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監獄
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”ハードシッププリズン”
それは強力な超能力を持つ凶悪犯罪者を収監する為に作られた、国内最大規模の監獄の名である。
収監された犯罪者はその罪の重さにかかわらず、全員が強固な造りの独房に入れられる。監視カメラでの24時間態勢での監視、さらに巡回する警備員は30分に一回のペースで独房を見て回るという徹底ぶりである。
一度収監されたら刑期が終えるまで出ることは不可能と呼ばれたその場所に、喧嘩屋のクラウス・アーロンは連行されてきた。
ひやりとした冷たい床の感触と両手を締め付ける手錠の不快な感覚。
クラウスはフンと大きく鼻を鳴らして独房に備え付けられた簡易的なベッドにどしりと腰を下ろした。
ゆっくりと独房内を見回す。灰色で統一されたつまらない壁、部屋の隅に洗面台とトイレが備え付けられている他は何も無かった。
「・・・退屈な場所だな」
クラウスはごろりとベッドの上に横になると目を閉じて先の喧嘩を思い浮かべた。
ガンマスター
自身の能力が発覚してから喧嘩で負けたのは生まれて初めての経験だ。そして、石の鎧を砕いたのも奴が初めてだった。
あの喧嘩は確かにクラウスの負けだった・・・だが、負けっぱなしで大人しくしているのは彼の主義に反する。
もう一度戦いたい。
あの男と、血肉躍るような喧嘩をしたい・・・。
クラウスは目を開いて灰色の天井を見上げた。
ため息をつく。
あのスリリングな喧嘩の後だとこの場所の退屈さが嫌に際立つのだ。
どれだけの時間が立ったのだろうか? いつの間にかうつらうつらと眠り込んでいたらしいクラウスは独房のドアが叩かれる音で目を覚ました。
面倒くさそうに片目を開いたクラウスは、頑丈なドアの小さく開かれた窓部分から、目つきの悪い見知らぬ男の顔が覗いているのを確認する。
「・・・なんだテメエ、見たところ刑務官じゃなさそうだが?」
男の纏っている雰囲気は明らかに裏の人間特有のものだ。クラウスが胡散臭げに問いかけると男はなんとドアの鍵を開けて中に侵入してきた。
今度こそクラウスは呆気にとられたようにぽかんと口を開ける。
全ての独房は監視カメラによって24時間監視されている。もしこの男が警察の関係者で無いとしたら、すぐに警報が鳴り響いてこちらに警察がかけこんでくる筈だ。
しかし依然として警報は鳴らず、不可解な無言を貫いている。という事は自分は釈放されるのだろうか? だが目の前の人物がまともな人間だとはとても思えなかった。
男は黒色をしたフード付きのパーカーを身につけており、深く被ったフードを外して静かに口を開いた。
「クラウス・アーロン、お前にとっておきの話をもってきた」
「・・・何だ? ここから出してくれんのか?」
「その通りだ・・・だが今じゃない」
「おお、そりゃあありがてえな。いつまで待てばいいんだい。五年? 十年? ちんたらしてたら刑期が終わって自然に外に出られるようになるぜ?」
しかし男はクラウスの軽口に答えずに伝えるべき事だけを簡潔に述べた。
「二週間後だ。二週間後にこのドアを破壊してやる。その代わりにお前にはある仕事を頼みたい」
「仕事? 良いぜ、出してくれるならやってやるよ。何をすればいい? 肩でも揉もうか?」
「簡単な仕事だ、お前は何も考えずに・・・やってきたヒーローを皆殺しにしろ」
ヒーロー。
男の口から放たれたその単語に、軽口を叩いていたクラウスは押し黙る。脳裏には先日のスリリングな喧嘩が繰り返し浮かんでいた。
「・・・またヒーローと喧嘩ができると?」
「もちろんだとも、遠慮するな。それにお前の能力が十分に発揮できるように、こちらでも用意をしておこう」
男の言葉に、クラウスはニヤリと喧嘩屋の凶暴な笑みを浮かべるのだった。
