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物語の始まり

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「貴様が世界の命運を託すにたり得る男かどうかここで確かめてやる!」




 城の兵士達が訓練をする訓練場。




 その広い空間で剣を構えて殺意に満ちた視線でこちらを睨み付けてくるのは、銀色に輝く鎧に身を包んだ女騎士。




 燃えるような赤毛のショートヘアと、攻撃的なつり上がった目が活発な印象を与える美人。彼女はこの国の騎士長を任せられている凄腕だ。




 ショウは先ほど国王から与えられた、勇者にのみ扱えるという伝承の聖剣を構える。




 初めて手にした本物の刃は手のひらでずしりと重たかった。




 どうしてこんな事態になったのか、ショウ自身もよくわかっていないのだが。どうやら国一番の腕利きである騎士長を差し置いてぽっと出のショウにこの国の、世界の命運を託すという事が我慢ならないらしい。




(剣道の経験ならある。だけど真剣を使った立ち会いなんて初めてだ)




 そもそもショウの元いた世界・・・現代日本では女性が殺意を漲らせてこちらを睨み付けてくるなんて事もレアケースなのだが。




「覚悟!」




 そう言って女騎士は地を蹴った。




 5メートルほど離れていた距離が一瞬で詰められる。




(早すぎる!?)




 かつて見たことがないほど早く動く女騎士を前にショウは死を覚悟するが、体が勝手に反応して手にした聖剣で彼女の一撃を受け止めていた。




「まだまだ!」




 攻撃こそが最大の防御と言わんばかりに防御を全く考えず、嵐のような猛攻を仕掛けてくる女騎士。




 しかし今のショウにはその凄まじい猛攻が止まって見えるようだった。




 極限まで研ぎ澄まされた神経で、スローモーションのようにはっきりと見える彼女の剣を一撃一撃丁寧にたたき落としていく。




(おかしい・・・俺がこんなに強いはずがないのに・・・)




 考えられる可能性は二つ。




 まずは王から与えられたこの聖剣の効果で自身が強化されている。




 そしてもう一つ。




 この世界に召還される前。真っ白な空間で出会った彼。彼が言っていた「私の力が受け入れられる」という言葉・・・。




 どちらにせよショウはこの世界に召還された時点で大幅にその力が強化されている。




(まあ、ちょうど良いと考えよう。どちらにせよ、前のままの俺だったなら世界を救うなんて偉業は成し遂げられない)




 一撃も攻撃が通らない現状に業を煮やしたのか、女騎士が大ぶりの一撃を放った。




 威力はあるが隙だらけなその攻撃をショウはやすやすと回避して聖剣の切っ先を女騎士の首元に突きつけた。




「どうやら勝負ありですね」


































「では勇者ショウ、行きます」




 たくさんの人に見送られながら、ショウは今日旅に出る。




 背には王から貰った聖剣、腰には旅に必要な諸々が入ったポーチ。




 旅なんて初めての経験で、心中は不安でいっぱいだが泣き言を言っている暇なんてない。なにせ彼の旅には世界の命運が掛かっているのだから。




 見送ってくれる皆に背を向け歩き出したショウを呼び止める声が聞こえる。




「待ってくれ勇者!!」




 振り返ると先日手合わせをした女騎士がフル装備でこちらに走ってくる。




「騎士長さん? どうかしたんですか」




 女騎士は顔を真っ赤にしながら勇者の肩を掴んだ。




「私もその旅につれていけ!!」




 こうして世界を救うための勇者の物語は始まりを告げる。




 向かう先に待っているのは絶望か希望か。

 それはまだ誰にもわからない。











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