上 下
44 / 70

アイドル

しおりを挟む
「みんなー! 今日は私の為に集まってくれてありがとー!」




 ふりふりの可愛いステージ衣装を身に付けたエマはアイドルとしてのステージに立っていた。




 ヒーローの仕事をしている時の、凜としたクールな彼女はそこに無い。

 トップアイドルとしてファンのみんなを楽しませる、アイドル(偶像)としての可愛らしい姿は、他の追随を許さない完璧なモノだった。




 エマは仕事に対して妥協をしない。




 例え彼女の本質が、みんなから愛されるアイドルとは全く真逆なクールなビジネスウーマンだったとしても、可愛さ溢れる完ぺきなアイドルを演じる事ができるのだ。




 歓声が鳴り響く。




 客席のボルテージは最高潮だ。




「それじゃあ最初の曲・・・”キスミー・マイダーリン”!」




 エマの代表曲。




 思わず楽しくなるようなポップなミュージックが流れてきてエマはリズムに合わせて華麗なステップを踏んだ。




 目指していたモノでは無い。




 それでもエマはアイドル活動が嫌いな訳では無かった。




 華やかなステージ、ファン達と一緒に盛り上がるライブの一体感・・・それは確かにエマの目指していたモノとは違って、それでも掛け替えのない今なのだから。




 しかしエマは歌を歌いながら異変に気がついた。




 客席に空席が目立つ。




 この会場はそこまで規模の大きなモノでは無く、エマの人気であれば満席は当たり前なのだがどうやら今回のライブは満席では無いらしい。




 心当たりはあった。




 きっと最近始めたヒーロー活動のせいだ。




 ファンの全員がエマがヒーローになることに肯定的では無い事は知っていた。アイドルがヒーローの活動をすることについて世間の目が冷たい事も知っている。




 ポップな歌詞の歌を歌いながら、エマの心は少しずつ冷えていくようだった。

























「お疲れ様エマ、今日のステージ良かったわよ」




 マネージャーが労をねぎらいながら、ライブを終えたエマにスポーツ飲料の入ったペットボトルを渡してきた。




 エマは「ありがとう」と小さく礼を言ってそれを受け取ると、キャップを外して少し甘めの液体を口に流し込む。




 よく冷えたスポーツ飲料が火照った体に心地よかった。




「・・・今日は空席が目立ったわね」




 エマのその呟きに、隣に立っていたマネージャーはため息をついた。




「エマ・・・その理由は自分でもわかっているんでしょ?」




 マネージャーのその言葉に、エマは無言で視線を逸らした。




「・・・はぁ。エマ、私は今でもアナタのヒーロー活動には反対よ。それがアナタの夢だったということは知ってる。でもこれからもアナタがアイドルとして活動するのならヒーローの仕事はマイナスにしかならないわ」




「・・・・・・そんなこと、わかっているわ」




 エマは小さな声でそう言って、飲みかけのペットボトルを机に置いた。




「・・・シャワー浴びてくる」




 理解していた。




 ヒーローとして活動したのなら大なり小なりアイドルとしての活動に影響があることは分かっていた。




 エマはシャワーに打たれながら小さくため息をついた。




「・・・・・・中途半端ね、私は」




 わかっていた筈なのに、とてつもなく悔しいのだ。




 結局自分は夢の為に全てを捨てる覚悟でヒーローになったのに、アイドルとしての自分も捨て切れてないのだから。




























 エマは先ほどのライブでの憂鬱な気持ちを引きずりながら、ヒーロー達が拠点としている軍事施設に出勤した。




 ライブの後のヒーロー活動というのはかなりのハードスケジュールだが、泣き言は言っていられない。




「おはようございます。エマ・R・ミラーただいま出勤致しました・・・」




 挨拶をしながら事務室の扉を開けると、そこには見慣れぬビジネススーツ姿の女性が立っていた。




「初めましてエマ・R・ミラーさん。私は本日よりこの部隊に配属されましたオペレーターのメグ・アストゥートと申します。以後お見知りおきを」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...