55 / 70
刃
しおりを挟む
「ポール、アナタはとても良い子ね」
母はそう言って彼の頭を優しく撫でてくれた。
その柔らかな掌の感触と聞き慣れたソプラノボイスがとても心地よくて、母が褒めてくれるのなら自分はもっと良い子になろうとポールはそう思ったのだ。
ポール・T・ジャスティスは、裕福な家庭に生まれた一人っ子だ。小さな頃から正義感が強く、学校で喧嘩が起こったら仲裁に入り、捨てられた子猫を見つけたら拾ってくるような男の子だった。
正義感に溢れた彼の人生は、順風満帆だと言えただろう。
両親は優しく、学校では友も多くいた。毎日真面目に勉強をしているおかげで成績は良かったし、身長も同世代の子供達と比べて大きく運動が得意だった。
彼の人生は満たされていた。
そう、
あの日が来るまでは・・・。
とある日の学校の帰り道。ポールは同級生の男の子が、上級生の有名ないじめっ子に詰めよられているところを見てしまった。
その瞬間に、彼の中にある正義の心がメラメラと燃え上がる。
「何してるんだお前!」
そう言って駆け寄ったポールは、いじめっ子に対する怒りで我を忘れていた。呆気にとられているいじめっ子に掴みかかるとそのまま取っ組み合いの喧嘩に発展する。
相手は上級生。いかに同世代の中では背の高いポールといえども上級生の喧嘩自慢より大きい訳では無い・・・いじめっ子の顔には余裕の表情があった。
しかし彼は気がつかなかったのだ。ポールの中に眠る闘争本能に。
肉食の獣は本能的に、獲物をどの部分を攻撃したら仕留められるのかを悟っているという。ポールは喧嘩に関しては素人だ。しかし彼の才覚は、その性格とは反比例するように、人を壊すという事にかけて他の追随を許さぬほどに、天才的な能力を持っていた・・・。
知識があったわけでは無い。
しかしポールは的確にいじめっ子の顎を掌底で撃ち抜いて相手の動きを止め、そのまま地面に押し倒して馬乗りになった。
そこから先は一方的な蹂躙だった。
体が大きいとはいえ、いじめっ子もただの子供。近代格闘術の中でも難攻不落と言われているマウントポジションが覆せる筈が無く、泣きわめきながら、ただなすがままに殴られるだけだ。
気がつくと、ポールの足下には血だらけになったいじめっ子が小さなうめき声を発しながら転がっていた。
ポールは、返り血に塗れた自らの右手を呆然と見つめる。
そして彼はそのとき、正義の為に振るった自らの拳が人を傷つける刃にもなると悟ったのだ。
母はそう言って彼の頭を優しく撫でてくれた。
その柔らかな掌の感触と聞き慣れたソプラノボイスがとても心地よくて、母が褒めてくれるのなら自分はもっと良い子になろうとポールはそう思ったのだ。
ポール・T・ジャスティスは、裕福な家庭に生まれた一人っ子だ。小さな頃から正義感が強く、学校で喧嘩が起こったら仲裁に入り、捨てられた子猫を見つけたら拾ってくるような男の子だった。
正義感に溢れた彼の人生は、順風満帆だと言えただろう。
両親は優しく、学校では友も多くいた。毎日真面目に勉強をしているおかげで成績は良かったし、身長も同世代の子供達と比べて大きく運動が得意だった。
彼の人生は満たされていた。
そう、
あの日が来るまでは・・・。
とある日の学校の帰り道。ポールは同級生の男の子が、上級生の有名ないじめっ子に詰めよられているところを見てしまった。
その瞬間に、彼の中にある正義の心がメラメラと燃え上がる。
「何してるんだお前!」
そう言って駆け寄ったポールは、いじめっ子に対する怒りで我を忘れていた。呆気にとられているいじめっ子に掴みかかるとそのまま取っ組み合いの喧嘩に発展する。
相手は上級生。いかに同世代の中では背の高いポールといえども上級生の喧嘩自慢より大きい訳では無い・・・いじめっ子の顔には余裕の表情があった。
しかし彼は気がつかなかったのだ。ポールの中に眠る闘争本能に。
肉食の獣は本能的に、獲物をどの部分を攻撃したら仕留められるのかを悟っているという。ポールは喧嘩に関しては素人だ。しかし彼の才覚は、その性格とは反比例するように、人を壊すという事にかけて他の追随を許さぬほどに、天才的な能力を持っていた・・・。
知識があったわけでは無い。
しかしポールは的確にいじめっ子の顎を掌底で撃ち抜いて相手の動きを止め、そのまま地面に押し倒して馬乗りになった。
そこから先は一方的な蹂躙だった。
体が大きいとはいえ、いじめっ子もただの子供。近代格闘術の中でも難攻不落と言われているマウントポジションが覆せる筈が無く、泣きわめきながら、ただなすがままに殴られるだけだ。
気がつくと、ポールの足下には血だらけになったいじめっ子が小さなうめき声を発しながら転がっていた。
ポールは、返り血に塗れた自らの右手を呆然と見つめる。
そして彼はそのとき、正義の為に振るった自らの拳が人を傷つける刃にもなると悟ったのだ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
使えないと思った僕のバフはパッシブでした。パーティーを追い出されたけど呪いの魔導士と内密にペアを組んでます
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》一年間いたパーティーを役に立たないからと追い出されたマルリード。最初から持っている『バフ』の魔法が使えず、後付け魔法にお金をつぎ込んだばかりだった。しょんぼりとするマルリードだが、その後付け魔法で使えるようになった『鑑定』で、自分のステータスを見てみると驚きのステータスが表示された。
レベルと釣り合わない凄いHPや魔法のレベル。どうやらバフはパッシブだったようだ。このバフは、ステータスを底上げするだけではなく、魔法のレベルまで上げていた! それならと後付けで錬金も取得する事に。
それがマルリードの人生を大きく変える事になる――。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
【完結】一途すぎる公爵様は眠り姫を溺愛している
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
リュシエンヌ・ソワイエは16歳の子爵令嬢。皆が憧れるマルセル・クレイン伯爵令息に婚約を申し込まれたばかりで幸せいっぱいだ。
しかしある日を境にリュシエンヌは眠りから覚めなくなった。本人は自覚が無いまま12年の月日が過ぎ、目覚めた時には父母は亡くなり兄は結婚して子供がおり、さらにマルセルはリュシエンヌの親友アラベルと結婚していた。
突然のことに狼狽えるリュシエンヌ。しかも兄嫁はリュシエンヌを厄介者扱いしていて実家にはいられそうもない。
そんな彼女に手を差し伸べたのは、若きヴォルテーヌ公爵レオンだった……。
『残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました』『結婚前日に友人と入れ替わってしまった……!』に出てくる魔法大臣ゼインシリーズです。
表紙は「簡単表紙メーカー2」で作成しました。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる