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「・・・アナタは?」




 ポールはかすれた声で尋ねた。




 見たところ警察では無さそうだ。それどころか男は柔和な笑みを浮かべてはいるモノの、カタギの人間では無いようにすら思えた。




 その柔らかな笑みの裏側に、隠しきれない狂気が潜んでいるような圧をポールは感じ取ったのだ。




「私の名前はジョセフ、ジョセフ・ボールドウィンだ・・・まあ名前などどうでもいいか。君の問いに答えようポール・T・ジャスティス」




 ジョセフは真っ直ぐな目線でポールの瞳を覗き込む。




 何もかもが見透かされたような気がして少し居心地が悪くなった。




「・・・そうだな。私という存在を一言で表すのならば・・・”正義の味方になり損ねたモノ” とでも言おうか」




 正義の味方に・・・なり損ねた・・・。




 ポールはジョセフが言った言葉を頭の中で繰り返す。何故かその言葉は、モヤが掛かったように正常に働いていないポールの思考の奥底に、ストンと抵抗なく入り込んでくるようだった。




「ポール、私の顔に醜い火傷の跡があるだろう? 私は幼少の頃に大きな火事に巻き込まれてしまってね、この傷はその時に負ったモノなんだ」




 ジョセフは静かな声で語り始める。




「我が愛しき母君は、大火事の中幼い私の手をふりほどいて一人でサッサと逃げてしまった・・・炎の燃えさかる建物の中で取り残された幼い少年。生存は絶望的だ。だがそんな生きることを半ば諦めた私の前に颯爽と現れたのは一人のヒーローだった」




 そう語り聞かせるジョセフの目は、まるで輝かしい過去を懐かしむかのように優しく細められていた。




「その時私は初めて正義を知った・・・そして憧れたさ、”正義の味方” ってやつにね」




 そしてジョセフはゆっくりと自身の懐に手を入れると中から安物のハロウィンマスクを取り出すと何故かそのままマスクを被った。




 不気味なゴム製のマスクは、まるでソレが彼の本当の顔であるかのような表情をして、違和感なくその立ち姿に馴染んでいる。




「・・・しかし残念ながら私は正義を行う事ができなかった。正義を行おうと試みる度に、炎の中私の手を振り払った母親の姿が頭を過ぎって・・・そして世界を憎んでしまうんだ」




 今ジョセフはどんな表情を浮かべているのだろうか。




 自身の過去を語るその声は淡々としており、表情の無いゴム製のマスクだけが不気味にポールを見つめている。




「どうやら私は正義に憧れる事はできても、正義を行う事は出来ない人間らしい」




 皮肉げにそう言ったジョセフの言葉に、ポールは雷に打たれたような衝撃を受けた。




 気がついてしまったのだ。




 目の前のこの男は自分と同じなのだと。




「ポール、君のことは調べさせて貰ったよ・・・どうやら君も私の同類らしいね」




 ジョセフの視線がちらりとポールの腕に向けられる。




「体を刃に変化させる能力・・・素晴らしい力だ。その力を私の目的のために貸してはくれないだろうか?」




「・・・アナタの目的?」




「ああ」




 そこでジョセフは一呼吸置いて、ゆっくりとポールの元まで歩み寄る。




 ポールの肩に手をおいて、ジッと目線を合わせた。




「正義になりそこねた我々が、悪を持って正義に問いを投げかけるのさ」














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