「・・・ああ、そりゃあスゲエや」
◇
それは強力な超能力を持つ凶悪犯罪者を収監する為に作られた、国内最大規模の監獄の名である。
収監された犯罪者はその罪の重さにかかわらず、全員が強固な造りの独房に入れられる。監視カメラでの24時間態勢での監視、さらに巡回する警備員は30分に一回のペースで独房を見て回るという徹底ぶりである。
一度収監されたら刑期が終えるまで出ることは不可能と呼ばれたその場所に、喧嘩屋のクラウス・アーロンは連行されてきた。
ひやりとした冷たい床の感触と両手を締め付ける手錠の不快な感覚。
クラウスはフンと大きく鼻を鳴らして独房に備え付けられた簡易的なベッドにどしりと腰を下ろした。
ゆっくりと独房内を見回す。灰色で統一されたつまらない壁、部屋の隅に洗面台とトイレが備え付けられている他は何も無かった。
「・・・退屈な場所だな」
クラウスはごろりとベッドの上に横になると目を閉じて先の喧嘩を思い浮かべた。
ガンマスター
自身の能力が発覚してから喧嘩で負けたのは生まれて初めての経験だ。そして、石の鎧を砕いたのも奴が初めてだった。
あの喧嘩は確かにクラウスの負けだった・・・だが、負けっぱなしで大人しくしているのは彼の主義に反する。
もう一度戦いたい。
あの男と、血肉躍るような喧嘩をしたい・・・。
クラウスは目を開いて灰色の天井を見上げた。
ため息をつく。
あのスリリングな喧嘩の後だとこの場所の退屈さが嫌に際立つのだ。
どれだけの時間が立ったのだろうか? いつの間にかうつらうつらと眠り込んでいたらしいクラウスは独房のドアが叩かれる音で目を覚ました。
面倒くさそうに片目を開いたクラウスは、頑丈なドアの小さく開かれた窓部分から、目つきの悪い見知らぬ男の顔が覗いているのを確認する。
「・・・なんだテメエ、見たところ刑務官じゃなさそうだが?」
男の纏っている雰囲気は明らかに裏の人間特有のものだ。クラウスが胡散臭げに問いかけると男はなんとドアの鍵を開けて中に侵入してきた。
今度こそクラウスは呆気にとられたようにぽかんと口を開ける。
全ての独房は監視カメラによって24時間監視されている。もしこの男が警察の関係者で無いとしたら、すぐに警報が鳴り響いてこちらに警察がかけこんでくる筈だ。
しかし依然として警報は鳴らず、不可解な無言を貫いている。という事は自分は釈放されるのだろうか? だが目の前の人物がまともな人間だとはとても思えなかった。
男は黒色をしたフード付きのパーカーを身につけており、深く被ったフードを外して静かに口を開いた。
「クラウス・アーロン、お前にとっておきの話をもってきた」
「・・・何だ? ここから出してくれんのか?」
「その通りだ・・・だが今じゃない」
「おお、そりゃあありがてえな。いつまで待てばいいんだい。五年? 十年? ちんたらしてたら刑期が終わって自然に外に出られるようになるぜ?」
しかし男はクラウスの軽口に答えずに伝えるべき事だけを簡潔に述べた。
「二週間後だ。二週間後にこのドアを破壊してやる。その代わりにお前にはある仕事を頼みたい」
「仕事? 良いぜ、出してくれるならやってやるよ。何をすればいい? 肩でも揉もうか?」
「簡単な仕事だ、お前は何も考えずに・・・やってきたヒーローを皆殺しにしろ」
ヒーロー。
男の口から放たれたその単語に、軽口を叩いていたクラウスは押し黙る。脳裏には先日のスリリングな喧嘩が繰り返し浮かんでいた。
「・・・またヒーローと喧嘩ができると?」
「もちろんだとも、遠慮するな。それにお前の能力が十分に発揮できるように、こちらでも用意をしておこう」
男の言葉に、クラウスはニヤリと喧嘩屋の凶暴な笑みを浮かべるのだった。
「・・・ああ、そりゃあスゲエや」
◇
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