上 下
36 / 70

石男

しおりを挟む
「っつ!? 嬢ちゃん!」




「ええ! わかっています!」




 こんな大衆の面前で、しかも相手は見るからに戦闘に特化した能力者。ここで暴れられては周囲の人間に危害が及んでしまう。




 ならばここはルーカスが相手の足止めをしている間にサポート役であるエマが市民達を避難させるのが定石。




 短い言葉の応酬だけでやるべき事を把握したエマは声を張り上げて避難の誘導を開始した。




「悪いね、気を遣って貰って。・・・まあ別に一般人に危害を加えるつもりは無かったんだがな」




 シレッとそんな事をいうクラウスにルーカスはシニカルな笑みを浮かべながら背負っていたアサルトライフルを構えると警告を発した。




「一応警告しておいてやる。俺はヒーローの中で最も手加減が苦手な男だ、殺しはしないつもりだが大怪我を負うことは間違いないだろう・・・投降する気はあるか? 今なら無傷で済むぜ?」




「さみしいこと言うなよヒーロー。言っただろ? 俺は喧嘩をしに来たんだよ!」




 そう言って駆け出すクラウス。




 重い石の鎧を身に付けているだけあってその速度はそれほど速く無い・・・否、全身に石を纏って普通の速度で動けるだけ凄まじいというべきか。




 ルーカスは短く息を吐いてライフルの引き金に指をかけた。




 照準を合わせ、一気に引き金を引き絞る。




 乾いた破裂音と供に連続して放たれる銃弾の雨。それはルーカスの正確な照準能力によって全弾がクラウスの身体に命中する。




「ハッハッハ! 無駄無駄ぁ!」




 しかし当のクラウスはそんな銃撃は意に介さないとばかりにスピードを落とさずに突っ込んでくる。着弾した弾は石の鎧をわずかに削るモノの本体には届いていない。




 一気に距離を詰めたクラウスがその腕を振るう。




 動作が丸わかりの素人の拳。正式に訓練を積んでいるルーカスに通じる筈も無く、しゃがんで拳を空振りさせたルーカスは銃を地面に置いて伸びきっているクラウスの腕を掴み、そのまま担ぎ上げるようにして投げ飛ばした。




 フワリと宙に浮いたクラウスは重力に引っ張られて勢いよく地面に墜落する。石の鎧とコンクリで固められた道路がぶつかって重い音が響き渡った。




 ルーカスは銃を拾い上げて一旦距離を取る。




 銃を構えながら肩で大きく息を切らしていた。




(ヤバいなコイツ・・・さっき投げ飛ばした時、かなりの重量を感じた・・・あの石の鎧、相当な厚みがあるな)




 そっと周囲の状況を確認する。




 とっさの出来事で混乱している市民を避難させるのは時間が掛かる。完全に避難が終わるまではもうしばらくかかりそうだ。




(やっかいだな・・・俺の本気は周囲に被害が出すぎる)




 ならば市民の避難が終わるまで真正面からこの石の怪物と対峙しなくてはならないという事だろう。ルーカスは気を入れ直して銃を構えた。




「あーあ、いいのかね気軽に地面を破壊しちまって」




 ひょいと身軽に起き上がったクラウスがそんな事を言った。




 見るとクラウスが投げ飛ばされたコンクリートの道路が幾分か砕かれており、そこいらにコンクリートの破片が散らばっていた。




「何を言っているのかわからねえって顔してるな? いいぜ、気分が良いから特別に教えてやるよ」




 そしてクラウスは再び能力を発動する。




 地面に散らばっていたコンクリートの破片がフワリと宙に浮き、クラウスの身体に引っ張られるようにして石の鎧に組み込まれた。




「注意しろよヒーロー。周囲に瓦礫が出来れば出来るほど俺は強くなってくぜ?」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?

名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」 「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」 「それは貴様が無能だからだ!」 「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」 「黙れ、とっととここから消えるがいい!」  それは突然の出来事だった。  SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。  そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。 「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」 「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」 「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」  ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。  その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。 「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに

千石
ファンタジー
魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。 ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。 グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、 「・・・知ったからには黙っていられないよな」 と何とかしようと行動を開始する。 そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。 他の投稿サイトでも掲載してます。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

私のスキルが、クエストってどういうこと?

地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。 十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。 スキルによって、今後の人生が決まる。 当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。 聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。 少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。 一話辺りは約三千文字前後にしております。 更新は、毎週日曜日の十六時予定です。 『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。

ファットマンズアフタースクール

ぴえ
キャラ文芸
ある日、突然、今、この瞬間に不思議な能力に目覚めたら? その能力は限られた人物にしか与えられないとしたら? その能力を持っている者は優遇され、持っていない者は淘汰される未来が待っているとしたら? でも、その未来にたどり着くには大切な人が死ななければならないとしたら? これは貴方達にとって最善の未来を壊す物語。

処理中です...