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助け合い

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「ボールドウィンさん! 先日会社に不審者が侵入したという事ですがその事件について一言いただけますか?」




 黒塗りの高級車から降りてきた人物にマスコミの人間達が群がっていく。




 その人物こそ警備会社クイックリー警備の社長、ジョセフ・ボールドウィンである。




 すらりと痩せた身体にピッタリとした仕立ての良い黒のスーツを纏い、髪は多量の整髪料でオールバックにまとめられている。




 幼い頃に巻き込まれたという火事の後遺症で顔の右半分は醜く焼けただれているが、それを除けば比較的整っている顔をしているといえるだろう。




 ジョセフは通り道を塞ぐように群がってくるマスコミ達にニッコリと人当たりの良い笑顔を浮かべた。




「これから仕事がありますので長い時間は無理ですが・・・せっかく集まって頂いたのです。少しの時間でよろしければお答え致しましょう」




 紳士的なその態度に質問をした女性記者が頬を赤く染める。




「で、では先日の事件についてコメントをお願いします」




「はい、先日の事件ですね。書類を整理していた時でしたが私も驚きました。まさか警備会社のビルに押し入ってくる暴漢がいるとは・・・まあ我々も職業柄こういった手合いの扱いには慣れておりますので警察が来る前に捕縛することができました」




「侵入者の男は能力者であるという噂がありますが」




「その辺りの話は後日警察から発表があるでしょう・・・申し訳ありませんがこれ以上は私の口から言えませんね」




「なるほど、お忙しい所ありがとうございました・・・それで、本日は警察庁で長官と会談があるとの事でしたが一体何についての話し合いでしょうか」




 そう、この場所は警察庁の前である。




 ジョセフはその質問に対して不敵な笑みを浮かべて答えを言った。




「何、我々が集まるという事は会談の内容は決まっているようなモノです。 ”街の平和を守るため” の話し合いですよ」

























「わざわざお越し頂いてすいませんボールドウィンさん」




 そう言って右手を差し出したのは警察庁長官のデイヴィッド・バイゴッド(52)。




 少し垂れた目を細めて柔和な笑みを浮かべた彼は、とても警察には見えない優しげな中年と言った雰囲気を醸し出していた。




「いえいえこちらこそ貴重なお時間を頂いてありがとうございますバイゴッド長官」




 ジョセフはデヴィッドの右手を握って挨拶をする。互いにひとしきり挨拶を終えた所で四角いテーブルを挟んで互いに質の良い革張りの椅子に腰掛けた。




「それで、本日はどのようなお話でしょうか?」




 デイヴィッドは今回の会談の内容について知らされていない。ジョセフに大事なお話があるから時間を空けておいてくれとだけ伝えられたからだ。




「・・・長官、先日私のビルに暴漢が侵入した事件はご存じでしょうか?」




「ああ聞いている。実に嘆かわしい事件だ。本当にお気の毒だよ」




「まあすぐに犯人は拘束したので問題は無いのですが・・・まず思い出して頂きたいのが私の会社は警備会社であるという事実です」




「・・・つまりはどういう事かな?」




 眉をひそめたデイヴィッドにジョセフは真剣なまなざしで口を開く。




「警備会社にすら侵入しようとする暴漢が現れた・・・残念ながら街の治安は悪化しているようです。頼みの綱のヒーローもここ最近は失敗続き、あまり期待しすぎるのもよくないでしょう」




「確かに。ヒーローは軍の直属だから出動するのに少し時間がかかります・・・まあ国のイメージアップが目的の部隊ですから多くを期待しすぎるのもどうかと思いますが」




 ジョセフはグッと身を乗り出して声のトーンを落とした。ここから先の会話は重要な話になるとその仕草で示したのだ。




「長官、私が心配しているのはですね。警備会社が襲われたという事はこの警察庁も100パーセント安全とは言い切れないのでは無いかという事です」




「何を馬鹿な・・・」




 しかしデイヴィッドはその言葉を途中で飲み込んだ。ジョセフが心配している事もあり得ない話ではないと思えたのだ。




「そこでです。我々の会社との連携をより深めていきませんか? 何か事件が起こったときに互いに助け合えるように結びつきを強く持ちたいのです・・・街の平和のためにね」




「それは・・・確かに・・・ふむ・・・しかし」




 何か考え込むデイヴィッドにジョセフはわかっているというように頷きながら優しく声をかけた。




「ええ悩むのもわかります。いかに規模が大きいとは言え、我々の会社は民間のモノですからね・・・あなた方警察が一企業と仲良くするのは色々とマズいでしょう」




「・・・そうですね。確かに色々とマズい」




「しかし考えて欲しいのです。これから能力者による犯罪は激化していくでしょう。それに対抗するためには皆で協力するより他に無いという事を」




 強い意志を感じさせる言葉だ。




 しかしそれでもデイヴィッドは簡単に首を縦には振らなかった。当たり前だろう。気持ちの上では賛成していても彼には立場というモノがある。こんな重要な事を簡単には決められないのだ。




「すぐに答えは出ないでしょう。我々としてもゆっくりと互いに歩み寄って行ければと思っております・・・まずは手始めに互いの社員を交換研修に出すというのはいかかでしょうか? お互いの動き方を学べれば得るものも多いと思われます」




「・・・アナタの熱意は伝わりました。了解です。何とか他の者も私が説得しましょう。こちら側としても少しずつですが歩み寄れるように努力致します・・・街の平和の為に」




 そして二人は硬い握手を交わした。




 しかしデイヴィッドは気がつかなかったのだ。ジョセフが浮かべたその柔らかな笑みの奥に確かな狂気が潜んでいる事に。











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