パーティーから追放された中年狙撃手の物語

武田コウ

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竜殺し

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 宙に描かれる深紅の剣線、ショウの剣撃が無数にたたき込まれるも斬撃はその新緑の鱗に阻まれ致命傷に達しない。




「”ウォーターキャノン”」




 シャルロッテが上級魔法”ウォーターキャノン”を展開。




 圧縮された水の大砲が放たれるも、相手はゆうゆうとそれを回避する。




 ドラゴン




 ファンタジーの定番である異形。




 巨大なトカゲにも例えられるその姿は、しかし実際に見てみるとトカゲとは姿は似ていても全く別物であると感じさせる覇気を纏っていた。




 艶やかに光る新緑の鱗。




 鋭い爪と牙。




 その巨大なアギトからは、時折炎の息が漏れている。




 強いモンスターの代名詞と言っても過言で無いその存在と、勇者一同は対峙していた。




「うぉおおぉお!!」




 女騎士アンネが鋭い踏み込みからの渾身の一撃をドラゴンに見舞う。




 しかしドラゴンはその巨体に似合わぬ機敏さで翼を広げると、空中へ飛んで回避をした。そして空中でホバリングしながら吐き出すは、必殺のファイアブレス。




 アンネめがけて吐き出された灼熱のブレス。当たれば即死であろうそれを攻撃後の隙だらけなアンネには避けるすべがない。




 しかし後方で控えていた聖女カテリーナが、防護の奇跡を唱える。




「”プロテクション”」




 奇跡の行使により展開された薄青色の防護膜がアンネの身体を包み込む。遅れてアンネを飲み込んだファイアブレスは、プロテクションの防護によって阻まれ、アンネを傷つける事ができない。




「”ウィンドストーム”」




 シャルロッテが新たな魔法を展開。




 強大な魔力により練り上げられた暴風がドラゴンを襲う。




 直接的なダメージは見込めないが、空を飛ぶドラゴンはその暴風で一瞬身動きが取れなくなった。




 そしてその一瞬が命取りだ。




「煌めけ”暁の剣”」




 尋常ならざる脚力でショウはドラゴンの位置まで飛び上がりながら聖剣の真名を解放する。深紅に染まった聖剣の刀身がきらりと煌めき、そのままドラゴンの太首を切り落とした。




「俺たちの勝利だ!」




 華麗に着地したショウは聖剣を高らかに掲げ、ドラゴンの返り血に染まった顔をにこりと微笑ませるのであった。





































「竜殺しの栄誉に乾杯!」




 ドラゴンを倒した祝勝会。




 勇者一同はギルドの酒場に集まると、今日の大金星を祝って乾杯した。




 よほど腹が減っていたのか女騎士アンネは酒を一気に飲み干すと、目の前の料理をもの凄い勢いで食べ始める。




 それを苦笑いしながら見ていたシャルロッテは、ちびちびと自分のお酒を口に運んでいた。




「しかしドラゴンを倒せたとなると自分たちが強くなった実感がわくね」




 ショウの言葉に料理を口いっぱい頬張っていたアンネが力強く頷く。




「ほうふぇふねやふぁり」




「いやいやアンネ。口の中の食べ物は飲み込んでからしゃべろうよ」




 ショウに笑いながら注意され、もぐもぐと咀嚼をするアンネ。それを飲み込み終えると運ばれてきたおかわりの酒を一口飲んで口を潤してからしゃべり出す。




「そうですね、やはり竜殺しは騎士の栄誉・・・強さの象徴たる竜を倒す事は冒険者としても箔がつく事でしょう」




 うんうんと一人頷いているアンネ。




 騎士である彼女には竜殺しというものに特別な思い入れがあるのだろう。




「そうだね・・・俺的にはもうこのパーティの強さは十分整ったと思うんだ。そろそろ次のステージに進むべきだと思う」




 ショウの言葉にシャルロッテが恐る恐るといった風に尋ねた。




「あの・・・次のステージって何ですか?」




「ん? 決まってるでしょシャルロッテ。俺たちの目的は魔神の討伐。次のステージっていうのは魔神の手下たる魔王達の殲滅だよ」




 力強くそう言うショウの姿を見て、シャルロッテはぶるりと身を震わせた。




 ショウは・・・この勇者と自称する男は自分が負けるとはみじんも考えていないのだと悟ったのだ。




 魔王とは恐怖の象徴。




 力の最奥。




 たとえ単機でも国を滅ぼし得る脅威。




 魔神の手下であり、例え今複数の魔王が出現しているからといって侮って良い相手ではない。複数の魔王が出現し、未だ世界が滅んでいない事が奇跡に他ならないのだから。




「そうですね。勇者様、アナタが魔神を倒す運命にあるというなら必ずや神が魔王の元へとアナタを導くでしょう」




 柔らかい口調でそういうのは聖女カテリーナ。




 そしてシャルロッテは気がついた。




 勇者だけでない。 




 このパーティの自分以外の人間すべてが魔王など恐れていないのだ。




 シャルロッテは再び身体をぶるりと振るわせた。




(・・・私、生きて帰れるのかしら?)




 脳裏に浮かぶは幼なじみのマルクの顔。しかし彼はもうシャルロッテの側にはいない。




 そんな時、ギルドの受付嬢が勇者一同が座っている席に近寄ってきた。




「あっ、いたいた。ショウさん、ご指名の依頼が入ってますよ」




 名指しの依頼とは珍しい。




 ショウはその内容を受付嬢に尋ねる。




「えーとですね。えぇ!? これ、アヴァール王国の国王様からのご依頼です!!」




「国王様から!? どんな依頼なの?」




 嫌な予感がする。 




 シャルロッテはそう感じた。




「魔王カプリコーンの討伐依頼です!」




 勇者と魔王は戦う運命にある。




 それは抗いがたく、回避することが困難な世界の力によって二人は引き合うのだ。




 シャルロッテは誰にも聞こえない小さな声でその名を呼ぶのであった。




「・・・・・・マルク・・・」














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