パーティーから追放された中年狙撃手の物語

武田コウ

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目覚め

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 熱い




 心臓が凄まじい熱を持っているようで。鼓動をするたびにその熱が血管を通って全身に送り込まれる。




 毛細血管を通り抜け、じわじわと細胞の一つ一つにまで染みこんでくる。その熱はまるで速見の全身を焼いているように激しく、しかしそれは不思議と不快では無かった。




 一寸先も見えない暗闇の中、速見はぼんやりとした思考で考える。




 ここはどこか



 そして体中をめぐるこの熱は何なのか。




 答えは出ない。




 思考はぐるぐると巡り、しかしそれは要領を得ない。意味も無く、昔の記憶などが蘇ってくる。




 そう、あれはこの世界の生活にもなれてきた頃。




 さえない冒険者として何とか日々を食いつないでいた速見は、とある依頼で入った森でモンスターに襲われている孤児の子供を助けた。




 その子供があんまりにも死んだような目をしているのが気にくわなくて、速見はソイツを育てる事に決めのだった。




 抵抗するそのガキを幼なじみだという孤児の娘と供にボロ屋に引っ張っていき、湯を張った風呂に放り込んで汚れを落とす。




 その濡れた青い髪をくしゃくしゃに撫でて彼はにこりと笑うのだった。




「ほうら、汚れ落としたら良い男になったじゃねえか」




 ああ、そうだ。 




 それが二人との出会い。




 もう十年も昔の事だ・・・。




 そして速見は思い知る。




 あれほど帰りたいと望んでいた故郷で過ごした時と、この世界で過ごした時が同じだけの年数をこの身に刻んできたのだという事実を。




(ああそうか。俺はもうすっかりこの世界の住人になっちまってたんだな・・・)




 良い思い出も

 悪い思い出も




 この世界で過ごした20年の歳月は全てこの身に刻まれている。




 速見はそんな当たり前の事実になんとも言えない感慨を持ってため息をついた。




 それにしても熱い。




 先ほどから感じているこの熱は一体何なのか・・・。




 意識がだんだんとはっきりしてくる。




 速見はゆっくりと目を開き・・・




「おや、目を覚ましたね」




 見知らぬ女が速見の顔を覗き込んでいた。





































「・・・ここは?」




 速見の質問に女は肩をすくめた。




 紫色の髪がさらりと流れる。質素な服を着けているが、女の美しさが損なわれる事は無く、豊満な肉体も相まってその外見を妖艶に見せている。




「アタシの家・・・みたいな場所だね。死にかけていたアンタを介抱してやったのさ。ありがたく思いなよ」




 その見た目に似合わず、サバサバとした口調で答える女。




 速見はぐるりと周囲を見回すと、底が木で作られた簡素な部屋である事が確認できた。暖炉、木製の机と椅子、本のぎっしりと詰まった本棚。そして速見の寝ているベッド。速見が確認できたのはそれくらいで、女がどういう人物なのか判別する手がかりなどなかった。




「・・・助けてくれたようでありがとう。それにしても何であんな危険な山に居たんだ?」




 速見が気になっていたのはその点だった。




 あの山は”鬼”と呼ばれる危険な亜人の住処であり、地元の人間ならばそれは知っている筈だ。




 そんな危険な場所に何の用事があって行くというのか。




 しかし女は何でも無いことのようにさらりとその理由を述べた。




「何、簡単な話だよ。あの山の鬼を退治するためにドロア帝国の兵達が集まっているのは知っていたからね。鬼を退治するというなら多くの犠牲が出ることは間違いない。いくつか死体が欲しかったからあの山に行ったのさ」




「・・・死体だと?」




 ドクドクと心臓が早鐘を打つ。




 聞き間違えであって欲しい。速見とて自分の命を救ってくれた人物が悪人だとは思いたくない。




 だが女の放つ異様な雰囲気が、この女がただ者では無いと語っていた。




 速見の緊張した様子を見て微笑みを深める女に、速見は問いかけた。




「・・・あんたは何者だ?」




 その言葉を待っていたとばかりに顔を嬉しげに歪めた女は速見に向き直る。そして紅い舌でぽってりとした唇を舐めて湿らせると口を開いた。




「聞いて驚け人間。我こそは”魔神”。クレア・マグノリアだ・・・よろしくな?」










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