事を申しわけなく思ったモノだが、二人はがんとして彼女がベッドを使うべきだと言い張った。
懐かしい思い出。
もう戻らない
三人での旅の記憶・・・・・・。
「・・・あれ? 変だな」
気がつくとシャルロッテの頬は暖かな水で濡れていた。
あふれ出る涙はとめどなく、次から次へと湧き出してくる。
「・・・私、何やってるんだろ」
彼女の願いはSランクの冒険者・・・英雄とよばれる大人物になること。つまり現状の彼女はある意味その願いを叶えているとすら言える。
でも違うのだ。
少なくともあの日描いた未来図で、シャルロッテは一人で泣くなんて事を考えていなかった
何かが違う・・・。
かつて彼女が願った未来と今の自分・・・。
「・・・ああ、そうか」
理解した・・・ようやくわかったのだ。
彼女が描いた未来図で、英雄になった彼女の隣には必ず背中を預けたマルクが居て・・・そして速見が優しい瞳で「おめでとう、よくやったな」と二人を褒めてくれていた。
「・・・そっか・・・そうだったんだ」
つまり自分はあの日から・・・速見を切り捨てたあの日から自らの手で自分の夢を切り捨てていたという事。
「ハヤミ・・・マルク・・・」
夜は静かに更けてゆく。
「さて出発だ。みんな準備はいいね」
ショウの声に頷く一同。
「・・・お気をつけて、勇者様」
見送りは秘書官の男が一人。心配そうな顔で勇者一同に声をかけた。
今回魔王城に行くのはこの4人だけだ。無謀だと思うかもしれないが、少数には少数のメリットがある。
まず移動が早く、敵に発見されにくいという点。
軍団を移動させるとなるとどうしても時間がかかるし、敵に発見されやすくなり、迎撃の準備をする時間を与えてしまう。
少数精鋭による単機決戦。
無茶に見えるが勝算は十分だ。
「待ってくれ! その戦、私も連れて行ってくれないか?」
出発しようとする一団に声をかける男が一人。
振り返ったショウの眼に映ったのは、全身を頑丈な金属鎧で固めた大柄な戦士の姿だった。
「フリードリヒ将軍!? お体はもうよろしいのですか!?」
驚いた声を上げたのは秘書官の男。
その言葉でショウ達は目の前の男が話に聞いた将軍なのだと理解した。
「初めまして将軍。俺はショウ・カンザキ、勇者です。怪我をされたと聞きました。ここは俺たちに任せて休まれてはどうですか?」
ショウの言葉にフリードリヒは首を横に振った。
「こんな傷、怪我の内に入らんよ。私は戦える・・・否、戦わねばならん。負けたままで終われるものか!」
鬼気迫るその様子に説得は無理そうだと感じたのか、ショウは助けを求めるように背後の仲間達を見た。
そんな中発言をしたのは女騎士アンネ。
「よろしいのでは無いでしょうか? アヴァール王国のフリードリヒ・パトリオット将軍といえば、そのランスに貫けぬ物なしとまで言われる強者です。一緒に戦えるのなら心強いと思いますよ」
「・・・なるほど。アンネがそこまで言うならわかったよ。将軍、一緒に魔王軍を打ち倒しましょう」
こうして勇者一同にフリードリヒが加わった計五名の精鋭が集まった。
目指すは魔王城。
歴史の一ページが今刻まれようとしている。
◇
アヴァール王国に来た勇者一行を迎え入れてくれたのは、秘書官を名乗るちょび髭の中年男だった。
秘書官の男は勇者一行を迎え入れると王宮の応客間へ案内。この国のすぐ近くに居城を構えた魔王カプリコーンについての情報と、この国の現状について語り出す。
「・・・なるほど、お話はわかりました。俺たちの準備は出来ています明日にでもその魔王城に案内して頂けますか?」
ショウの言葉に秘書官は頷く。
「かしこまりました。では本日は皆さんを王宮の客室へご案内します。何か入り用のモノがあれば遠慮無く申しつけ下さい」
決戦は明日。
一同はそれぞれの思いを胸に秘め、今日という一日を終えるのであった。
「凄い・・・大きくて、ふわふわ」
シャルロッテはメイドに案内された部屋の豪華なベッドに横たわって、その感触に驚いた。
かつてマルクや速見とパーティを組んでいた時に泊まった宿はどれも安く、それどころかシングルの部屋を一つしか取れなくて、たった一つのごわごわしたベッドにシャルロッテが寝て男二人は床でいびきを掻いていた事もある。
あの時は一人ベッドを使う事を申しわけなく思ったモノだが、二人はがんとして彼女がベッドを使うべきだと言い張った。
懐かしい思い出。
もう戻らない
三人での旅の記憶・・・・・・。
「・・・あれ? 変だな」
気がつくとシャルロッテの頬は暖かな水で濡れていた。
あふれ出る涙はとめどなく、次から次へと湧き出してくる。
「・・・私、何やってるんだろ」
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でも違うのだ。
少なくともあの日描いた未来図で、シャルロッテは一人で泣くなんて事を考えていなかった
何かが違う・・・。
かつて彼女が願った未来と今の自分・・・。
「・・・ああ、そうか」
理解した・・・ようやくわかったのだ。
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「・・・そっか・・・そうだったんだ」
つまり自分はあの日から・・・速見を切り捨てたあの日から自らの手で自分の夢を切り捨てていたという事。
「ハヤミ・・・マルク・・・」
夜は静かに更けてゆく。
「さて出発だ。みんな準備はいいね」
ショウの声に頷く一同。
「・・・お気をつけて、勇者様」
見送りは秘書官の男が一人。心配そうな顔で勇者一同に声をかけた。
今回魔王城に行くのはこの4人だけだ。無謀だと思うかもしれないが、少数には少数のメリットがある。
まず移動が早く、敵に発見されにくいという点。
軍団を移動させるとなるとどうしても時間がかかるし、敵に発見されやすくなり、迎撃の準備をする時間を与えてしまう。
少数精鋭による単機決戦。
無茶に見えるが勝算は十分だ。
「待ってくれ! その戦、私も連れて行ってくれないか?」
出発しようとする一団に声をかける男が一人。
振り返ったショウの眼に映ったのは、全身を頑丈な金属鎧で固めた大柄な戦士の姿だった。
「フリードリヒ将軍!? お体はもうよろしいのですか!?」
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その言葉でショウ達は目の前の男が話に聞いた将軍なのだと理解した。
「初めまして将軍。俺はショウ・カンザキ、勇者です。怪我をされたと聞きました。ここは俺たちに任せて休まれてはどうですか?」
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「・・・なるほど。アンネがそこまで言うならわかったよ。将軍、一緒に魔王軍を打ち倒しましょう」
こうして勇者一同にフリードリヒが加わった計五名の精鋭が集まった。
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歴史の一ページが今刻まれようとしている。
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