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悪の敵
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バンと乱暴に開かれた社長室のドア。
その中は意外なほどに薄暗く、電灯の類いは一切付けられていなかった。部屋の中央に設置されたデスクの上、起動しているPCの画面だけが仄かな光源となって部屋を照らしている。
「ドアを開ける前にノックくらいして欲しいものだね」
そこに座っていたのは安物のハロウィンマスクをつけたスーツ姿のやせた男。突然の訪問者に驚いた様子も無く平然としている。
「・・・お前がクイックリー警備の社長、ジョセフ・ボールドウィンで間違いないな」
ウルフの言葉に男・・・ジョセフは鷹揚に頷く。
「いかにも。私こそがジョセフ・ボールドウィンだ」
それだけわかれば十分だ。
ウルフはその瞳に殺意を漲らせて一歩前に進む。
「君は噂の狼男だね・・・ずいぶんと私の組織に被害を与えてくれたものだよ。パワーに足止めを頼んだのだけれど彼はどうしたんだい?」
「殺した。次はお前の番だ」
「おお怖い。君は何故私を殺すのだ?」
「悪は滅びねばならない」
「だから君が断罪すると? 神にでもなったつもりかい? 私に言わせれば君の行為は正義からほど遠い」
ウルフは戯れ言を言うジョセフを冷たい目線で見据えた。
「勘違いするな。俺は正義の味方などでは無い」
「ほう、ならば君は何者かな?」
ウルフは一言一言確かめるようにその言葉を口にした。まるでそれは自分自身に言い聞かせているようにも聞こえる。
「俺は・・・・・・悪の敵だ」
正義の味方ではない
悪の
敵
ウルフはギラリと鋭い爪を光らせて右手の指をゴキリと鳴らす。
「さて、そろそろ死ぬ準備は良いか?」
「良くないな。できるだけ戦闘は避けたいのだけれど話し合いに応じる気はあるかい?」
ジョセフの言葉にウルフは首を左右に振る。
「邪悪・・・滅ぶべし!」
その巨大なアギトをカパリと開きぬらぬらと唾液に塗れた犬歯をむき出しにする。両手の鉤爪はその一本一本がよく切れるナイフのように鋭く光り、ウルフは大きく跳躍して座ったままのジョセフに襲いかかった。
必殺の威力を秘めた牙が、爪が無防備なジョセフ目がけて振るわれる。ジョセフは回避する様子も見せず、このまま次の瞬間には無残に切り裂かれるのではと思われたその瞬間、大きく右手を掲げたジョセフがパチンと指を鳴らした。
「グギャァアアアア!?」
宙にいたウルフの全身が瞬時に燃え上がる。
その炎は激しくウルフの全身を焼き、彼は大きな悲鳴を上げて床に転げ回る。しかし炎は一向に消える様子を見せず、しばらく暴れていたウルフが力尽きて静かになった頃、何事も無かったかのように炎は消え失せるのだった。
床には黒く焦げたウルフの姿。
かろうじて息をしているがいつ死んでもおかしくないほどの重傷だ。
「ああ、だからなるべく戦闘は避けたいと言ったんだ」
ジョセフは静かに立ち上がると床に転がっているウルフの頭に足を乗せた。まるで汚らわしいものを見るかのように彼を見下ろすと、革靴でグリグリと踏みつける。
「嫌いなんだよ、炎は」
ズキリとマスクの下の火傷跡が疼くのだった。
◇
その中は意外なほどに薄暗く、電灯の類いは一切付けられていなかった。部屋の中央に設置されたデスクの上、起動しているPCの画面だけが仄かな光源となって部屋を照らしている。
「ドアを開ける前にノックくらいして欲しいものだね」
そこに座っていたのは安物のハロウィンマスクをつけたスーツ姿のやせた男。突然の訪問者に驚いた様子も無く平然としている。
「・・・お前がクイックリー警備の社長、ジョセフ・ボールドウィンで間違いないな」
ウルフの言葉に男・・・ジョセフは鷹揚に頷く。
「いかにも。私こそがジョセフ・ボールドウィンだ」
それだけわかれば十分だ。
ウルフはその瞳に殺意を漲らせて一歩前に進む。
「君は噂の狼男だね・・・ずいぶんと私の組織に被害を与えてくれたものだよ。パワーに足止めを頼んだのだけれど彼はどうしたんだい?」
「殺した。次はお前の番だ」
「おお怖い。君は何故私を殺すのだ?」
「悪は滅びねばならない」
「だから君が断罪すると? 神にでもなったつもりかい? 私に言わせれば君の行為は正義からほど遠い」
ウルフは戯れ言を言うジョセフを冷たい目線で見据えた。
「勘違いするな。俺は正義の味方などでは無い」
「ほう、ならば君は何者かな?」
ウルフは一言一言確かめるようにその言葉を口にした。まるでそれは自分自身に言い聞かせているようにも聞こえる。
「俺は・・・・・・悪の敵だ」
正義の味方ではない
悪の
敵
ウルフはギラリと鋭い爪を光らせて右手の指をゴキリと鳴らす。
「さて、そろそろ死ぬ準備は良いか?」
「良くないな。できるだけ戦闘は避けたいのだけれど話し合いに応じる気はあるかい?」
ジョセフの言葉にウルフは首を左右に振る。
「邪悪・・・滅ぶべし!」
その巨大なアギトをカパリと開きぬらぬらと唾液に塗れた犬歯をむき出しにする。両手の鉤爪はその一本一本がよく切れるナイフのように鋭く光り、ウルフは大きく跳躍して座ったままのジョセフに襲いかかった。
必殺の威力を秘めた牙が、爪が無防備なジョセフ目がけて振るわれる。ジョセフは回避する様子も見せず、このまま次の瞬間には無残に切り裂かれるのではと思われたその瞬間、大きく右手を掲げたジョセフがパチンと指を鳴らした。
「グギャァアアアア!?」
宙にいたウルフの全身が瞬時に燃え上がる。
その炎は激しくウルフの全身を焼き、彼は大きな悲鳴を上げて床に転げ回る。しかし炎は一向に消える様子を見せず、しばらく暴れていたウルフが力尽きて静かになった頃、何事も無かったかのように炎は消え失せるのだった。
床には黒く焦げたウルフの姿。
かろうじて息をしているがいつ死んでもおかしくないほどの重傷だ。
「ああ、だからなるべく戦闘は避けたいと言ったんだ」
ジョセフは静かに立ち上がると床に転がっているウルフの頭に足を乗せた。まるで汚らわしいものを見るかのように彼を見下ろすと、革靴でグリグリと踏みつける。
「嫌いなんだよ、炎は」
ズキリとマスクの下の火傷跡が疼くのだった。
◇
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