正義の方程式 ~ヒーローにあこがれた少年は気が付くと悪の親玉になっていた~

武田コウ

文字の大きさ
上 下
65 / 70

しおりを挟む
 国内最大規模の監獄であるハードシッププリズンにたどり着いたジェームズは、メグの予想が正しかった事を悟る。




 無残に破壊された監獄には炎が放たれて、大量の炎と供に煙がモウモウと舞い上がっている。周囲には大量の瓦礫と倒れている職員達の姿。




「・・・なんという事だ」




 すぐに倒れている職員の元へかけよって状態を確認するが、既にその職員は息絶えており、体はひどく冷たかった。




 ジェームズが静かな怒りに身を振るわせる中、背後から野太い怒鳴り声が鳴り響いた。




「待ってたぜぃヒーロー!」




 振り返るとそこに立っていたのは、大量の鉄くずを鎧のようにその身に纏った大柄な男の姿。体に張り付いた鉄くずのせいでその容姿は判別できないが、ジェームズはその男の正体に心当たりがあった。




「お前はまさか、喧嘩屋のクラウス・アーロンか?」




 前に同僚のルーカスが逮捕した能力者。




 ”喧嘩屋” クラウス・アーロン。




 周囲にある鉱物をその身に纏い、鎧のようにすることのできる強力な能力を持っているやっかいな犯罪者だ。




「その通り! 喧嘩しようぜヒーロー! 前にガンマスターには負けちまったが・・・今回の俺は前とは一味違う、見ろよこの鎧を!」




 そう叫んでバッと両手を大きく広げるクラウス。その体には恐らく元は車の部品であったと予想できる金属片が、鎧を形作っていた。




「今回はコンクリートなんてチンケな鎧じゃねえ! 鋼鉄の鎧だ! これならあのクソッタレなマシンガンも通さねえぜ!」




 自信満々な様子でそう叫ぶクラウスに、ジェームズはそっと抱いていた職員の死体を地面に下ろして冷静な瞳で彼を見据えた。




「大層な自身だが・・・今の私は少々気が立っている。大人しく投降するなら危害は加えないが・・・抵抗するなら何時もより手荒になってしまうぞ?」




「舐めんなよヒーロー! この最強の鎧に歯が立つならやってみろ!」




 そしてクラウスはジェームズに向かって走り出した。




 重い金属を身に纏っている割にその動きは軽やかで、彼の身体能力の高さがうかがえる。




「・・・よろしい。ならばこちらも手加減はすまい」




 ジェームズは向かってくるクラウスをひたと見据え、右足をグッと引いて体を半身にして構える。







”爪先の異端者”







 能力を発動したジェームズの爪先が硬化される。




 周囲の鉱石をその身に纏うクラウスの能力は強力なモノだ。上手く使えば武装した複数の警察を相手にしても勝利できるだけの凶悪さがあるだろう。




 ・・・しかし何事にも相性というものがあるのだ。




「・・・ぐふぅ!?」




 クラウスが苦悶の声を上げる。その腹部にはジェームズのトゥーキックが深々と突きささっていた。







 ”爪先の異端者”







 能力を発動した彼の爪先は ”この世のどんな物質よりも硬くなる”。




 あまりのダメージに気を失って倒れるクラウス。能力が強制的に解除され、その姿が顕わになった。




 地に伏した喧嘩屋の姿を見下ろしてジェームズは静かに呟く。




「相手が悪かったな喧嘩屋。これはお前が弱かった訳じゃ無い、単なる相性の問題だよ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...